2025年08月10日
技術革新と不平等の1000年史(下巻)
とーとつ・・・でもありませんが・・・
「技術革新と不平等の1000年史」(下巻)の読書メモであります
ま、上巻記事と同じく、じつにてきとーなメモでしゅが・・・
下巻の表紙

下巻の惹句

下巻の奥付

下巻の目次

著者の略歴については上巻記事をご覧いただくとして、お二人は2023年の本書刊行後、
2024年にノーベル経済学賞を受賞されてますね
以下は思いつくままの個人メモなので正しくは本書をお読みください
(著作物からのメモなので公開に問題があれば非公開設定にします)
第7章「争い多き道」より
・20世紀が始まってからの70年間は、戦争や大恐慌など大きな逆転はあったものの、
新テクノロジーと労働者による対抗勢力と政府の規制を支える制度的構造により、
急成長の恩恵をほぼあらゆる階層が被った
⇒電力など新テクノロジーによる低コスト大量生産が新しい需要と仕事を生んだ
⇒労働者としては給与が上がり、消費者としては同じ金額で多くが買えるようになった
⇒これが生産性バンドワゴン
・アメリカ製造業における経営者とエンジニアを含むホワイトカラーの割合
⇒1860年で3%、1910年で13%、1940年で労働者の21%に
・フォードT型の例(略)⇒様々な職種・業種で新たな仕事を生んだ
・1938年以降のスウェーデンの例⇒世界有数の平等国家に(略)
・アメリカ・ニューディール政策の例(略)
・オートメーション化が進んでも1970年代初頭までは、どのスキルの労働者の需要も増加した
⇒自動交換になったベル電話会社の交換手は拡大するサービスや事業所で失業しなかった
・1960年のGMと組合との数値制御機械オペレーター裁判の例
⇒新機械のオペレーターには追加トレーニングを受け高い賃金を受け取る権利があるとの裁定
・西海岸のコンテナ導入と港湾労働組合の例
⇒東海岸では多くの港湾労働者が失業したが西海岸の組合はコンテナやクレーン導入を推進、
輸送量の増加に伴う新しい労働機会を要求し獲得していった
⇒肉体労働からクレーン操作などへ⇒中等教育があったから可能だった
・1970年までは生産性向上が平均賃金の上昇、様々なスキルグループの収入増につながっていた
(新しい業界では生産性の向上に伴いスキルの低い労働者の需要も増えた)
・戦後ヨーロッパのテクノロジーの方向性も同じだったので繁栄した
・第二次世界大戦後の数十年ほど急速に繁栄し、その繁栄が共有された時代はない
⇒女性、マイノリティ(特にアメリカ黒人)、移民は排除されていたが、排除された最大の集団は
ヨーロッパと北米の外側だった
(長期雇用・高賃金の日本や、民主化後・労働組合の韓国などは例外的に繁栄を共有できた)
・アメリカの戦後の繁栄を共有する経済モデルが攻撃されはじめ、テクノロジーの方向性が
さらなる自動化に向かうと、勢力が労働者と政府規制から離れ繁栄の共有が瓦解していく
⇒第8章「デジタル・ダメージ」へ
第8章「デジタル・ダメージ」より
・1960年頃からのハッカー倫理
⇒情報を支配し官僚化するIBMや権力に対抗した「分散化と自由」
⇒コンピューターへのアクセスは完全に自由で無制限であるべき
・彼らのテクノロジーなら大企業への対抗勢力が強化され、繁栄が共有されるはず、
と予測するのが合理的だが、結果は全く逆だった
⇒デジタル・テクノロジーにより賃金・国民所得の労働分配率は低下、賃金格差は拡大した
(グローバリゼーションや労働運動の弱体化などの要因もあるが、デジタル・テクノロジーが
仕事を自動化したせいで労働は資本に対して、低スキル者は大卒以上者に対して、不利になった)
・利益と株主価値の最大化こそが公益につながるとする新しいビジョン
⇒これが社会の大半の組織化原理となった
⇒このビジョンがもたらす膨大な富がテクノロジー・コミュニティを違う方向へ押しやった
