2013年01月31日
森見登美彦作品を読む1
遅ればせながら今回は、森見登美彦氏の作品をいくつか、独断と偏見で紹介させていただく次第。
といいつつ、デビュー作「太陽の塔」は次男に貸してて手元になく、表紙画像が撮れてましぇんが・・・
ひょんなことから、偶然この作品の存在を知り、読んでみてすっかりハマってしまい、最近は氏の作品を、
(あくまで古本屋で)見つけては楽しんでいるとゆー次第。
とりあえず今までに読んだ作品の一部をさくさくっと、しかも思いつくままご紹介します・・・
このサイトの「書斎」カテゴリでは、アウトドア関係以外はなるべくアップしないようにしてるんですが、
ひさしぶりにハマってしまったもので、みなさんに感想を伝えたくなって、ついつい・・・
以下、あらすじ部分や引用部分もありますので、初心で読みたい方は青色部分をとばしてお読みくださいね。
「太陽の塔」
1970年、一面の竹藪だった大阪・千里丘陵を切り開いて開催された「日本万博」のシンボルモニュメント・・・
を、タイトルにした小説であります。・・・
2003年・新潮社刊、2006年・新潮文庫刊の作品であります。わたくしは文庫版で読みました。
氏のデビュー作で大学院在学中に出版されたもの、2003年のファンタジーノベル大賞受賞作品であります。
お話は・・・
3回生のときに、彼女ができかけたもののやがてフラれ、それから2年間、ほぼ自主休学状態となり、
四畳半の下宿に籠って、なぜ彼女は自分と別れたか、なぜ自分は彼女に恋したか、とゆーテーマについて、
研究レポートをまとめるため・・・と称し、彼女の生活を日夜観察し続けている5回生の日常生活のお話・・・
って、これ、世間一般ではストーカーなんですが、本人はあくまで学問的研究対象に過ぎないと主張している・・・
とゆー設定からして、まず面白いんですよね・・・
で、サークルの風変わりな先輩や後輩との不可解な関係、さらにモノに対する執着やそのウンチクがあったり、
不思議な場所に現れる叡山電鉄と彼女の出現とが交錯したりと、ファンタジーとしての展開もあったりで・・・
夏目漱石の草枕の冒頭を彷彿とさせるような、古今東西の博識に基づく格調高い文体によって描かれる・・・
文庫版解説の本上まなみ氏によると、「へもい」若者の、まあ、じつにしょーむない日常なんですが・・・
舞台は京都の出町柳から百万遍あたりを中心に、せいぜい半径1km程度の範囲で、下宿と大学の周辺、
たまに四条河原町あたりの繁華街や大阪・梅田あたり、それにタイトルの太陽の塔までは出てきますが、
まあ、著者のゆーところの「スモールワールド」のお話であります。
京都で「へもい」学生生活を送った者なら、思わず「うぐぐぐ」となってしまいますし、その経験のない方でも、
ともかく「へもい」青春の経験者なら(まあ、大部分がそうでしょうが・・・)、「うぐっ」ぐらいは必ずなるでしょう。
作品の時代とわたくしが過ごした時代とでは、30年近いズレがありますが、下宿やサークルの雰囲気、
風変わりな先輩や後輩、じょしへの憧れなど、まったく時代のズレを感じさせない「へもさ」なのでありますね。
わたくし以前、某サークルの創立40周年記念行事に参加したことがありましたが、そのとき現役生に抱いたイメージ、
「キミたち、まったく進化とゆーもんはないんかいっ!!!」
といった、なんともいえないムズ痒さと懐かしさを感じさせてくれる作品で、ファンタジーとしても楽しめました。
現物が手元にないため、とりとめなく書きましたが、ともかくこの一作で、氏の作品にハマってしまった次第。
「四畳半神話大系」
2008年・角川文庫版であります。氏の第二作で単行本は2004年・太田出版の刊行であります。
ご覧の文庫版表紙(カバー)絵のとおり、下鴨神社と糺の森とラーメン屋台に囲まれた古い下宿が世界の中心、
とゆー舞台設定はまったく同じで、主人公や登場人物もほぼ前作同様なのですが、さすがに第二作になって、
主人公の「へもさ」がより洗練され、物語や他の登場人物も、さらにエスカレートしています。
2010年にアニメ化、テレビ放映されて評判になり、当年度の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で、
