2021年08月29日
世界標準の戦争と平和・・・
(お知らせ)
左バーに「98kのつぶやき(Twitter)」を追加しました。Twitterでもフォローいただければ嬉しいです。
今回は「世界標準の戦争と平和」とゆー本のご紹介・・・


烏賀陽弘道 著 扶桑社 2019年11月20日 初版第1刷発行
著者は朝日新聞社を退社後、フリーランスの報道記者・写真家として活動されてる方だそうで、
わたくしはalaris540さんブログへのコメントがきっかけで本書の存在を知りました。
例によって目次のみのご紹介・・・


まえがきによれば・・・
・「日本の外の世界では共通理解になっているいちばんベーシックな話」をこの本でシェアしたい
・世界では共通理解になっている知識や現実を知らないままの人たちがスローガンや空論を唱え、
ネットやテレビで有名になり影響力を行使している
・国内での安全保障の議論は対立軸だけで政治家・官僚も大差なく「知的空白」が続いた
・世界標準で通用する論者もいるが本書のような基礎的なことは(共通理解として)飛ばして、
各論から論じているので、一般人には「よく分からない」となっているのが歯痒い
・語学には文法と語彙があるが、この本の内容は国際安全保障政策論の基本文法にあたり
学校教育の英語でいえば中学校の英語レベル
・語彙として個別のテーマもあるが、文法さえマスターすれば別のテーマにも適用できる
・私を「右・左」「保守・リベラル」「与党・野党」「護憲・改憲」「平和主義・軍国主義」
といった既存カテゴリーに分類することは不可能で、そういった思考は現実理解には排除すべき
・安全保障は国の政策で老人介護や保育所と同じ、アジェンダ(公的な議題)として軽重はない
・官僚とか政治家とか専門家に任せておけばよいという時代は終わったと考えている
・ブログやSNSで誰もが発言者になれる時代に「安全保障のベーシックなリテラシー」を
身につけておくことはメディア・リテラシーとして不可欠ではないか・・・
・・・つーことで、確かに高校生にも分かりやすく平易に書かれてました。
さらに文明史の一環として軍事史や兵器史についても比較的興味のあったわたくしでも、
「にゃーるほど」と、あらためて納得させられた事実も多く、とても勉強になりました。
著作物なので詳しくは紹介できませんが、以下わたくしの部分的な「語彙」のメモです。
ご覧いただき少しでも興味を持たれた方には本書の熟読をオススメします。
で、わたくしの思い違いなどをご指摘いただければ、さらにありがたいです。
(一部引用部分もありますので掲載に問題があるようなら、すぐに削除します。)
第一章 海と核兵器
・安全保障で陸と海に空が加わったのは約100年前から、宇宙が加わったのが1950年代以降、
サイバー空間が加わったのは2000年前後以降だが、今でも最も重要なのは海
→地球では海が71%で陸は29%、海は繋がっており国境もなく重いものを大量に安価に運べる
→領海以外の接続水域・排他的経済水域・国際海峡(宗谷・対馬・津軽・大隅)は公海なのだが、
他府県ナンバーが目前の国道を通過した!!! 私有地には入ってないけど、と騒ぐマスコミが多い
→私有地に突っ込んだわけでもないのに、何故わざと騒ぎたてるのか・・・
・日本では核兵器をアジェンダにしない・否定しかしない・効用を認めない、が一般的だが、
国際政治の環境では大戦前の人類と大戦後の人類との違いは「核兵器の有無」だけ
・核兵器のある国(同盟国を含む)では平和と繁栄を享受、ない国では通常兵器での虐殺が続く
→これは大量破壊兵器に守られたグロテスクな平和でもある(代理戦争かテロか)
→人類は「核ある平和」か「核なき虐殺」しか手にしたことがないのが国際社会の現実
・アメリカの安全保障政策の大学院はロースクールと同じで即戦力になる専門職の養成所
→国際政治経済学の理論や学説を学ぶ大学院とはまったくの別物
→学長による基礎講義は「国際政治を動かすルールは軍事力、特に核兵器を中心とした
核戦略である」からはじまった。ちなみに彼は現実主義者ではなく国際機関主義者
→冷戦・二極化構造が終わっても多極化が広まり混迷するだろうと27年前に言ってた
→当時の日本には学者も国際関係学部も少なく特に軍事の領域はタブーだった
(ちなみに98kは軍事史を専攻したかったけど当時はなかったので政治史(文明史)を専攻
)
・核のルールはアメリカが超大国だからではなく国際政治を動かす「世界標準」の基本文法
・担当教授の1日目の授業は「核兵器の作り方」からだった
・核を搭載したICBMと爆撃機と潜水艦SLBMのセット→冷戦時代に相互確証破壊MADが完成
→どれが欠けても抑止力としては機能しない→すべて揃えてるのは2019では米露だけ
→残りの核保有国で英仏中3ヶ国は最低でも潜水艦SLBMは持っている→報復能力はある
→それ以外の国が核武装しても自殺行為に等しい→ただし自滅前提や事故による可能性は残る
→SLBM原潜を中核とした核の保険を持っている国以外には持たせない→核兵器不拡散条約
→その代わりNATO、ワルシャワ条約機構、日米安全保障条約などで核の傘に入る
→それに反対して核保有する印パ北朝鮮などは国際政治での発言権がないのが現実
・戦勝国の5ヶ国が合意し実行しない限り核廃絶はなく、そのための国際機関もない
→「核兵器による国家生存の保証」は運転時の自動車保険と同じで加入するのが現実的選択
・アメリカ空母群の概要(略)→グローバルリーチ→外交のシグナリングに(台湾総統選挙時など)
・航行の自由作戦→国際法は慣習の積み重ねに過ぎず、常に積み重ねないと崩壊する
・日本は戦後政治意思として軍事力を行使したことがなく、戦前は政治と離れて活動したので
別物として扱われているが、世界標準では政治と軍事は境目のない一体のもの
→政治ツールとしての軍事は破壊力を伴わない役割が多い
・シーレーン→国際貨物輸送量の85%が海上輸送(日本は99.7%)
→航行の自由は戦後変わらずアメリカの軍事力で守られており他の選択肢はない