⇒新しいビジョンはデジタル・ユートピアのビジョンであり、それを支えていたのは労働を
自動化して支配するソフトウェアのトップダウン設計だった
⇒結果は格差を生み出し生産性の向上も果たせなかった
⇒1980年以降、格差は労働者間だけでなく、不公平はあらゆる方面で増大した
・20世紀の殆どは国民所得の67~70%が労働者に渡ったが1980年代以降は資本側に改善、
2019年の労働分配率は60%を割った
⇒人件費の削減が最優先となり、組合のない工場へ、海外へ、アウトソーシングへ
⇒多くの低技能業務を安い外部業者にアウトソーシングしてコストを削減
⇒大企業の低技能労働者は賃金上昇のチャンネルを断ち切られた
・この方向性によりデジタルメニューがさらに自動化に移行し労働者から離れていった
⇒アメリカ経済の生産力(労働者一人あたり生産量)は増加しても、労働者の限界生産力
(追加の労働時間によって増加する生産量)は追随しなかった
・繁栄の共有は自動化で破壊されたのではなく、それを最優先にして労働者の新しい仕事創出を
蔑ろにした、バランスの悪いテクノロジー・ポートフォリオによって破壊された
⇒戦後数十年も自動化は加速したが労働需要を高めるテクノロジー変化でバランスがとれていた
⇒1980年以降、新しい仕事とテクノロジーが減っていった
⇒製造業の労働分配率は1985年の65%から2010年には46%に下落した
⇒アメリカ労働者の中流階級職(工場ブルーカラーやオフィス事務)の割合は1970年代に52%、
2018年には33%に下がり、彼らは建設清掃調理などの低賃金職へ、それらも自動化で消滅した
・低賃金国との競争は雇用を減らして賃金を抑えたが、格差の要因はテクノロジー変化の方向性
・「テクノロジー格差は避けがたいがグローバリゼーションは調整できる」という二分法
⇒これは誤りで切り離せないもの⇒デジタル・ツールでしかグローバル化できないから
⇒相乗効果で人件費を削減、1980年以降は職場も政治も対抗勢力が欠如しており助長した
⇒ほぼすべての先進国でブルーカラーと事務職の仕事が減った
⇒原因は西側諸国の制度的変化と新たなユートピア的デジタル・ビジョン
・1965年ラルフ・ネーダーの消費者保護運動
⇒様々な安全衛生機関の設置、独占企業の規制、雇用差別撤廃へ
⇒殆どが共和党ニクソン政権で実施された⇒ニューディール政策を維持した
・1953年のGM社長の(大量の株式を保有したままの)国防長官就任時の格言
⇒「国によいことはGMにもよいことで、その逆も同じ」
⇒これが1980年代にはありふれたものになった⇒1930年代からの180度転換
⇒「企業に有利になるようにルールを変えることは全ての人を助ける最善の方法」
⇒「富裕層の税金を減らせば投資が増えて生産性が向上し社会に貢献する」
⇒トリクルダウン経済⇒レーガンの経済政策に
⇒政府が規制しなくても消費者はより優れた製品を選ぶはず⇒これは理想化された市場が前提
・ケインズから反転⇒ハイエク⇒スティグラーとフリードマン⇒ジェンセンの修正案へ
⇒1970年の「フリードマン・ドクトリン」
⇒企業の社会的責任は利益を出し株主に高い配当を生み出すこと
⇒企業の株価を上げさせるため経営陣に巨額のボーナスとストックオプションを与える
⇒CEOは株主にのみ社会的責任を負う⇒労働者に高い賃金を払う義務はない
・経営者のプロ化のはじまりは1970年代のビジネススクール修了者から
⇒上場企業CEOに占める修了者の割合は1980年で25%、2020年で43%を超えた
⇒彼らはフリードマン・ドクトリンを実践し賃金を削減したが当初は主流ではなかった
⇒1973年のオイルショックとスタグフレーションで一変して主流になった
⇒1964年にゴールドウォーターが提唱した規制撤廃などを1979年にレーガンが肯定した