なんと大賞を受賞したようですが、わたくし当時はこの作品そのものを知りませんでした。
最近になって知人のDVDで、全11話をいっきに観ましたが、小説とは別の作品としてもけっこう楽しめました。
アニメ作品としての質も高く、製作スタッフのセンスのよさが窺われ、大賞を受賞したのも頷けました。
まあわたくしのトシでは、登場人物が小説に較べてちと軽すぎて、もう少し硬派のキャラにしてくれたら・・・
とゆー感じはしましたが、ともかく面白くて表現も新鮮、こちらも一見の価値はあると思います。
DVDとブルーレイで出てるようですので、機会があればアニメ作品もぜひ・・・
で、小説のほうは、全四話がそれぞれ「パラレルワールド」になっており、主人公が3回生の春に、これまで2年間、
「異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石をことごとくはずし、
異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは
なにゆえであるか。」
と、自問自答し一回生の春に遡って、それぞれ異なるサークルに入会するところから、各話がはじまります。
「 」内は本文をそのまま引用しましたが、主人公の独白は全編こんな感じで、この格調の高い文体と、
あのとき、こっちのサークルに誘われたのが悪い、あっちのサークルに入っておれば・・・うじうじ・・・といった、
なんとも情けない、あまりにも「へもい」行動との対比が、わたくし大好きになったのであります。
で、一回生の春の時点で、第一話は怪しい映画サークルに入った場合、第二話は怪しい先輩の弟子になった場合、
第三話は怪しいソフトボールサークルに入った場合、第四話は怪しい秘密組織に入った場合、と設定が変わり、
(ま、選択するシチュエーションの狭さそのものが、いかにも主人公の「へもさ」を表わしており・・・)
それぞれ物語が展開していくのですが、どの世界でも、結局は同じ悪友や怪しい先輩らと知り合うことになり、
特に第四話では、この四話の世界を含む無限パラレルワールドに踏み込むことになるのですが・・・
どんなシチュエーションになっても、なんら大きな変化のないまま、無為に三回生の春を迎えていたとゆー・・・
まあ、各話のラストで「恋の予感」の暗示があるのですが、なにせ3回生の春の出来事ですから、
そこから前作「太陽の塔」の冒頭に続くとしたら、すぐにフラれて、もっと「へもい」生活になるわけで・・・
パラレルワールドもので、徹底して狭隘な世界に終始する作品とゆーのはわたくしはじめて、読み返してみて、
あっとゆーよーな想定外の展開を、主人公自身がさりげに排除しているのに気づいた時、この作品の巧みさと、
与えられた条件が変わっても、同じ(へもい)方向に向いてしまう、主人公の恐るべき「へもさ」に魅了されました。
各話が交錯する構成もよくできており、その点でも楽しく読めましたが、やはり散りばめられた小道具が秀逸で、
これが京都の風物詩と四畳半の下宿とゆーキーワードで、じつにうまく繋げられているのにも感心しました。
また、これは「サマータイムマシンブルース」とゆー映画作品を見たときにも、なんとなく感じたことなんですが、
「SF小説のほんとの面白さを知っている人」が、それをわざと外して作ったのでは、と、勘ぐってしまいました。
「夜は短し歩けよ乙女」
2006年・角川書店刊、こちらは単行本ですが、2008年・角川文庫から文庫版も刊行されてます。
ご覧のとおり、こちらはダ・ヴィンチのブックオブザイヤー各部門1位や山本周五郎賞、本屋大賞2位になった作品。
また、この作品は直木賞候補にもなってて、まさに総ナメ作品だったんですね・・・わたくし知りませんでした。
こちらも舞台は同じ、主人公は3回生で、1回生の黒髪の乙女に恋する設定、カブる他の登場人物も多いです。
主人公の妄想と現実がよりエスカレートしてるとゆーか、設定そのものがファンタジーになってるのに、
あくまで舞台や登場人物は一作目二作目と同じく狭い世界・・・とゆーのがなかなかへもいすごい。