→アメリカは自国の利益のため(自由への)逆行もするが、これが国際政治の現実
→超大国の安全保障政策は階層構造、核の保険や空母群は下部構造で、ずっと不変
→上部構造が冷戦から対テロ戦に変わったに過ぎない
・海の軍事力は①核抑止②経済の繁栄③政治意思の表現④下部構造として最も重要
・国際安全保障には軍事だけでなく外交や経済などの政策も含まれるが、日本では
安全保障=軍事と誤解されている
第二章 シーパワーとランドパワー
・地政学は安全保障政策では世界標準だが、日本では2000年前後からようやく復活
→海上移動は遅くて隠れることもできないので島国は大陸国に較べて兵力で6個師団以上は
有利とされているが、世界的には稀な部類
→大陸の平原で接するフランスとドイツの国境は人工的なもので常に動いている
→湖・大河・高山・ジャングル・砂漠・厳冬も越えるのが難しい→隣国とは仲が悪い
→政策は現実の空間条件で考えるのが共通理解→地政学は知ってて当たり前の世界
→日本では地政学の基礎的な文献も学者も大学も研究機関も殆どなかったが、その空白理由は
→イギリス・アメリカ発祥の地政学→ドイツ将校の「生存圏」概念→ナチスドイツの正当化
→大東亜共栄圏の正当化→戦後日本では「悪魔の学問」とされ、そのまま冷戦に突入したから
・唯一の超大国であるアメリカの自国防衛は太平洋と大西洋のみ→シーパワーの国
(アメリカは大陸国だがカナダ・メキシコと戦争する確率はゼロに近いから)
→日本も(軍事力は限定的だが)シーパワーの国
・ロシア、中国、ドイツなどはランドパワーの国
→発展したランドパワーの国は(コストの安い)海への出口を求め拡張し始めるのが歴史の法則
・ロシアの例
→外洋への3ルートがすべて他国でブロックされてたので、さらなる発展のため拡張をはじめた
①サンクトペテルブルク→バルト海→エースレンド海峡→ベルト海峡→北海→大西洋ルート
②セバストポリ→黒海→ボスポラス海峡→ダーダネルス海峡→地中海→ジブラルタル海峡
→大西洋ルート
③ウラジオストク→日本海→宗谷か津軽か対馬の海峡→大平洋ルート
(ウラジオストクは清から苦心して手に入れた不凍港であり、①②③どれもが巨大軍港)
(対ロシア戦では日本とイギリスは地政学的条件が一致したので日英同盟を結んで勝利した)
(イギリスがジブラルタルを手放さないのも地政学的条件から)
(ロシアが16世紀から12回もトルコと争いクリミア半島を手放さないのも地政学的条件から)
→①ルートにはNATO(北大西洋)②ルートにはCENTO(中央)③ルートには日韓米の同盟で対応
→国後島・択捉島の海域は宗谷海峡を抜けたあとの最後の関門で特に択捉島の単冠湾は良港
→なので返還交渉の最後は地政学的条件での航路の安全保障問題になる
→地政学的条件は下部構造でイデオロギーや政治経済体制などの上部構造が変わっても不変
・中国の例
→ロシア同様、発展に伴い外洋に出ようとする「自立運動」
→1969年のソ連と中国の衝突でも地政学的条件はイデオロギーを上回ることがわかる
→ソ連の崩壊、中露国境の確定(大陸の安全保障)、経済大国化により南シナ海に進出
→ロシアと異なり長い海岸線を持つが、経済の巨大化で「動脈(南シナ海)」に敏感になった
→呉越同舟以来の陸でのベトナムとの敵対関係から1988年以降は西沙諸島での敵対関係に
→中国にとっての戦略的な重要ポイントが陸から海に移った
→半島は海と陸の接点でランドパワーとシーパワーの接触点
→韓半島の例→ランドパワーの中国・ロシアとシーパワーの日本・アメリカの奪い合いの歴史
(インドシナ半島にもバルカン半島にもクリミア半島にも同じ歴史がある)
(地政的に日本軍のベトナム進駐が日米関係を急速に悪化させたことはあまり知られていない)
→ランドパワーが韓半島まで膨らみきったところで、その先にあるのが日本列島
→日本はシーパワー諸国にとっての防波堤として非常に重要なポジションになる
・アメリカは太平洋と大西洋でユーラシア大陸と向き合っており海軍力で守っている
→ランドパワーのロシア・中国の膨張には極めて警戒的(政治経済体制とは全く別問題)
→ユーラシア大陸との接点にあるのが日本とイギリスで、ここは死活的に重要な立地
→この戦略的価値を理解したうえで対米交渉に臨んだ日本の政治家は稀で中曽根康弘ぐらい
→交渉での地位向上のために地政学的な価値を利用していた
→日本も中国もロシアも韓半島も政治体制は変わったが、地政学的な利害対立はずっと不変
・大きな力の接点にはバッファゾーンが設定されることが観察できる
→冷戦時代の東欧のソ連衛星国とNATO諸国、現代では中国が北朝鮮を存続させる理由
・国際安全保障ではパワーバキューム(力の空白地帯)を警戒する
→フセイン排除後のイラク、終戦前後の満州や韓半島、内戦のシリア
→北朝鮮のハードランディング(準備がないままの崩壊)を避けるソフトランディング
・日本はシーパワーと組むと繫栄し、ランドパワーと組むと破滅する
→1868年から2019年まで151年間の国際関係史から鮮やかに浮かんでくる
日露戦争での勝利(最大シーパワーだったイギリスのバックアップ)
第二次世界大戦での敗北(2大シーパワーだったアメリカ・イギリスとの敵対)
戦後の(海の覇権を持つ)アメリカとの同盟での経済発展
・沖縄の軍事基地化
→唯一地上戦で占領した本土が沖縄
→地上軍が犠牲を払って勝ち取った地域から軍隊を除去するのは非常に難しい
→27年間の軍事占領が続いたが、返還後も米軍基地が残ったのはなぜか
→アメリカの世界戦略にとって最高の好立地にあるから
→リスクが予想される地域から1000km~2000kmで近すぎず遠すぎず海兵隊なら48時間の距離
→半径4000kmで東アジア全体を収められる場所は太平洋では沖縄だけ
→半径1万kmで世界の主要地域を収められる場所はロンドンと那覇だけ
→アメリカ本土は世界の主要地域からは隔絶した場所にある
→1972年の返還時は冷戦の最中だったが台湾海峡と韓半島は冷戦後もフリーズしたまま
