ピーラーとフライパンウクライナ国立バレエ2025とか・・・

2025年07月30日

増山実の本3冊

とーとつですが・・・

増山実の小説をとりあえず3冊、一気読みしました

まずは一冊目・・・

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かなり以前に阪大・院卒の知人から「あんた好みでは」と薦められていた・・・
「今夜、喫茶マチカネで」であります



帯の惹句

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奥付

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目次

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舞台設定は2019年の阪急宝塚線・石橋駅(同年10月から石橋阪大前駅に変更)の駅前にある
喫茶店(1階は書店)で、一人称で語る主人公はこの喫茶店のマスター・・・なんですが、
各話の「語り手」は別で、時代も主人公も異なるけど、どこかで繋がっているとゆー構成

1階の書店と一緒に半年後(駅名変更と同時)に閉店することが決まった喫茶店で月1回語られる、
駅前や阪大・豊中キャンパスに縁のあった人たちの不思議な物語で、惹句にあるとおり、
まさに「不意をつかれてやがて心温まる、大人のためのファンタジー」でした

特に石橋駅の周辺に暮らす(暮らしたことのある)人たちには、風景がリアルで実際にあった
書店や喫茶店をはじめ、実在する(した)駅前商店街や阪大・豊中キャンパスの情景なども
親しく懐かしいでしょうが、殆ど土地勘のないわたくしでも
大林監督の尾道作品のように
たっぷりの懐かしさと親しみを味わえました

ただし舞台のカナメとも言うべき「石橋駅」が作品では「待兼山駅」になってます
(半年後の2019年10月に駅名が変更される予定というのは作品中でも同じなんですが)
なのでとーぜん、この駅をよく知る人なら感じるであろう駅名への違和感が、じつはこの作品の
オープニングとエンディングを繋いでおり、まさに不意をつかれて、やがて・・・

とゆー、SFファンタジーとしてもよくできた構成なのですが、ネタバレになるので以下は省略、
さすが、もと人気テレビ番組の放送作家ですね

各時代の戦争や反戦運動、様々な差別についても登場人物の生き様として語られますが、
人物に重みを与えているものの無理がなく自然で最後まで気持ちよく読めました


で、二冊目は・・・

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「ジュリーの世界」であります


帯の惹句

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奥付

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目次

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こちらの舞台は1979年の京都がメイン、京都といっても南は四条通から北は三条通まで、
東は河原町通から西は寺町通までの繁華街だけで、ここで長年暮らしていた実在のホームレス
「河原町のジュリー」を軸に地域の人たちの暮らしを、この区域を管轄する京都府警・下立売署
三条京極交番に新人警察官として赴任した主人公の視点から描かれています

こちらの時代設定は、わたくしが京都に通っていた学生時代に近いので、当時の街並みや
店などが石橋駅前よりはリアルに浮かんできましたが、京都の繁華街の修学旅行生を含む
新旧を織り交ぜた独特の暮らしぶり、当時の世相などもリアルで読みごたえがありました

お話は1979年に警察学校を出て
三条京極交番に新人配属された主人公が転勤するまで4年間、
気にはなっていたものの、ついに一度も会話が成立しなかった「ジュリー」の存在を軸に、
この区域に暮らす(あるいは訪れる)人たちとの交流が描かれて、それぞれの人生がじつは
どこかで繋がっていたという、こちらも不思議な要素のある作品でした

主人公が定年退職した後の2020年とその翌年の話や、実際にジュリーが丸山公園で凍死体で
発見された1984年2月5日の話などで、徐々に二人をはじめ登場人物の人生とその繋がりが
明らかにされていくのですが、ともかく各時代の三条寺町から四条河原町までの繁華街の変貌が、
その時代の店舗をはじめファッションやアイドル、スポーツ、ゲーム、映画、テレビ、重大事件、
流行歌、中学生のホームレス狩りなどの世相によって、じつにリアルに描かれてました
こちらもさすが、もと人気テレビ番組の放送作家です

まあ、わたくし学生時代に新京極などの繁華街を闊歩することは殆どなかったので、
ジュリーの記憶はありませんが、(ま、よく似た髪型とファッションと汚さでしたが)
それでも懐かしく、その生き様も味わえました

本作では水木しげるのラバウル戦記のような、さらに生々しい戦争の記憶が描かれてますが、
やはり著者のこだわりがあるのでしょうか、この作品に重みを与えています

さらに主人公が交番配属されて間もない頃に
知り合った女性との会話・・・
「なんか、この街も人も好きになって・・・」
「あんたは、ええオマワリになるか、途中でオマワリ辞めるか、どっちかやな」
と言われてて、40年後にその女性と再会した際の会話・・・
「組織の中にいるうちに、つまらん人間になっただけかも知れません」
「そんなことはないよ、あんた40年、勤め上げたんやろ? 
それはええオマワリになった、ということや」
とゆーやり取りに、わたくしもずっと組織の中にいたので、思わずジーンとなりました