・1976年に設立されたマン経済研究所
⇒多くの裁判官への経済学研修はフリードマン・スティグラー・ボークの特殊な思想によった
⇒研修を修了した裁判官らは一貫して規制当局や独占禁止法に反対する判決を出しはじめた
・1982年に設立されたフェデラリスト協会
⇒反規制企業幹部からの献金で反規制派の法学生・裁判官・最高裁判事を育成した
⇒現在の最高裁判事のうち6人が修了生
・大企業の市場支配力はライバル出現を阻止し経営幹部と株主を富ませる
⇒超巨大企業による独占は豊かな株主をさらに豊かにして格差を増幅する
⇒利益を従業員と分け合うこともあったが制度的変化で労働者の力が衰退した
・アメリカとドイツの労働組合の違い(企業単位と業界単位)
・1981年レーガンの航空管制組合への介入・スト職員解雇⇒これに民間企業が続いた
・アメリカ労働組合の低下理由は、
⇒企業と政治家の反組合姿勢が強硬になったこと
⇒組合がしっかりしていた製造セクターでの雇用が減少したこと
・1979年サッチャーの規制緩和優先・企業支持によりイギリスの組合も大半を失った
・人件費の削減にはデジタル・テクノロジーが不可欠だった
⇒効率的なソフトウェアにより熟練を要しない多くの仕事を自動化または削減できる
⇒1980年代からバックオフィスの仕事が急速に自動化され低スキル事務職が減少していく
⇒1990年代には製造業でロボットが急速に普及しブルーカラーが激減していく
(1980年代に遅れたのは日本やドイツのような人口減少圧力がなかったから)
・ドイツや日本などのソフトウェアツール・ロボット化は当初はアメリカと全く異なった
⇒ドイツでは組合交渉による再訓練・再配置と、そのためのソフトウェア開発
⇒ソフトウェアによる問題検出などで労働者による限界生産性は着実に上昇した
(ドイツは戦後の労働者不足が続きスキルへの投資で労働者の能力を活用した)
⇒日本は柔軟な生産を重視し完全自動化せず、従業員のための複雑で高賃金の仕事を作った
(日本は労働人口の減少に直面していた)
⇒北欧でも団体交渉により労働者に有利なテクノロジーとの組み合わせを導入した
・その後フリードマン・ドクトリンとコスト削減のためのデジタル・ツール利用の考え方は、
ビジネススクール出身の経営者・経営コンサルティングによって世界中の企業に広まり、
基本的にすべての先進国でブルーカラーや事務職の割合を低下させた
⇒このアメリカの進歩の方向性が世界中に重大な影響を及ぼした
・1980年代に登場した新しいデジタル・ビジョン
⇒フリードマン・ドクトリンに根ざした人件費削減とハッカー倫理を結びつけたもの
⇒エリート主義的なアプローチが業界を支配し経済格差を正当化する
・生産性バンドワゴンが機能しにくくなるのは、
①雇用主の力が従業員の力より強すぎるとき
②テクノロジーが労働者に不利な方向に進んでいるとき
③生産性向上が他のセクターの雇用拡大につながらないとき
・過去数十年、毎日新製品やアプリが提供されているのに共有すべき生産性は鈍化している
⇒1960年代70年代の電話やテレビは壊れるまで何十年と使っていた
⇒今は数年ごとに電子機器を買い替えるのに投資に対する利益はごく少ない
・トヨタGMのカリフォルニア州フリーモント工場の成功例(略)
(つい最近、イーロン・マスクもテスラの全自動化工場で同じ教訓を学んだ)
・業界リーダーから押しつけられたデジタル・ソリューションは、公共の利益にかなうと
されたが、大半の労働者は仕事と生活手段を失ってしまった
⇒デジタル・テクノロジーを発展させる方法はほかにもあった
⇒初期のハッカーたちは異なるビジョンに導かれ大企業からフロンティアを奪い取った
・テクノロジーの偏向は間違いなく選択されたもので、しかも社会的に構築された選択だった