→アメリカからは、沖縄から撤退できるほど世界は安全にはなっていないと見える
→沖縄や日本のためでなく台湾海峡や韓半島さらに中東など世界中の紛争に対応するため
→なのでアメリカの世界戦略にとって最高の立地点を「使わせてあげてる」程度に考えるのが
現実的であり、「テナント」と「家主」の関係は法律上は対等のはず・・・
第三章 「安全保障=軍事」という誤解
・国際安全保障政策は経済・外交・情報・メディアを包括的に網羅した総合政策で、
軍事はあくまでその1ジャンルに過ぎない
→セキュリティ(安全保障)とは安全で安定していて恐怖や苦悩を感じない状態も包括する
→国際安全保障政策は主に国外の勢力から国内のセキュリティを守るための政策
→ジャン・ボダンの国家論でいう①領域②人民③主権(統治権)のセキュリティを保つこと
→①と③はわかりやすいが②のセキュリティの内容は複雑
→セキュリティの喪失=クライシス
→戦争やテロに限らず福島原発事故での避難や健康リスクは世界では国家クライシスだが、
日本国内では今も産業事故くらいの認識しかない
→食料もエネルギーも国際安全保障政策の重要な課題だがシーレーンのセキュリティが
破れると、他の主要国より自給率が低い食料の62%とエネルギーの92%を失う
→セキュリティの手段は軍事でなくてもいい→経済援助や外交努力や文化交流など
→戦後74年間に軍事は使わず破滅的な失敗は(福島原発事故を除き)していない
・守るべき国益は何か
→幕末から明治は「列強の植民地にされないこと」が国益で殖産興業・富国強兵
→植民地リスクが薄れると「領土の拡張」へ→敗北で①と③を失い②も多くを失った
→戦後は「経済成長」で1980年代に達成されてからは「繁栄の維持」か・・・
・セキュリティ用語の違い
→作戦(Operation)の時間軸は1日~1月単位で、空間軸は戦場
→戦術(Tactics)の時間軸は1年単位で、空間軸はヨーロッパ、東アジアなど
→戦略(Strategy)の時間軸は10~100年単位で、空間軸は世界規模
→作戦と戦術は戦時のみだが、戦略は平時も含む
→作戦と戦術の政策分野は軍事のみだが、戦略は経済・外交・軍事などを包括
→作戦と戦術の政策決定者は軍人のみだが、戦略は政治家・官僚・軍人
・平時の軍は家の戸締りのようなもの
→どの程度に安全な環境かは認識次第で認識は主観、客観的な解はなくコンセンサスも難しい
→危ない冷戦期の日本ではリスク認識が低かったのに、ロシアも中国も実質資本主義になってから
リスク認識が(正確かどうかは別として)高まっている。
→冷戦時代を知る自分はずいぶん平和になったと思ってるがリスク認識は主観で個人差が出る
→クライシスが起きればコンセンサスは簡単だが「戦闘がないから軍は不要」ではない
→軍は戦時の政策だけでなく平時の政策にも必要
・国を縛る法律は存在しない
→国際法は慣習の集積に過ぎず国連に国を罰する力はない
→PKOは敵対勢力の分離・人道支援・停戦監視などで国への強制はできない
→国連軍にはどこも兵力供給せず空文化しソフトバージョンとして経済制裁がある
・相互に依存する国は戦争しない
→経済だけでなく文化・情報や人の交流による相互理解が進むと殺戮をためらうようになる
→戦争への動機を奪うことが平和へのメカニズムとして有効で政策手段は軍事だけではない
・国際関係における国と軍事の比重が低下
→ペティ・クラークの法則(第三次産業の発展に領土の拡張は不要)
→軍事力より経済力の時代に
→経済は国境をまたぎ国は無力→経済のグローバル化
→通常戦争からLIC(低烈度紛争)へ→正規軍より情報機関
第四章 ケーススタディ 尖閣諸島→省略
(明快な解説でスッキリしましたが、検証レベルなどは精緻で高いものの、わたくしの見方と
基本は同じだったのでメモは省略しました。ひょっとして、わたくし世界標準???
)
第五章 普遍的な見方
・シグナリングを見落とすな
→ミリタリーバランス誌は尖閣周辺の中国海警船をシグナリングと表現している
→シグナリングには「やってること」と「できるのに、やってないこと」がある
→中国海警船は巡回はするが上陸や日本船への発砲はしない(北方領土では発砲もある)
→中国領土であることの表現と軍事衝突はしたくないことの表現→シグナリング
(米軍がいつでも使える尖閣諸島は、シーレーン確保に乗り出した中国にとっては脅威)
→公式声明では事態が悪化したり内政干渉になったり交渉に影響する場合もシグナリングで対処
→どの国も膨大な人員がシグナリング分析に取り組んでいるが、日本政府は・・・
→2013年アメリカの国務長官と国防長官の(靖国神社ではなく)千鳥ヶ淵戦没者墓苑への献花
→これは安倍首相の靖国神社についての雑誌寄稿に対するアメリカ政府のシグナリング
→無視した安倍首相は靖国神社に参拝し、同日アメリカ大使館が公式非難声明を発表した
(2013年は北朝鮮の核ミサイル危機の年で米日韓の協議と中露との調整が最重要だったので
政府要人の参拝に反対する中韓を刺激しないで、というシグナルだったが無視されたため)
→この無視が故意なのか、うっかりなのか・・・
・自国の価値観で他国の行動を評価・予測してはならない
→国際政治はすべて異文化コミュニケーション
→現実を予断やバイアスなしに理解すること
1947年5月 日本国憲法施行
1948年8~9月 半島南北分裂
1950年6月~ 朝鮮戦争
1950年8月 警察予備隊→自衛隊
1952年4月 統治権回復
(1948年のロンドン五輪にドイツと日本が参加できなかったのは、国がなかったから)
・事実と願望を混同してはならない
→アメリカ本土は攻撃されない(9.11)、日本で原発の大事故は起きない(3.11)
・外政と内政は連続して一体である
→中国の対日政策と体制維持、経済発展と対米政策の例
・2国間の政策は他国との関係にも影響する
→2018年プーチン大統領の年末会見での普天間基地移転問題の指摘
(知事や住民が反対しても普天間基地を移転存続させるのだから、北方領土に基地は作らせない