また、この作品は、「私」の独白と「彼女」の独白が交互に出てくる独特の構成になっています。
この手法で二人の内面と現実のスレ違いなんぞをうまく描いているのもなかなかのもの・・・
で、お話は・・・
第一章は、当初は独立した短編として発表されたもので、京都の木屋町や先斗町あたりの繁華街が舞台・・・
3回生の5月の終わりに、同じサークルの1回生である「黒髪の乙女」に話しかけるきっかけを作るために、
彼女も出席する(かも知れない)サークルのOBの結婚祝賀会へ、いそいそと出かけるところから始まります。
で、その夜一夜の、「私」と彼女の行動が、交互の独白によってリアルタイムに描かれています。
わたくしには、宴会になじむ学生となじめない学生の様子も懐かしかったのですが、やはり読ませるのは、
祝賀会終了後、しばらく躊躇した末に、木屋町や河原町あたりの狭い路地なんぞを、一人で飲み歩く決心をして、
一人で店に入ったり、様々な人々と出会ったりして、結局、夜明けまで楽しくさわやかに飲み歩いてしまった、
黒髪の乙女である一回生じょしの独白、とゆー部分で、これがとてもかわゆくて新鮮でした。
こりゃあ、主人公が一目惚れするはず・・・と思わせるような、素敵なじょしの素敵な一夜として描かれており、
彼女が主人公の短編としても、たしかに素晴らしい作品になっています。
その分、この章の「私」のほうは、酔いつぶれて終わるだけの、どーしようもない「へもい」存在なんですが・・・
第二章は、その夏の下鴨神社での古本市が舞台・・・
彼女が古本市に来る(かも知れない)、との情報を得た「私」が、やはり彼女と話すきっかけを作るため、
今度は彼女が手を伸ばした本に、偶然を装って自分も手を伸ばしてから、やさしくその本を譲り、
それをきっかけにラムネを飲みに誘うとゆー、きわめて用意周到な計画!を立てた上で、
いそいそと彼女との出会いを求めて、古本市に出かけるところからはじまります。
この、彼女を誘うための計画についての「私」の妄想を、本文そのままで引用させていただくと・・・、
「天が私に与えた才覚を持ってすれば、事はきわめて容易だ。万事はおのずから私の思い描いた通りの
経過を辿らざるを得ない。その先にあるのは黒髪の乙女とともに歩む薔薇色のキャンパスライフである。
我ながら一点の曇りもない計画で、じつに行雲流水のごとく、その展開は見事なまでに自然だ。」
と、例の格調高い文体で自画自賛しているのですが、やろうとしていることはじつにしょーもないことで・・・
この章では物語としての展開もありますが、わたくしには、本に執着する人たちの描写や、登場する本たちが、
ひょっとして著者の趣味と合うのか、はたまた本好きなら誰でも同じ道筋なのか、やたら共感をよびました・・・
で第三章は、その年の秋の学園祭が舞台・・・
この半年間、彼女と話すきっかけを作るためにあらゆる努力をしてきた「私」が、学園祭で盛り上がるキャンパスを、
ひたすら彼女を探してひとり寂しく彷徨い、やがて、客観的に見ればアクションスターばりの状態となって、
(本人はきわめて冷静沈着なつもりで)必死に彼女を追いかけるとゆーお話なんですが・・・
交互に出てくる彼女の独白は、あくまで、はじめての学園祭に萌えた乙女のお話として描かれています。
学園祭独特の雰囲気と、それになじむ学生となじめずに孤立する学生の様子がじつにいきいきと描かれ、
やはり懐かしさで胸がいっぱいになりました。まさに甘酸っぱくて、ほろ苦い青春・・・
って、わたくしにそんな青春あったっけ・・・思い出すのはほろ苦さだけやないかいっ・・・ううっ
第四章では、冬になり風邪をひいて高熱状態となった「私」が、いよいよ妄想と現実の区別がつかなくなり、
開き直って、逆にそれを利用して物語を自分に有利な方向へと展開していこうとゆー・・・
お話そのものも、現実と妄想の区別がだんだんつかなくなっていく構成になっています。
で、ラストは二人の初デート、とゆーハッピーエンド・・・なんですが・・・
この作品でも、主人公は三回生ですから、ここからも第一作の「太陽の塔」に続くとすると、やはりフラれて、
「へもい」生活に戻るわけで・・・ひょっとして、全てが「へもい」メビウスの輪になってたのかっ???