⇒その後の新しいツールにより事態がはるかに悪くなりはじめた⇒人工知能AI
第9章「人工闘争」より
・「起業家が主導する(知能機械を含む)新しいテクノロジーから必然的に恩恵が得られる」
⇒本章ではこのビジョンがレセップスの運河理念と同じ幻想であることを論じる
・テクノロジーの方向性を考える際に重要なのは、そのテクノロジーが人間の目的にとって
どれだけ役立つかということであり、これを「MU(機械有用性)」とする
⇒これまでの歴史は高い機械有用性を備えた画期的イノベーションを生んできた
⇒機械知能への心酔は大規模データ収集と労働者や市民の無力化、仕事の自動化競争になるだけ
・コンピュータもジャガード織機と同じでプログラマーに指定されたとおり実行するもの
⇒対する人工知能の合意された定義はないが、現在あらゆる領域に適用されている
・ソフトウェアと機械はさまざまなルーチン業務を自動化してきた
⇒人間の業務のうちルーチンは一握りで大半は問題解決を必要とする
⇒AIはルーチン業務以外でも予測可能な業務ならできるようになった
⇒さらに医師・弁護士・銀行員の仕事の一部など高度な業務を学習している
・なので「AIが有益な変革をもたらし、その恩恵は万人に届く」
⇒とGAFAの現CEO全員が主張しているが、そんな証拠はない
⇒これまでAIはもっぱらオートメーション化に使われ、その弊害は低スキル労働者に
⇒彼らがAIから恩恵を受けている証拠もなく、GAFAの経営陣と株主が利益を得ている
⇒「誰も働かなくていい未来」どころか賃金が下がり労働者の需要が減る未来
・チューリングテストとAI
⇒評価者が機械と人と会話して、どちらが人か見破られなければその機械は知能を持っている
⇒この定義での知能機械はまだないが人並みに実行できるタスクが多いほど知能は高い
⇒チューリングも機械意識は留保していたが、現代のAI分野は人工知能に向かっている
・新しいAIアプローチ
①大量のデータ使用⇒多くのデータから深層学習し画像を「猫」と認識する
②拡張性と転移性⇒ひとたび「猫」と認識すれば翻訳など無関係な問題にも移れる
③このアプローチがオートメーション拡大の方向に向かっている
⇒トップダウン式テクノロジーは人件費削減の企業に馴染む
・現在のAIは、キャッサバの先住民の調理法を原始的・非科学的伝統だとして理解できず、
シアン化合物中毒になったヨーロッパ人と同じ
・信号機の撤去実験の結果⇒交通の流れは大幅に改善され事故も怪我も増えなかった
⇒テクノロジーが人間から主体性と判断力を奪っていた
・チューリング直系の現在の対AIアプローチでは人間の知能にすぐ迫れるとは考えにくく、
人間の判断業務の多くで高度な生産性をあげられるとも思えない
⇒統計的アプローチには人間の社会的な知能や臨機応変な知能に相当する要素がない
・過学習・過剰適合の問題
⇒オオカミとハスキー犬を区別するタスク(AIは無関係な背景など過学習から区別)
⇒現在AI資金が使われているのは大量データ収集と限定的タスクの自動化
⇒人間を機械に置き換えておきながら生産性は向上していない
・デジタル・テクノロジー、特にAIは専ら自動化と監視に使われている
⇒デジタル・テクノロジーが人間を助け補完する方向はあった
⇒ウィーナー、リックライダー、エンゲルバート、デミングが持っていた別のビジョン
⇒AIよりMU(機械有用性)⇒人間の目的にかなった使い方ができること
①日本の製造業におけるデミングの功績⇒デミング賞
②MUによる新しいタスクの創出⇒個別教育、医療現場など
③人間の創造力への有益な情報の供給⇒インターネットwwwアクセス
④新しい市場や顧客の創出⇒南インド・ケララ州の漁業の携帯電話、ケニアのモバイル通貨・
送金システム(Mペサ)、エアビーアンドビー(宿泊施設の貸し借り)、AI翻訳より高品質な
マルチリンガルの人を集めた言語サービスのプラットフォーム・・・