と平和条約で約束しても、米軍基地に日本がどの程度の主権を持っているのか分からない)
→尖閣諸島も米軍が自由に使っていいと日本がいってる(日米地位協定)
→中国にとっては日本領土であることのリスクが高い(ロシア同様の対応に)
→2004~5年のチェコ・ポーランドへの米軍ミサイル防衛設備の設置計画
→これらはすべて連続して一体で国際関係は展開される
・二極対立から多極構造へ
→日本では国際関係=日米関係の短絡がある
→冷戦時代はやむを得なかったが、未だに極端な親米と反米がある
→国際政策のゴールは国益を最大にすることで、日本が自分で決めること
→ただし、その国際政策の国益とは何か、得るものと失うものを国民に提示すること
(政府当局者はだいたい良いことしかいわないので報道や研究者や世論の検証が必要)
・安全保障政策は得るものと失うものの差し引き
→政策提案書(ポリシーペーパー)に取りうるオプションをすべて提示し、それぞれを実行した際の
得るものと失うものを併記することが、どの授業でも求められた
→アメリカのアマチュアリズム政治文化からで素人が決定者になっても対応できるから
→企業の損益計算書と同じ発想で教授とアドバイザーを交えて議論し再提出する
→思いつくままに嫌がられるとか笑われるとかのバイアスを排除するよう指導された
尖閣諸島問題のケーススタディ
オプションA 自衛隊を島に上陸させ占領する(得るものと失うもの(略)、以下同様)
オプションB 自衛隊上陸なし。島に恒久施設建設
オプションC 領海内に入った中国船のみ排除
オプションD 現状のまま何もしない
オプションE 尖閣諸島を中国に譲る
→重要なのは可能性の提示で配慮や忖度をしてはならない、決定は意思決定者
→すべてのオプションには必ず得るものと失うものがある
→特に安全保障の分野では、得るものと失うものが僅差になることが多い
・好き嫌い・善悪・勝ち負けなどは現実理解の邪魔
→予断・バイアス・偏見などは政策判断の敵で事実と願望の混同も同様
→現実には完全な善も悪も明確な勝ち負けも存在しないのに、
→そんなバイアスのかかった情報がコンテンツとして提示されている
→現実の安全保障政策は事実より為政者の言葉や世論の認識が力を持つ
→政策決定にはそのバイアスを可能な限り排除しなければならない
(事実誤認によるイラク侵攻など)
・政策決定は重層的なプロセスで単層的な思考をしてはならない
→反対もあれば賛成もある中で政策は重層的に決定していくが表面には出にくい
(民主党・野田政権による尖閣国有化など)
→いかなる国にも多様性があるのに国や国民がひとつの均質な主体であるかのような言説が多い
→○○国は何々とか、○○人は何々とかの言説は最大限に警戒し疑う必要がある
あとがきより
・若い頃に知りたかったのは「なぜ戦争が起きるのか」というメカニズム
・軍事や安全保障の議論そのものが忌避対象で勉強したくても学校も研究機関もなかった
・日本は1945年から戦争していないので戦争しているアメリカの大学院で勉強した
・帰国後も世界標準のわかりやすい安全保障論の本に巡り合えなかった
・卓見を持つ専門家は何人もいるが初歩的な内容は飛ばしていたので本書を書いた
・学んだのがアメリカの大学院なので「アメリカの視点」からスタートしているが、
各国から各職業を経験した学生が集まってたし、各国の文献や報道にも接して相対化された
・国際社会とネット空間は英語が事実上の標準語になっており、英語さえ読めれば世界の
政府発表やニュースが日本に居ながら直接入手できる環境になっている
・安全保障に限らずネットがもたらす「二極分化」がありリテラシーの高低ギャップが
ますます広がっている
・日本の安全保障をめぐる議論では現実になってるので、ぜひ高いほうに参加してほしい
左バーに「98kのつぶやき(Twitter)」を追加しました。Twitterでもフォローいただければ嬉しいです。
今回は「世界標準の戦争と平和」とゆー本のご紹介・・・


烏賀陽弘道 著 扶桑社 2019年11月20日 初版第1刷発行
著者は朝日新聞社を退社後、フリーランスの報道記者・写真家として活動されてる方だそうで、
わたくしはalaris540さんブログへのコメントがきっかけで本書の存在を知りました。
例によって目次のみのご紹介・・・


まえがきによれば・・・
・「日本の外の世界では共通理解になっているいちばんベーシックな話」をこの本でシェアしたい
・世界では共通理解になっている知識や現実を知らないままの人たちがスローガンや空論を唱え、
ネットやテレビで有名になり影響力を行使している
・国内での安全保障の議論は対立軸だけで政治家・官僚も大差なく「知的空白」が続いた
・世界標準で通用する論者もいるが本書のような基礎的なことは(共通理解として)飛ばして、
各論から論じているので、一般人には「よく分からない」となっているのが歯痒い
・語学には文法と語彙があるが、この本の内容は国際安全保障政策論の基本文法にあたり
学校教育の英語でいえば中学校の英語レベル
・語彙として個別のテーマもあるが、文法さえマスターすれば別のテーマにも適用できる
・私を「右・左」「保守・リベラル」「与党・野党」「護憲・改憲」「平和主義・軍国主義」
といった既存カテゴリーに分類することは不可能で、そういった思考は現実理解には排除すべき
・安全保障は国の政策で老人介護や保育所と同じ、アジェンダ(公的な議題)として軽重はない
・官僚とか政治家とか専門家に任せておけばよいという時代は終わったと考えている
・ブログやSNSで誰もが発言者になれる時代に「安全保障のベーシックなリテラシー」を
身につけておくことはメディア・リテラシーとして不可欠ではないか・・・
・・・つーことで、確かに高校生にも分かりやすく平易に書かれてました。
さらに文明史の一環として軍事史や兵器史についても比較的興味のあったわたくしでも、
「にゃーるほど」と、あらためて納得させられた事実も多く、とても勉強になりました。