この最終章の展開には、人によっては物足りなさがあるかも知れませんが、わたくしはファンタジーとして、
きわめて上質の作品になったと感じましたし、ラストの余韻にも感動してしまいました。
前二作とちがって、彼女の独白があるため、同じ状況なのに、それを純真に素直に受け入れていく素敵な彼女と、
その状況をひねくれて受け止め、いろんな妄想を繰り広げては行動が遅れてしまう「私」との対比が面白く、
今までの大学の先輩、後輩、友人といった人物以外にも、けっこう個性的な役割を与えてるのも新鮮でした。
今回は京都での「へもい」学生生活が舞台の3作を紹介しましたが、現在のところ、あと3作ほど読みましたので、
いずれまた機会があれば、紹介させていただきたいと思っています。
といいつつ、デビュー作「太陽の塔」は次男に貸してて手元になく、表紙画像が撮れてましぇんが・・・
ひょんなことから、偶然この作品の存在を知り、読んでみてすっかりハマってしまい、最近は氏の作品を、
(あくまで古本屋で)見つけては楽しんでいるとゆー次第。
とりあえず今までに読んだ作品の一部をさくさくっと、しかも思いつくままご紹介します・・・
このサイトの「書斎」カテゴリでは、アウトドア関係以外はなるべくアップしないようにしてるんですが、
ひさしぶりにハマってしまったもので、みなさんに感想を伝えたくなって、ついつい・・・
以下、あらすじ部分や引用部分もありますので、初心で読みたい方は青色部分をとばしてお読みくださいね。
「太陽の塔」
1970年、一面の竹藪だった大阪・千里丘陵を切り開いて開催された「日本万博」のシンボルモニュメント・・・
を、タイトルにした小説であります。・・・
2003年・新潮社刊、2006年・新潮文庫刊の作品であります。わたくしは文庫版で読みました。
氏のデビュー作で大学院在学中に出版されたもの、2003年のファンタジーノベル大賞受賞作品であります。
お話は・・・
3回生のときに、彼女ができかけたもののやがてフラれ、それから2年間、ほぼ自主休学状態となり、
四畳半の下宿に籠って、なぜ彼女は自分と別れたか、なぜ自分は彼女に恋したか、とゆーテーマについて、
研究レポートをまとめるため・・・と称し、彼女の生活を日夜観察し続けている5回生の日常生活のお話・・・
って、これ、世間一般ではストーカーなんですが、本人はあくまで学問的研究対象に過ぎないと主張している・・・
とゆー設定からして、まず面白いんですよね・・・
で、サークルの風変わりな先輩や後輩との不可解な関係、さらにモノに対する執着やそのウンチクがあったり、
不思議な場所に現れる叡山電鉄と彼女の出現とが交錯したりと、ファンタジーとしての展開もあったりで・・・
夏目漱石の草枕の冒頭を彷彿とさせるような、古今東西の博識に基づく格調高い文体によって描かれる・・・
文庫版解説の本上まなみ氏によると、「へもい」若者の、まあ、じつにしょーむない日常なんですが・・・
舞台は京都の出町柳から百万遍あたりを中心に、せいぜい半径1km程度の範囲で、下宿と大学の周辺、
たまに四条河原町あたりの繁華街や大阪・梅田あたり、それにタイトルの太陽の塔までは出てきますが、
まあ、著者のゆーところの「スモールワールド」のお話であります。
京都で「へもい」学生生活を送った者なら、思わず「うぐぐぐ」となってしまいますし、その経験のない方でも、
ともかく「へもい」青春の経験者なら(まあ、大部分がそうでしょうが・・・)、「うぐっ」ぐらいは必ずなるでしょう。