・ただし、このような有望な応用例が搾取・監視に使われるか否かは、市場インセンティブと
既存ビジョンの優先事項への対抗勢力のいかんに左右される
・デジタル・テクノロジーと大企業の合体は2000年代半ばまでに億万長者を生んできた
⇒2010年代にAIツールが広まりだすと富は何倍にも増えた
⇒AIベースのオートメーションはたいして生産性を向上しない
⇒それでもAI業界の大物や一流経営者を富ませるのは、これが労働者から力を奪うからで、
人々の情報をお金に変えるから
⇒今後10年で各種機器がクラウドに常時接続され、より大規模なデータ収集が可能になる
・現在はH.G.ウェルズのタイムマシンに描かれたディストピア未来に近づきつつある
⇒社会は二層構造になっており、実業界の大物たち、テクノロジー界のリーダーたちから、
普通の人々はミスの元で取り替えるべきものと思われている
⇒この状態は必然ではなく、デジタル・テクノロジーが自動化だけに使われる理由もなく、
AIが無差別に適応され、機械有用性の追求の代わりに機械知能に魅入られる必然もなかった
・この難局から抜け出るには社会的な力の分布図を変えテクノロジーを別の方向に向ければよい
⇒変化にはボトムアップ式の民主的プロセスが必須になるが、AIはその民主主義も壊しつつある
第10章「民主主義の崩壊」より
・2021年、中国の女子テニス選手のウェイボー投稿の20分以内削除の例(略)
・2014年以降に強化されてきた新彊ウィグル自治区住民の体系的データ収集の例(略)
(世界屈指のAI企業などが中国政府に協力、他の地域にも広がっている)
・中国の社会信用システムの例(略)
⇒インターネットとソーシャルメディアが民主主義に果たすと思われてきた効果とは正反対
・初期のフィリピン大統領弾劾でのテキストメッセージ利用、アラブの春でのフェイスブックと
ツイッターの活用が、なぜ独裁政府・過激派・誤情報の強力な武器になったのか
⇒有害な影響は不可避ではなく開発の仕方のせい
⇒大量データの収集で操作をもくろむ政府や企業の強力なツールとなった
・中国のデジタル検閲の歴史(略)
・スパイウェア「ペガサス」の濫用(略)
・ハラリの「テクノロジーは専制を贔屓する」と「テクノロジーは民主化を進める」
⇒いずれも間違いでデジタル技術は親民主的でも反民主的でもない
⇒すべてはテクノロジーが向かう方向の選択次第
・デジタル技術の暗号化は通信傍受を阻止でき、VPNは検閲を回避でき、トーアのような
検索エンジンは(現時点では)政府による解読が不可能なのでプライバシーと安全を提供する
⇒それなのにデジタルによる民主化という初期の希望が潰えたのは、テクノロジー界の取り組みが
金銭と権力のある政府の検閲に集中したから
・AIはさらに本格的な監視技術の方向へ進んでいる
(中国では監視需要が技術革新の方向にも影響し、顔認識などの技術が世界トップに)
(ファーウェイは監視抑圧のAIツールを50ヶ国に輸出した)
・ミャンマーの(ジェノサイドの媒体になった)フェイスブックの例(略)
⇒スリランカでもインドでも扇動者を排除しなかった
⇒ヘイトスピーチも過激主義も誤情報もサイトのエンゲージメントと閲覧時間を増加させ、
より多くの個人向けデジタル広告を得ることができるから
・2016年アメリカ大統領選挙でのフェイスブックの誤情報増殖も、2021年の暴動扇動も、
ユーチューブもツイッターも他のプラットフォームも、アルゴリズムで提供される誤情報と
情報操作にユーザーを引き込み共有され続けた
・ソーシャルメディアがこの残念な事態に至ったのは必然ではなく大手テクノロジー企業が
下した決定のせい
⇒それは「個人向けデジタル広告から収益を得る」という決定
⇒その価値は注目の度合い(エンゲージメントと閲覧時間)に左右され、その最も効果的な