著作物なので詳しくは紹介できませんが、以下わたくしの部分的な「語彙」のメモです。
ご覧いただき少しでも興味を持たれた方には本書の熟読をオススメします。
で、わたくしの思い違いなどをご指摘いただければ、さらにありがたいです。

(一部引用部分もありますので掲載に問題があるようなら、すぐに削除します。)
第一章 海と核兵器
・安全保障で陸と海に空が加わったのは約100年前から、宇宙が加わったのが1950年代以降、
サイバー空間が加わったのは2000年前後以降だが、今でも最も重要なのは海
→地球では海が71%で陸は29%、海は繋がっており国境もなく重いものを大量に安価に運べる
→領海以外の接続水域・排他的経済水域・国際海峡(宗谷・対馬・津軽・大隅)は公海なのだが、
他府県ナンバーが目前の国道を通過した!!! 私有地には入ってないけど、と騒ぐマスコミが多い

→私有地に突っ込んだわけでもないのに、何故わざと騒ぎたてるのか・・・
・日本では核兵器をアジェンダにしない・否定しかしない・効用を認めない、が一般的だが、
国際政治の環境では大戦前の人類と大戦後の人類との違いは「核兵器の有無」だけ
・核兵器のある国(同盟国を含む)では平和と繁栄を享受、ない国では通常兵器での虐殺が続く
→これは大量破壊兵器に守られたグロテスクな平和でもある(代理戦争かテロか)
→人類は「核ある平和」か「核なき虐殺」しか手にしたことがないのが国際社会の現実
・アメリカの安全保障政策の大学院はロースクールと同じで即戦力になる専門職の養成所
→国際政治経済学の理論や学説を学ぶ大学院とはまったくの別物
→学長による基礎講義は「国際政治を動かすルールは軍事力、特に核兵器を中心とした
核戦略である」からはじまった。ちなみに彼は現実主義者ではなく国際機関主義者
→冷戦・二極化構造が終わっても多極化が広まり混迷するだろうと27年前に言ってた
→当時の日本には学者も国際関係学部も少なく特に軍事の領域はタブーだった
(ちなみに98kは軍事史を専攻したかったけど当時はなかったので政治史(文明史)を専攻

・核のルールはアメリカが超大国だからではなく国際政治を動かす「世界標準」の基本文法
・担当教授の1日目の授業は「核兵器の作り方」からだった

・核を搭載したICBMと爆撃機と潜水艦SLBMのセット→冷戦時代に相互確証破壊MADが完成
→どれが欠けても抑止力としては機能しない→すべて揃えてるのは2019では米露だけ
→残りの核保有国で英仏中3ヶ国は最低でも潜水艦SLBMは持っている→報復能力はある
→それ以外の国が核武装しても自殺行為に等しい→ただし自滅前提や事故による可能性は残る
→SLBM原潜を中核とした核の保険を持っている国以外には持たせない→核兵器不拡散条約
→その代わりNATO、ワルシャワ条約機構、日米安全保障条約などで核の傘に入る
→それに反対して核保有する印パ北朝鮮などは国際政治での発言権がないのが現実
・戦勝国の5ヶ国が合意し実行しない限り核廃絶はなく、そのための国際機関もない
→「核兵器による国家生存の保証」は運転時の自動車保険と同じで加入するのが現実的選択
・アメリカ空母群の概要(略)→グローバルリーチ→外交のシグナリングに(台湾総統選挙時など)
・航行の自由作戦→国際法は慣習の積み重ねに過ぎず、常に積み重ねないと崩壊する
・日本は戦後政治意思として軍事力を行使したことがなく、戦前は政治と離れて活動したので
別物として扱われているが、世界標準では政治と軍事は境目のない一体のもの
→政治ツールとしての軍事は破壊力を伴わない役割が多い
・シーレーン→国際貨物輸送量の85%が海上輸送(日本は99.7%)
→航行の自由は戦後変わらずアメリカの軍事力で守られており他の選択肢はない
→アメリカは自国の利益のため(自由への)逆行もするが、これが国際政治の現実
→超大国の安全保障政策は階層構造、核の保険や空母群は下部構造で、ずっと不変
→上部構造が冷戦から対テロ戦に変わったに過ぎない
・海の軍事力は①核抑止②経済の繁栄③政治意思の表現④下部構造として最も重要
・国際安全保障には軍事だけでなく外交や経済などの政策も含まれるが、日本では
安全保障=軍事と誤解されている
第二章 シーパワーとランドパワー
・地政学は安全保障政策では世界標準だが、日本では2000年前後からようやく復活
→海上移動は遅くて隠れることもできないので島国は大陸国に較べて兵力で6個師団以上は
有利とされているが、世界的には稀な部類
→大陸の平原で接するフランスとドイツの国境は人工的なもので常に動いている
→湖・大河・高山・ジャングル・砂漠・厳冬も越えるのが難しい→隣国とは仲が悪い
→政策は現実の空間条件で考えるのが共通理解→地政学は知ってて当たり前の世界
→日本では地政学の基礎的な文献も学者も大学も研究機関も殆どなかったが、その空白理由は
→イギリス・アメリカ発祥の地政学→ドイツ将校の「生存圏」概念→ナチスドイツの正当化
→大東亜共栄圏の正当化→戦後日本では「悪魔の学問」とされ、そのまま冷戦に突入したから
・唯一の超大国であるアメリカの自国防衛は太平洋と大西洋のみ→シーパワーの国
(アメリカは大陸国だがカナダ・メキシコと戦争する確率はゼロに近いから)
→日本も(軍事力は限定的だが)シーパワーの国
・ロシア、中国、ドイツなどはランドパワーの国
→発展したランドパワーの国は(コストの安い)海への出口を求め拡張し始めるのが歴史の法則
・ロシアの例
→外洋への3ルートがすべて他国でブロックされてたので、さらなる発展のため拡張をはじめた
①サンクトペテルブルク→バルト海→エースレンド海峡→ベルト海峡→北海→大西洋ルート
②セバストポリ→黒海→ボスポラス海峡→ダーダネルス海峡→地中海→ジブラルタル海峡
→大西洋ルート
③ウラジオストク→日本海→宗谷か津軽か対馬の海峡→大平洋ルート
(ウラジオストクは清から苦心して手に入れた不凍港であり、①②③どれもが巨大軍港)
(対ロシア戦では日本とイギリスは地政学的条件が一致したので日英同盟を結んで勝利した)