作品の時代とわたくしが過ごした時代とでは、30年近いズレがありますが、下宿やサークルの雰囲気、
風変わりな先輩や後輩、じょしへの憧れなど、まったく時代のズレを感じさせない「へもさ」なのでありますね。
わたくし以前、某サークルの創立40周年記念行事に参加したことがありましたが、そのとき現役生に抱いたイメージ、
「キミたち、まったく進化とゆーもんはないんかいっ!!!」
といった、なんともいえないムズ痒さと懐かしさを感じさせてくれる作品で、ファンタジーとしても楽しめました。
現物が手元にないため、とりとめなく書きましたが、ともかくこの一作で、氏の作品にハマってしまった次第。
「四畳半神話大系」
2008年・角川文庫版であります。氏の第二作で単行本は2004年・太田出版の刊行であります。
ご覧の文庫版表紙(カバー)絵のとおり、下鴨神社と糺の森とラーメン屋台に囲まれた古い下宿が世界の中心、
とゆー舞台設定はまったく同じで、主人公や登場人物もほぼ前作同様なのですが、さすがに第二作になって、
主人公の「へもさ」がより洗練され、物語や他の登場人物も、さらにエスカレートしています。
2010年にアニメ化、テレビ放映されて評判になり、当年度の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で、
なんと大賞を受賞したようですが、わたくし当時はこの作品そのものを知りませんでした。
最近になって知人のDVDで、全11話をいっきに観ましたが、小説とは別の作品としてもけっこう楽しめました。
アニメ作品としての質も高く、製作スタッフのセンスのよさが窺われ、大賞を受賞したのも頷けました。
まあわたくしのトシでは、登場人物が小説に較べてちと軽すぎて、もう少し硬派のキャラにしてくれたら・・・
とゆー感じはしましたが、ともかく面白くて表現も新鮮、こちらも一見の価値はあると思います。
DVDとブルーレイで出てるようですので、機会があればアニメ作品もぜひ・・・
で、小説のほうは、全四話がそれぞれ「パラレルワールド」になっており、主人公が3回生の春に、これまで2年間、
「異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石をことごとくはずし、
異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは
なにゆえであるか。」
と、自問自答し一回生の春に遡って、それぞれ異なるサークルに入会するところから、各話がはじまります。
「 」内は本文をそのまま引用しましたが、主人公の独白は全編こんな感じで、この格調の高い文体と、
あのとき、こっちのサークルに誘われたのが悪い、あっちのサークルに入っておれば・・・うじうじ・・・といった、
なんとも情けない、あまりにも「へもい」行動との対比が、わたくし大好きになったのであります。
で、一回生の春の時点で、第一話は怪しい映画サークルに入った場合、第二話は怪しい先輩の弟子になった場合、
第三話は怪しいソフトボールサークルに入った場合、第四話は怪しい秘密組織に入った場合、と設定が変わり、
(ま、選択するシチュエーションの狭さそのものが、いかにも主人公の「へもさ」を表わしており・・・)
それぞれ物語が展開していくのですが、どの世界でも、結局は同じ悪友や怪しい先輩らと知り合うことになり、
特に第四話では、この四話の世界を含む無限パラレルワールドに踏み込むことになるのですが・・・