方法が怒りや憤りといった強い感情を培うことだと判明したから
・グーグルの誕生と誤情報の根源(略)
・2020年のアメリカ大統領選挙後にフェイスブックが誤解を招く記事や信頼できないサイトに
加担しないアルゴリズムに変更すると、悪意のコンテンツや誤情報などは拡散しなくなった
⇒しばらくして、この変更は取り消された
⇒元に戻した主な理由は怒りや感情を掻き立てる度合いが減れば、そのプラットフォームの
閲覧時間が減ると判明したから
(ザッカーバーグらは言論の自由を理由に取り消しを擁護している)
・利潤動機がエンゲージメントや怒りの最大化を優先するがテクノロジー企業の創業理念も重要
⇒当初オンライン・コミュニケーションにはハーバーマスの「公共圏」概念が期待されたが、
大手テクノロジー企業のビジネスモデル・AI幻想と民主主義は相容れない
⇒大衆は操作と収集の対象として扱われるが、幹部の多くは自らを民主主義者とみなしている
⇒監視とデータ収集がテクノロジー発展の唯一の道ではない
⇒利潤動機とAI幻想に導かれた反民主的軌道に独裁的政府とテクノロジー企業が関わっている
・前例としてのラジオ・プロパガンダと戦後のドイツ基本法(略)
・ターゲティング広告に代わるビジネスモデル
⇒定額制モデルのネットフリックスでも情報収集やAI投資はしているが誤情報や政治的暴言は
殆ど存在しない⇒その目的がエンゲージメントの最大化ではないから
⇒ソーシャルメディアでも定額制は可能でエコーチェンバーや誤情報の危険性はあるが、
エンゲージメントを追求する手法からは脱却できる
⇒フェイスブックの新たな多言語サービスによって、関連する国々の中にはリアルタイムの
情報が得られるようになり利益を上げた小規模企業もあり、その種のサービスでフェイスブックが
利益を上げることも不可能ではない
・悪影響が阻止できればソーシャルメディアはプラス効果を発揮できる
・民主主義を最も必要としているときにAIがそれを蝕んでいる
⇒デジタル技術の方向が変わらない限り不平等を増大させAI監視で賃金は低下する
⇒対抗勢力の復活は中国でもアメリカでも西側諸国でも難しくなっている
⇒AIは民主主義を窒息させ独裁政府にも民主政府にも抑圧と操作のツールを提供している
・テクノロジー企業のエンゲージメントの最大化を追求する現行ビジネスモデルのままで、
ソーシャルメディアに吞み込まれていると、コミュニティとも民主的言説とも無縁になり、
別の現実がオンライン上に作り出される
⇒そこでは過激な意見が叫ばれ、エコーチェンバーが乱立し、情報は疑わしいか偏っており、
譲歩は忘れ去られるか非難される
・ウェブ3.0やメタバースのような新しいテクノロジーは違うという楽観もあるが、
⇒テクノロジー企業の現行のビジネスモデルと、政府の監視への拘りが続く限り、これらも
その傾向に加勢して強力なフィルターバブルを作り出し現実との乖離を広げるだろう
第11章「テクノロジーの方向転換」より
・19世紀後半のアメリカのテクノロジー変化と不平等(略)
⇒ジャーナリストによる暴露、市民活動家の業績、政治組織の結成による進歩主義運動へ
・1962年レイチェル・カーソン「沈黙の春」からの環境運動(略)
⇒組織化された政治運動が生まれ企業部門に圧力をかけ政策立案者を促した
(注目すべきは中国もテクノロジーの方向転換に乗り出したこと)
⇒語り方の修正、対抗勢力の構築、最重要課題に対処する具体的政策の立案と実施
⇒これらはデジタル技術の方向転換にも有効
・デジタル技術は以下のやり方で人間を補完できる
①労働者の現在の仕事の生産性を高める
②人間の能力を増す人工知能の助けによって新たなタスクを作り出す
③人間の意思決定のためにより優れた有用な情報を提供する
④異なるスキルとニーズを持つ人々を結びつける新たなプラットフォームを構築する