(イギリスがジブラルタルを手放さないのも地政学的条件から)
(ロシアが16世紀から12回もトルコと争いクリミア半島を手放さないのも地政学的条件から)
→①ルートにはNATO(北大西洋)②ルートにはCENTO(中央)③ルートには日韓米の同盟で対応
→国後島・択捉島の海域は宗谷海峡を抜けたあとの最後の関門で特に択捉島の単冠湾は良港
→なので返還交渉の最後は地政学的条件での航路の安全保障問題になる
→地政学的条件は下部構造でイデオロギーや政治経済体制などの上部構造が変わっても不変
・中国の例
→ロシア同様、発展に伴い外洋に出ようとする「自立運動」
→1969年のソ連と中国の衝突でも地政学的条件はイデオロギーを上回ることがわかる
→ソ連の崩壊、中露国境の確定(大陸の安全保障)、経済大国化により南シナ海に進出
→ロシアと異なり長い海岸線を持つが、経済の巨大化で「動脈(南シナ海)」に敏感になった
→呉越同舟以来の陸でのベトナムとの敵対関係から1988年以降は西沙諸島での敵対関係に
→中国にとっての戦略的な重要ポイントが陸から海に移った
→半島は海と陸の接点でランドパワーとシーパワーの接触点
→韓半島の例→ランドパワーの中国・ロシアとシーパワーの日本・アメリカの奪い合いの歴史
(インドシナ半島にもバルカン半島にもクリミア半島にも同じ歴史がある)
(地政的に日本軍のベトナム進駐が日米関係を急速に悪化させたことはあまり知られていない)
→ランドパワーが韓半島まで膨らみきったところで、その先にあるのが日本列島
→日本はシーパワー諸国にとっての防波堤として非常に重要なポジションになる
・アメリカは太平洋と大西洋でユーラシア大陸と向き合っており海軍力で守っている
→ランドパワーのロシア・中国の膨張には極めて警戒的(政治経済体制とは全く別問題)
→ユーラシア大陸との接点にあるのが日本とイギリスで、ここは死活的に重要な立地
→この戦略的価値を理解したうえで対米交渉に臨んだ日本の政治家は稀で中曽根康弘ぐらい
→交渉での地位向上のために地政学的な価値を利用していた
→日本も中国もロシアも韓半島も政治体制は変わったが、地政学的な利害対立はずっと不変
・大きな力の接点にはバッファゾーンが設定されることが観察できる
→冷戦時代の東欧のソ連衛星国とNATO諸国、現代では中国が北朝鮮を存続させる理由
・国際安全保障ではパワーバキューム(力の空白地帯)を警戒する
→フセイン排除後のイラク、終戦前後の満州や韓半島、内戦のシリア
→北朝鮮のハードランディング(準備がないままの崩壊)を避けるソフトランディング
・日本はシーパワーと組むと繫栄し、ランドパワーと組むと破滅する
→1868年から2019年まで151年間の国際関係史から鮮やかに浮かんでくる
日露戦争での勝利(最大シーパワーだったイギリスのバックアップ)
第二次世界大戦での敗北(2大シーパワーだったアメリカ・イギリスとの敵対)
戦後の(海の覇権を持つ)アメリカとの同盟での経済発展
・沖縄の軍事基地化
→唯一地上戦で占領した本土が沖縄
→地上軍が犠牲を払って勝ち取った地域から軍隊を除去するのは非常に難しい
→27年間の軍事占領が続いたが、返還後も米軍基地が残ったのはなぜか
→アメリカの世界戦略にとって最高の好立地にあるから
→リスクが予想される地域から1000km~2000kmで近すぎず遠すぎず海兵隊なら48時間の距離
→半径4000kmで東アジア全体を収められる場所は太平洋では沖縄だけ
→半径1万kmで世界の主要地域を収められる場所はロンドンと那覇だけ
→アメリカ本土は世界の主要地域からは隔絶した場所にある
→1972年の返還時は冷戦の最中だったが台湾海峡と韓半島は冷戦後もフリーズしたまま
→アメリカからは、沖縄から撤退できるほど世界は安全にはなっていないと見える
→沖縄や日本のためでなく台湾海峡や韓半島さらに中東など世界中の紛争に対応するため
→なのでアメリカの世界戦略にとって最高の立地点を「使わせてあげてる」程度に考えるのが
現実的であり、「テナント」と「家主」の関係は法律上は対等のはず・・・
第三章 「安全保障=軍事」という誤解
・国際安全保障政策は経済・外交・情報・メディアを包括的に網羅した総合政策で、
軍事はあくまでその1ジャンルに過ぎない
→セキュリティ(安全保障)とは安全で安定していて恐怖や苦悩を感じない状態も包括する
→国際安全保障政策は主に国外の勢力から国内のセキュリティを守るための政策
→ジャン・ボダンの国家論でいう①領域②人民③主権(統治権)のセキュリティを保つこと
→①と③はわかりやすいが②のセキュリティの内容は複雑
→セキュリティの喪失=クライシス
→戦争やテロに限らず福島原発事故での避難や健康リスクは世界では国家クライシスだが、
日本国内では今も産業事故くらいの認識しかない
→食料もエネルギーも国際安全保障政策の重要な課題だがシーレーンのセキュリティが
破れると、他の主要国より自給率が低い食料の62%とエネルギーの92%を失う
→セキュリティの手段は軍事でなくてもいい→経済援助や外交努力や文化交流など
→戦後74年間に軍事は使わず破滅的な失敗は(福島原発事故を除き)していない
・守るべき国益は何か
→幕末から明治は「列強の植民地にされないこと」が国益で殖産興業・富国強兵
→植民地リスクが薄れると「領土の拡張」へ→敗北で①と③を失い②も多くを失った
→戦後は「経済成長」で1980年代に達成されてからは「繁栄の維持」か・・・
・セキュリティ用語の違い
→作戦(Operation)の時間軸は1日~1月単位で、空間軸は戦場
→戦術(Tactics)の時間軸は1年単位で、空間軸はヨーロッパ、東アジアなど
→戦略(Strategy)の時間軸は10~100年単位で、空間軸は世界規模
→作戦と戦術は戦時のみだが、戦略は平時も含む
→作戦と戦術の政策分野は軍事のみだが、戦略は経済・外交・軍事などを包括
→作戦と戦術の政策決定者は軍人のみだが、戦略は政治家・官僚・軍人