どんなシチュエーションになっても、なんら大きな変化のないまま、無為に三回生の春を迎えていたとゆー・・・
まあ、各話のラストで「恋の予感」の暗示があるのですが、なにせ3回生の春の出来事ですから、
そこから前作「太陽の塔」の冒頭に続くとしたら、すぐにフラれて、もっと「へもい」生活になるわけで・・・
パラレルワールドもので、徹底して狭隘な世界に終始する作品とゆーのはわたくしはじめて、読み返してみて、
あっとゆーよーな想定外の展開を、主人公自身がさりげに排除しているのに気づいた時、この作品の巧みさと、
与えられた条件が変わっても、同じ(へもい)方向に向いてしまう、主人公の恐るべき「へもさ」に魅了されました。
各話が交錯する構成もよくできており、その点でも楽しく読めましたが、やはり散りばめられた小道具が秀逸で、
これが京都の風物詩と四畳半の下宿とゆーキーワードで、じつにうまく繋げられているのにも感心しました。
また、これは「サマータイムマシンブルース」とゆー映画作品を見たときにも、なんとなく感じたことなんですが、
「SF小説のほんとの面白さを知っている人」が、それをわざと外して作ったのでは、と、勘ぐってしまいました。
「夜は短し歩けよ乙女」
2006年・角川書店刊、こちらは単行本ですが、2008年・角川文庫から文庫版も刊行されてます。
ご覧のとおり、こちらはダ・ヴィンチのブックオブザイヤー各部門1位や山本周五郎賞、本屋大賞2位になった作品。
また、この作品は直木賞候補にもなってて、まさに総ナメ作品だったんですね・・・わたくし知りませんでした。
こちらも舞台は同じ、主人公は3回生で、1回生の黒髪の乙女に恋する設定、カブる他の登場人物も多いです。
主人公の妄想と現実がよりエスカレートしてるとゆーか、設定そのものがファンタジーになってるのに、
あくまで舞台や登場人物は一作目二作目と同じく狭い世界・・・とゆーのがなかなか
また、この作品は、「私」の独白と「彼女」の独白が交互に出てくる独特の構成になっています。
この手法で二人の内面と現実のスレ違いなんぞをうまく描いているのもなかなかのもの・・・
で、お話は・・・
第一章は、当初は独立した短編として発表されたもので、京都の木屋町や先斗町あたりの繁華街が舞台・・・
3回生の5月の終わりに、同じサークルの1回生である「黒髪の乙女」に話しかけるきっかけを作るために、
彼女も出席する(かも知れない)サークルのOBの結婚祝賀会へ、いそいそと出かけるところから始まります。
で、その夜一夜の、「私」と彼女の行動が、交互の独白によってリアルタイムに描かれています。
わたくしには、宴会になじむ学生となじめない学生の様子も懐かしかったのですが、やはり読ませるのは、
祝賀会終了後、しばらく躊躇した末に、木屋町や河原町あたりの狭い路地なんぞを、一人で飲み歩く決心をして、
一人で店に入ったり、様々な人々と出会ったりして、結局、夜明けまで楽しくさわやかに飲み歩いてしまった、
黒髪の乙女である一回生じょしの独白、とゆー部分で、これがとてもかわゆくて新鮮でした。
こりゃあ、主人公が一目惚れするはず・・・と思わせるような、素敵なじょしの素敵な一夜として描かれており、
彼女が主人公の短編としても、たしかに素晴らしい作品になっています。
その分、この章の「私」のほうは、酔いつぶれて終わるだけの、どーしようもない「へもい」存在なんですが・・・
第二章は、その夏の下鴨神社での古本市が舞台・・・
彼女が古本市に来る(かも知れない)、との情報を得た「私」が、やはり彼女と話すきっかけを作るため、
