コンシエール・・・クロックス・クラシック・・・

2022年04月16日

英国一家、日本を食べる、とか

英国一家、日本を食べる・・・

P4130898

マイケル・ブース著 寺島のぶ子訳 亜紀書房 2013年4月15日第1版第1刷発行

NHKでアニメ版が放映されてたのでご存知の方も多いでしょうが、その原作であります。
ちなみに原題は「Sushi And Beyond」


著者は英国サセックス生まれ、パリの
ル・コルドン・ブルーに学び、ロブションの三ツ星
レストランで働いた経験も持つフード・ライターで、それまでずっと日本料理をばかにしてて、
ル・コルドン・ブルーで知り合った若者トシ(カツトシ・コンドウ)といつも言い争いになり・・・

「お前は本当の日本料理が分かっているのか」

見かけばかりで味気ないことは充分に分かっている、脂肪もなけりゃ味わいもない、
生の魚にヌードルに揚げた野菜で、全て盗んだ料理、タイとか中国とかポルトガルとか・・・
まあ関係ないか、どこだっていい、なんでもショウユに突っ込むだけだから、みんなおんなじ味、
いい魚屋と切れる包丁さえあれば、誰だって作れるね」

で、業を煮やした彼から
1980年に初出版された辻静雄「Japanese Cooking:A Simple Art」
の2006年新装版をプレゼントされ、読んで(彼の前では平然としてたけど)大きな衝撃を受け、
ここに書かれた本物の日本料理が30年後の今も残っているのか確かめようと、デンマーク人の
奥さんと当時6歳と4歳になる息子の一家4人で2007年の夏に3ヶ月間、はじめて日本を訪問、
各地をひたすら食べ歩いた際の記録で2009年に出版された英語版の日本語抄訳版であります。

訳者あとがきにもありましたが、著者一人だったら単なる取材になっていただろうけど、
小さな子どもたちも同伴した家族旅行だったので、旅先での出会いがとても新鮮になり、
(そりゃあ日本で金髪の小さな
子どもたちと一緒に旅してたら人々の対応も変わるでしょう)
とても面白かったですし、はじめての日本と様々な料理に関するじつに的を得た、あるいは
完全に的を外した記述はもちろん、前述のような毒気を含むユーモアに満ちた文章が面白く、
あっとゆー間に読み終えました。



例によって目次のみのご紹介・・・

P4130899

ま、今回は読後メモなんぞはいちいち紹介しませんが、たとえば・・・

はじめての日本に旅立つ前に、自分に誓った誓約リスト(の一部)
・日本人がLとRの発音を区別できなくても、いちいちあげつらわない
・正しくない英語のメニューやTシャツの文字や店の名前を見ても、ばかにしたりしない
・日本文化を変だと思っても「地球にいながら他の惑星に行くのと同じ」なんていわない
・街中でゴスロリ・ファッションの女の子にこっそり近寄って写真を撮ったりしない
・夜の日本の都市を言い表すときにブレードランナーを連想したりしない
とかを並べたてて、守るのは難しいかもとか、はたしてどこまでやれるだろうとか・・・

ともかく毒気を含んだユーモアと自虐ギャグがいっぱいで、著者本人も書いてましたが、
何かに興味を持つと深く突っ込みたくなる性格だそうで観察眼も鋭く、じつに細部まで
よく研究されてて、わたくしの知らなかったこともいっぱいでした。



で、これの補足版である「英国一家、ますます日本を食べる」であります

P4130902

びみょーに表紙絵が替わってますが・・・
こちらは前書が日本でも評判になり、日本語版ではカットされてた部分をまとめた本で、
ま、日本ではこの2冊で1冊の本ということになりますね。


こちらもおなじく目次のみのご紹介・・・

P4130903

こちらでも、たとえば・・・

・特別番外編(著者もカニと温泉で虜になった)兵庫・城崎温泉の書き出し
→温泉好きの日本人に会ったら「城崎」と言ってみるといい
→その瞬間、きっとその人は夢見心地になる
→目はうつろになり、えもいわれぬ笑みを浮かべて白昼夢に耽る
→そういう時は落ち着いて・・・パチンと指を鳴らしてあげよう・・・
→うまくいけば、催眠術から覚めるみたいに、我に返ってくれる・・・

いやあ、じつに面白かったです。



で、ほぼ10年後に書かれた本当の続編「英国一家、日本をおかわり」

P4130906

著者・訳者は同じで、KADOKAWA 2018年3月29日初版発行
ちなみにこちらの原題は「The Meaning of Rice]

そう、ほぼ10年後に再び一家4人で日本を食べ歩いた際の記事がメインの本であります。


例によって目次のみ・・・

P4130908

この10年の間に和食が世界無形文化遺産に認定されUMAMIも世界中で認知されるようになり、
著者も日本のTVなどで有名になってたわけで、各地の料理もさらに深く追求されてますが、
こちらも、じつに見事な表現が随所にあり、たとえば・・・

・ウグイの熟鮨(なれずし)の見た目について
→まるで病気のラブラドール犬が、半分しか消化できなくて吐き戻した何かみたいだ・・・

・(大好きになって来日の都度こっそり持ち帰っているとゆー)柚子について
→レモンがスイスの花嫁学校に行ったとでもいうか、より甘く角が取れていて親しみやすい
香りがする。タンジェリンより酸っぱくグレープフルーツほど苦くない。
ヨーロッパの柑橘で一番似ているのは、たぶんベルガモットだ・・・

云々・・・



プロのフード・ライターなのに札幌のラーメン横丁では、味較べのための食べ歩きをして、

最初の店でスープまで全部飲んでしまい、それを繰り返してお腹がチャプチャプになったり、
大阪ではお好み焼き屋から串カツ屋、立ち飲み屋、うどん屋などを10時間ハシゴして延々と
食べ続け飲み続け、結局どこを食べ歩いたのか、どうやってホテルまで帰ったのか、まったく
思い出せないし、覚えていないとか、このあたりも、じつに親しみが持てました。


まあ、大阪は世界一の食の街であるとか、読んでくすぐったくなる部分もありましたが、
日本に限らず今の食や食文化の荒廃に対する警告や、逆に将来への希望についても書かれてて、
日本の伝統的な料理やその食材に関しても分かりやすく解説されてましたが、日本人が
ふだん意識していない部分も多々あって、やはり外からの観点というは新鮮ですね。



m98k at 11:11│Comments(0) mixiチェック 書斎 | 糧食、飲料

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