・平時の軍は家の戸締りのようなもの
→どの程度に安全な環境かは認識次第で認識は主観、客観的な解はなくコンセンサスも難しい
→危ない冷戦期の日本ではリスク認識が低かったのに、ロシアも中国も実質資本主義になってから
リスク認識が(正確かどうかは別として)高まっている。
→冷戦時代を知る自分はずいぶん平和になったと思ってるがリスク認識は主観で個人差が出る
→クライシスが起きればコンセンサスは簡単だが「戦闘がないから軍は不要」ではない
→軍は戦時の政策だけでなく平時の政策にも必要
・国を縛る法律は存在しない
→国際法は慣習の集積に過ぎず国連に国を罰する力はない
→PKOは敵対勢力の分離・人道支援・停戦監視などで国への強制はできない
→国連軍にはどこも兵力供給せず空文化しソフトバージョンとして経済制裁がある
・相互に依存する国は戦争しない
→経済だけでなく文化・情報や人の交流による相互理解が進むと殺戮をためらうようになる
→戦争への動機を奪うことが平和へのメカニズムとして有効で政策手段は軍事だけではない
・国際関係における国と軍事の比重が低下
→ペティ・クラークの法則(第三次産業の発展に領土の拡張は不要)
→軍事力より経済力の時代に
→経済は国境をまたぎ国は無力→経済のグローバル化
→通常戦争からLIC(低烈度紛争)へ→正規軍より情報機関
第四章 ケーススタディ 尖閣諸島→省略
(明快な解説でスッキリしましたが、検証レベルなどは精緻で高いものの、わたくしの見方と
基本は同じだったのでメモは省略しました。ひょっとして、わたくし世界標準???

第五章 普遍的な見方
・シグナリングを見落とすな
→ミリタリーバランス誌は尖閣周辺の中国海警船をシグナリングと表現している
→シグナリングには「やってること」と「できるのに、やってないこと」がある
→中国海警船は巡回はするが上陸や日本船への発砲はしない(北方領土では発砲もある)
→中国領土であることの表現と軍事衝突はしたくないことの表現→シグナリング
(米軍がいつでも使える尖閣諸島は、シーレーン確保に乗り出した中国にとっては脅威)
→公式声明では事態が悪化したり内政干渉になったり交渉に影響する場合もシグナリングで対処
→どの国も膨大な人員がシグナリング分析に取り組んでいるが、日本政府は・・・
→2013年アメリカの国務長官と国防長官の(靖国神社ではなく)千鳥ヶ淵戦没者墓苑への献花
→これは安倍首相の靖国神社についての雑誌寄稿に対するアメリカ政府のシグナリング
→無視した安倍首相は靖国神社に参拝し、同日アメリカ大使館が公式非難声明を発表した
(2013年は北朝鮮の核ミサイル危機の年で米日韓の協議と中露との調整が最重要だったので
政府要人の参拝に反対する中韓を刺激しないで、というシグナルだったが無視されたため)
→この無視が故意なのか、うっかりなのか・・・

・自国の価値観で他国の行動を評価・予測してはならない
→国際政治はすべて異文化コミュニケーション
→現実を予断やバイアスなしに理解すること
1947年5月 日本国憲法施行
1948年8~9月 半島南北分裂
1950年6月~ 朝鮮戦争
1950年8月 警察予備隊→自衛隊
1952年4月 統治権回復
(1948年のロンドン五輪にドイツと日本が参加できなかったのは、国がなかったから)
・事実と願望を混同してはならない
→アメリカ本土は攻撃されない(9.11)、日本で原発の大事故は起きない(3.11)
・外政と内政は連続して一体である
→中国の対日政策と体制維持、経済発展と対米政策の例
・2国間の政策は他国との関係にも影響する
→2018年プーチン大統領の年末会見での普天間基地移転問題の指摘
(知事や住民が反対しても普天間基地を移転存続させるのだから、北方領土に基地は作らせない
と平和条約で約束しても、米軍基地に日本がどの程度の主権を持っているのか分からない)
→尖閣諸島も米軍が自由に使っていいと日本がいってる(日米地位協定)
→中国にとっては日本領土であることのリスクが高い(ロシア同様の対応に)
→2004~5年のチェコ・ポーランドへの米軍ミサイル防衛設備の設置計画
→これらはすべて連続して一体で国際関係は展開される
・二極対立から多極構造へ
→日本では国際関係=日米関係の短絡がある
→冷戦時代はやむを得なかったが、未だに極端な親米と反米がある
→国際政策のゴールは国益を最大にすることで、日本が自分で決めること
→ただし、その国際政策の国益とは何か、得るものと失うものを国民に提示すること
(政府当局者はだいたい良いことしかいわないので報道や研究者や世論の検証が必要)

・安全保障政策は得るものと失うものの差し引き
→政策提案書(ポリシーペーパー)に取りうるオプションをすべて提示し、それぞれを実行した際の
得るものと失うものを併記することが、どの授業でも求められた
→アメリカのアマチュアリズム政治文化からで素人が決定者になっても対応できるから
→企業の損益計算書と同じ発想で教授とアドバイザーを交えて議論し再提出する
→思いつくままに嫌がられるとか笑われるとかのバイアスを排除するよう指導された
尖閣諸島問題のケーススタディ
オプションA 自衛隊を島に上陸させ占領する(得るものと失うもの(略)、以下同様)
オプションB 自衛隊上陸なし。島に恒久施設建設
オプションC 領海内に入った中国船のみ排除
オプションD 現状のまま何もしない
オプションE 尖閣諸島を中国に譲る
→重要なのは可能性の提示で配慮や忖度をしてはならない、決定は意思決定者
→すべてのオプションには必ず得るものと失うものがある
→特に安全保障の分野では、得るものと失うものが僅差になることが多い
・好き嫌い・善悪・勝ち負けなどは現実理解の邪魔
→予断・バイアス・偏見などは政策判断の敵で事実と願望の混同も同様
→現実には完全な善も悪も明確な勝ち負けも存在しないのに、
→そんなバイアスのかかった情報がコンテンツとして提示されている
→現実の安全保障政策は事実より為政者の言葉や世論の認識が力を持つ