今度は彼女が手を伸ばした本に、偶然を装って自分も手を伸ばしてから、やさしくその本を譲り、
それをきっかけにラムネを飲みに誘うとゆー、きわめて用意周到な計画!を立てた上で、
いそいそと彼女との出会いを求めて、古本市に出かけるところからはじまります。
この、彼女を誘うための計画についての「私」の妄想を、本文そのままで引用させていただくと・・・、
「天が私に与えた才覚を持ってすれば、事はきわめて容易だ。万事はおのずから私の思い描いた通りの
経過を辿らざるを得ない。その先にあるのは黒髪の乙女とともに歩む薔薇色のキャンパスライフである。
我ながら一点の曇りもない計画で、じつに行雲流水のごとく、その展開は見事なまでに自然だ。」
と、例の格調高い文体で自画自賛しているのですが、やろうとしていることはじつにしょーもないことで・・・
この章では物語としての展開もありますが、わたくしには、本に執着する人たちの描写や、登場する本たちが、
ひょっとして著者の趣味と合うのか、はたまた本好きなら誰でも同じ道筋なのか、やたら共感をよびました・・・
で第三章は、その年の秋の学園祭が舞台・・・
この半年間、彼女と話すきっかけを作るためにあらゆる努力をしてきた「私」が、学園祭で盛り上がるキャンパスを、
ひたすら彼女を探してひとり寂しく彷徨い、やがて、客観的に見ればアクションスターばりの状態となって、
(本人はきわめて冷静沈着なつもりで)必死に彼女を追いかけるとゆーお話なんですが・・・
交互に出てくる彼女の独白は、あくまで、はじめての学園祭に萌えた乙女のお話として描かれています。
学園祭独特の雰囲気と、それになじむ学生となじめずに孤立する学生の様子がじつにいきいきと描かれ、
やはり懐かしさで胸がいっぱいになりました。まさに甘酸っぱくて、ほろ苦い青春・・・
って、わたくしにそんな青春あったっけ・・・思い出すのはほろ苦さだけやないかいっ・・・ううっ
第四章では、冬になり風邪をひいて高熱状態となった「私」が、いよいよ妄想と現実の区別がつかなくなり、
開き直って、逆にそれを利用して物語を自分に有利な方向へと展開していこうとゆー・・・
お話そのものも、現実と妄想の区別がだんだんつかなくなっていく構成になっています。
で、ラストは二人の初デート、とゆーハッピーエンド・・・なんですが・・・
この作品でも、主人公は三回生ですから、ここからも第一作の「太陽の塔」に続くとすると、やはりフラれて、
「へもい」生活に戻るわけで・・・ひょっとして、全てが「へもい」メビウスの輪になってたのかっ???
この最終章の展開には、人によっては物足りなさがあるかも知れませんが、わたくしはファンタジーとして、
きわめて上質の作品になったと感じましたし、ラストの余韻にも感動してしまいました。
前二作とちがって、彼女の独白があるため、同じ状況なのに、それを純真に素直に受け入れていく素敵な彼女と、
その状況をひねくれて受け止め、いろんな妄想を繰り広げては行動が遅れてしまう「私」との対比が面白く、
今までの大学の先輩、後輩、友人といった人物以外にも、けっこう個性的な役割を与えてるのも新鮮でした。
今回は京都での「へもい」学生生活が舞台の3作を紹介しましたが、現在のところ、あと3作ほど読みましたので、
いずれまた機会があれば、紹介させていただきたいと思っています。
この記事へのコメント
1. Posted by 川端 2013年01月31日 18:18
「へもい」ってのが初見の言葉です。"愛すべき卑屈さ"みたいな使い方でしょうか?