つーことで三冊目は・・・

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「甘夏とオリオン」



著者略歴と奥付

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目次

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こちらの舞台は大阪市の南西部、地下鉄四つ橋線・玉出駅の北側一帯がメインで、
主人公は
駅近くの銭湯2階に住み込み、徒歩5分の師匠の長屋に通う入門3年目の若い女性噺家・・・

で、物語は突然に主人公の師匠が失踪するところからはじまります
時代設定は特に感じなかったので出版された2019年あたりという感じでしょうか

師匠の突然の失踪で銭湯の脱衣場を借りた落語会を企画するなど奮闘する三人の弟子たちと
関係者を中心にしてお話が展開しますが、上方落語界の実態がかなり詳細に描かれており、
著者も落語好きなのでしょうか(わたくし同様おそらく米朝・松鶴・春団治・小文枝の四天王を
初期の島之内寄席などで生で聴いていた世代?)、古典ネタでも何本かは知らないネタもあって、
そちらも大いに楽しめたのですが、けなげな主人公が困難や悩みを乗り越え成長していく姿は
まさに「千と千尋の油屋」ならぬ「桂甘夏と玉出の銭湯・松の湯」!!!
他の弟子たちや師匠連中などとの葛藤も、青春モノとして気持ちよく楽しめました

ともかく舞台がご近所エリアなので、わたくしが知らなかった事実?をメモしておきます
(著作物からのメモなので公開に問題があれば非公開設定にします)

・玉出の生根神社(住吉大社の奥の天神とは別の生根神社)の宮司さんのセリフより
「このあたりにお地蔵さんや、つきあたりが多いのには訳があるのです
戦国時代の玉出一帯は環濠都市で堀に囲まれてました
織田信長との戦で石山本願寺側が砦を築いていたんです」

「お堀の一辺は400mぐらいで中に750軒ほどの家があり、東は今の国道26号線から一本東の道まで、
北は善照寺の北の通りまで、西は阪神高速15号堺線の一本東の通りまで、南はここ生根神社の
二本南の通りまでで、不自然な道があったり、つきあたりが多いのは、今言うた道が昔は堀で
そこを埋め立てたからです」

「町に入る八つの御影石でできた橋と門がありました
東に一つ、北に二つ、西に三つ、南に二つで、それぞれの橋のたもとに地蔵堂がありました
水路は昭和の初め頃まで残ってたらしいですな」

「この集落の西の端は海に面していて港がありました
その港から出征した兵士の帰還を妻たちが待ちわびていた「古妻村」が、やがて「勝間村」に
転じたと言われています」

(読後にさっそく環濠集落跡と思われる区域をママチャリで廻ってみましたが、確かに堀跡と
思われる道で、いきなり突き当りになっている道がけっこうありました
堺の旧市街はじめ富田林の寺内町や河南町の大ケ塚集落、奈良の今井町、平野の旧村内など
畿内の環濠集落はいくつか廻ったことがありますが、ご近所にもあったとは・・・)

(さらに追記で西成区のホームページより「玉出の環濠」)

tamadenokango

・主人公の師匠のセリフより
「地下鉄玉出の出口を出ると国道26号線で北へ5km歩いたら難波、この道は世界に繋がってる道や」

「今は「スーパー玉出」発祥の地として知られるけど、昔は芸人もぎょうさん住んではったんや
売れない頃のかしまし娘、芦屋雁之助、芦乃屋雁玉はじめ、漫才師や落語家はもちろん、
歌舞伎役者や文楽の人形師もおった」

「難波、千日前、道頓堀に劇場があって、電車賃が惜しい噺家はネタを繰りながら、
この道を歩いたもんや」

「サイモンとガーファンクルは売れん頃、ニューヨークの下町に住んでた
その町にはクイーンズボロ橋いう橋が架かってて渡った先が摩天楼のマンハッタンや
二人がいつかあの橋を渡って世界に飛び出したいと若い頃に作った歌が「明日に架ける橋」や
この道を歩いてると、いつもこの歌が口について出るんや」

そう、ジャズや山頭火も大好きな師匠という設定なんですね・・・
さすがにママチャリで「明日に架ける橋」を歌いながら難波までは漕ぎませんでしたが、
S&Gはじめジャズや山頭火も著者の好みなんでしょうか・・・以下略

閑話休題

つーことで、
・阪急宝塚線・石橋駅周辺の商店街や阪大の豊中キャンパス、と不思議な物語
・京都・三条寺町から四条河原町にかけての繁華街、と不思議なホームレス
・大阪・地下鉄玉出駅周辺の商店街や長屋も残る下町、と不思議な噺家の失踪


これら三作に共通してるのは、主人公だけでなく様々な登場人物それぞれの人生を描いた、
短編映画を何本も観たような感覚と、その人生がどこかで繋がっている(かも知れない)
と思わせる展開で、リアルさと不思議な感覚を同時に味わえる点でしょうか・・・

舞台設定が身近なことからも、登場人物の生き方からも共感できる作品群でした




m98k at 21:21│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 書斎 

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