→政策決定にはそのバイアスを可能な限り排除しなければならない
(事実誤認によるイラク侵攻など)
・政策決定は重層的なプロセスで単層的な思考をしてはならない
→反対もあれば賛成もある中で政策は重層的に決定していくが表面には出にくい
(民主党・野田政権による尖閣国有化など)
→いかなる国にも多様性があるのに国や国民がひとつの均質な主体であるかのような言説が多い
→○○国は何々とか、○○人は何々とかの言説は最大限に警戒し疑う必要がある
あとがきより
・若い頃に知りたかったのは「なぜ戦争が起きるのか」というメカニズム
・軍事や安全保障の議論そのものが忌避対象で勉強したくても学校も研究機関もなかった
・日本は1945年から戦争していないので戦争しているアメリカの大学院で勉強した
・帰国後も世界標準のわかりやすい安全保障論の本に巡り合えなかった
・卓見を持つ専門家は何人もいるが初歩的な内容は飛ばしていたので本書を書いた
・学んだのがアメリカの大学院なので「アメリカの視点」からスタートしているが、
各国から各職業を経験した学生が集まってたし、各国の文献や報道にも接して相対化された
・国際社会とネット空間は英語が事実上の標準語になっており、英語さえ読めれば世界の
政府発表やニュースが日本に居ながら直接入手できる環境になっている
・安全保障に限らずネットがもたらす「二極分化」がありリテラシーの高低ギャップが
ますます広がっている
・日本の安全保障をめぐる議論では現実になってるので、ぜひ高いほうに参加してほしい
この記事へのコメント
1. Posted by donchan 2021年08月29日 09:45
この分野は、98Kさんの専門で流石に手際よく纏まっており、参考になりました。
素人ながら、海洋国の日本が陸軍国であったことが、疑問でしたが、明治維新後の国内政治が
「陸の長州」に牛耳られていたという政治情勢によるところが大きいのでしょうか?
ところで、この著者、珍しい苗字の為何処かで見た記憶がありましたが、岩波新書でJポップスを描いていた人でしたか。
不思議な取り合わせです。
素人ながら、海洋国の日本が陸軍国であったことが、疑問でしたが、明治維新後の国内政治が
「陸の長州」に牛耳られていたという政治情勢によるところが大きいのでしょうか?
ところで、この著者、珍しい苗字の為何処かで見た記憶がありましたが、岩波新書でJポップスを描いていた人でしたか。
不思議な取り合わせです。
2. Posted by 98k 2021年08月29日 10:35
>donchanさん
長文の(ええかげんな)読後メモをお読みいただきありがとうございます。
そう、わたくしが記事本文にあるブログのコメントで著者を知ったのも、
沖縄のヘビメタ・ロッカーとのリモート対談動画からでした。
けっこうロッカーとのやり取りが面白くて興味を持った次第です。
ま、帝国陸軍はもともと国内鎮圧からスタートして、やがて日露戦争へ向け肥大化したものの、
なにせ島国ですから、対外的には圧倒的にシーパワーの国なのでしょう。
貿易に不可欠のフネを動かす石油の禁輸措置から見込みのない戦争に突き進んでますし・・・
そーいや帝国海軍の身勝手ぶりを指摘した記事もあったけど、誰の文章やったか・・・ううっ
長文の(ええかげんな)読後メモをお読みいただきありがとうございます。
そう、わたくしが記事本文にあるブログのコメントで著者を知ったのも、
沖縄のヘビメタ・ロッカーとのリモート対談動画からでした。
けっこうロッカーとのやり取りが面白くて興味を持った次第です。
ま、帝国陸軍はもともと国内鎮圧からスタートして、やがて日露戦争へ向け肥大化したものの、
なにせ島国ですから、対外的には圧倒的にシーパワーの国なのでしょう。
貿易に不可欠のフネを動かす石油の禁輸措置から見込みのない戦争に突き進んでますし・・・
そーいや帝国海軍の身勝手ぶりを指摘した記事もあったけど、誰の文章やったか・・・ううっ

3. Posted by alaris540 2021年08月31日 15:13
御紹介、真に有難う御座居ます!^^
絶版故極めて入手難ですが、「再販への動きがある」とのことですので大いに期待したいものです。
絶版故極めて入手難ですが、「再販への動きがある」とのことですので大いに期待したいものです。
4. Posted by 98k 2021年08月31日 16:55
>alaris540さん
じつに勉強になりました。対談動画も教えていただきありがとうございました。
あの動画での著者の喋り口が、昔のフォークシンガー西岡たかしにそっくりで、すっかりハマった次第。(^_^;
この本、2019年の出版なのに絶版になってたんですね、知りませんでした。
図書館では予約待ちなしで、すぐに借りることができましたが・・・
(追記です。奇界遺産3なんか、6月に予約したのに、現在まだ7人待ちです。)
アメリカの今回のワープスピード作戦やその背景を見ると、9.11以来の戦略レベルでの安全保障政策の一環
であったことがよくわかりますね。
ワクチンも含む安全保障はアメリカにお任せで、大運動会を開催してる某国もありますが、
その某国の戦略レベルでの安全保障政策つーのは・・・(以下略)
じつに勉強になりました。対談動画も教えていただきありがとうございました。
あの動画での著者の喋り口が、昔のフォークシンガー西岡たかしにそっくりで、すっかりハマった次第。(^_^;
この本、2019年の出版なのに絶版になってたんですね、知りませんでした。
図書館では予約待ちなしで、すぐに借りることができましたが・・・
(追記です。奇界遺産3なんか、6月に予約したのに、現在まだ7人待ちです。)
アメリカの今回のワープスピード作戦やその背景を見ると、9.11以来の戦略レベルでの安全保障政策の一環
であったことがよくわかりますね。
ワクチンも含む安全保障はアメリカにお任せで、大運動会を開催してる某国もありますが、
その某国の戦略レベルでの安全保障政策つーのは・・・(以下略)