だとしたら、基本ネガティブなものをキャッチーな言葉でポジティブなイメージに変化させ、ある意味中庸なり悟りなり的な、むしろ建設的であるとさえ思わせるという日本語の妙。
例えば"自分探し"とか"自分へのご褒美(はぁと)"みたいな。端的には"ニート"みたいのと似たようなかほりがするマジックワードですねm(_ _)m
未読なんですが、面白いですか?
あらすじだとすごい暗くて鬱というか、主人公なんかえらく偏屈そうな(^^;
けれど、どうやら明るい、笑えるお話ですよ。なんならホンワカ系ですよってな表紙ですね。どっちなんだろう?
あるいはどっちにも読めたりするのかしら?
だとしたら、基本ネガティブなものをキャッチーな言葉でポジティブなイメージに変化させ、ある意味中庸なり悟りなり的な、むしろ建設的であるとさえ思わせるという日本語の妙。
例えば"自分探し"とか"自分へのご褒美(はぁと)"みたいな。端的には"ニート"みたいのと似たようなかほりがするマジックワードですねm(_ _)m
未読なんですが、面白いですか?
あらすじだとすごい暗くて鬱というか、主人公なんかえらく偏屈そうな(^^;
けれど、どうやら明るい、笑えるお話ですよ。なんならホンワカ系ですよってな表紙ですね。どっちなんだろう?
あるいはどっちにも読めたりするのかしら?
2. Posted by 98k 2013年01月31日 21:07
>川端さん
「へもい」・・・文庫版解説の本上まなみ氏の造語だそうで、中途半端にまじめで消極的なくせに自己中心的で見栄っ張りで、
まあ、それゆえにしっかりした年上の女性からみるといとおしい若者・・・といったところでしょうか。
まさにこの三作の登場人物にぴったりな表現で、やってることは、じつにしょーむないことなんですよね。
鴨川にずらっと等間隔に座ってるカップルたちに対岸から打ち上げ花火を飛ばすとか・・・
まあ、一言でゆーと、この三作は「学園モノ・青春ドタバタラブコメディ・ホンワカ清純派ファンタジー」といったところで、
それが格調高い文体で語られるとゆー、なんとも不思議な面白さがありました。
もちろん、ほかにもまた違った味わいもあって、ほんとに楽しめましたよ。
「へもい」・・・文庫版解説の本上まなみ氏の造語だそうで、中途半端にまじめで消極的なくせに自己中心的で見栄っ張りで、
まあ、それゆえにしっかりした年上の女性からみるといとおしい若者・・・といったところでしょうか。
まさにこの三作の登場人物にぴったりな表現で、やってることは、じつにしょーむないことなんですよね。
鴨川にずらっと等間隔に座ってるカップルたちに対岸から打ち上げ花火を飛ばすとか・・・
まあ、一言でゆーと、この三作は「学園モノ・青春ドタバタラブコメディ・ホンワカ清純派ファンタジー」といったところで、
それが格調高い文体で語られるとゆー、なんとも不思議な面白さがありました。
もちろん、ほかにもまた違った味わいもあって、ほんとに楽しめましたよ。
3. Posted by alaris540 2013年02月03日 00:27
ウ~ン、私の現在進行形はじつにしょーむないドタバタなだけで青春もラブコメもホンワカも清純もありませんねェ。
ヘモには「痔(hemorrhoids)」の意味もありますので、本書とは関係なく言葉だけが独り歩きしたりして。
ヘモには「痔(hemorrhoids)」の意味もありますので、本書とは関係なく言葉だけが独り歩きしたりして。
4. Posted by 98k 2013年02月03日 00:45
>alaris540さん
まあ、ドタバタとホラーは紙一重ですから、これからも頑張って下さい・・・(意味不明)
つーことで「へもい」とゆーのは、痔疾患者の形容詞形だったんですね・・・(違)
まあ、ドタバタとホラーは紙一重ですから、これからも頑張って下さい・・・(意味不明)
つーことで「へもい」とゆーのは、痔疾患者の形容詞形だったんですね・・・(違)