⇒例えば教育でデジタルとAIのテクノロジーは、教師にツールと情報を提供し個々の生徒の
弱点や強みをリアルタイムで把握、個人に合わせた教育を可能にし、教師向けに新しい生産的な
タスクを生み出し、教師が効率よく教育資源に出会えるプラットフォームも構築できる
⇒医療、娯楽、生産作業でも同様の道が開ける
⇒市民社会からの圧力と政府の規制と助成が不可欠だが必要なのは制度的枠組みと誘因
・労働者組織の新しい形態
⇒アマゾンやスターバックスの組合、ドイツ式の労働者協議会と業界組合の二層形式
・消費者の嗜好と行動は企業とテクノロジーに影響を与えるが、市民が行動する際の負担は
企業や政府の圧力で何倍にもなるので「ただ乗り(フリーライダー)」問題になる
⇒市民としての行動を促す市民社会組織が必要不可欠
⇒市民社会組織は議論と信頼できる情報のためのフォーラム(公共の場)の提供だけでなく、
活動への参加を互いに促すアメになり、ただ乗りする人を恥じ入らせるムチになる
・民主的制度のオンライン・コミュニティも可能
⇒K・ル・グウィンの「学べばできる」、オードリー・タンの新しい民主主義構想・・・
⇒今のソーシャルメディアと同じ過ち(過激化・煽動・誤情報・罵倒など)を避ける最善の方法は
親民主的なオンラインツールを新たな難題が出るたび更新が必要な発展途上ツールと見なし、
伝統的な対面による市民参加に代わるものではなく、それを補完するものと見なすこと
①監督と監視のためのツールを規制し、プライバシーのためのツールに助成する
②労働分配率を上げるテクノロジーの利用と開発への助成
(賃上げの幅が大きくなれば労働分配率も上がり企業はさらに助成金を受けられる)
③現場作業の質を向上させるイノヴェーション路線に先行助成する
・大手テクノロジー企業の解体
⇒一握りの企業が優れた他者を潰してデジタル技術、特にAIの方向を支配している
⇒それら企業のビジネスモデルと優先事項はオートメーションとデータ収集
⇒巨大テクノロジー企業を解体し多様なイノヴェーションが生まれる余地を作ることが、
テクノロジーの方向転換の重要な部分
⇒ただし解体だけではビジネスモデルは変わらないので規制か世論圧力による制限が必要
・税制改革(労働者より優遇されているオートメーション設備や資本への課税⇒略)
・労働者への投資
(アメリカやイギリスの離職率はドイツよりはるかに高く組合も役割を果たせないので、
ドイツ型実習制度は難しいが訓練投資への税控除などの政府助成が大きな役割を果たす)
・政府のリーダーシップ
政府が戦略的重要性を強調したペニシリン、防空、センサー、衛星、コンピュータ・・・
⇒一流科学者が集まり課題に取り組み、結果的に大きな需要が生まれ民間部門の参入を促した
⇒グリーンテクノロジー全般を支援するのと同じように労働者を補完し市民に力を与える
テクノロジーの開発を支援する
・プライバシー保護とデータ所有、デジタル広告税、富裕税、再分配とセーフティネットの強化、
教育、最低賃金、学術界の改革・・・(略)
・エイズの例
⇒1980年代後半からジャーナリストやメディア業界の著名人などの努力で語り方が変わり、
活動家が連携しはじめ、HIVの研究に多額の資金が投じられはじめ、世論の圧力が高まると
医学研究の方向が変わった
⇒1990年代後半には進行を遅らせる新薬が登場し、それとともに様々な画期的治療法ができ、
2010年代前半にはウィルスを抑え、大半の感染者が普通に近い生活をすることが可能になった
・HIV/エイズとの戦いでも再生可能エネルギーでも不可能と思われたことが急速に達成された
⇒語り方がひとたび変わり、人々が連携しはじめると、世論の圧力と金銭的誘因によって、
テクノロジーの変化は方向を転換する
⇒同じことが今後のデジタル技術の方向においても実現可能なのだ
・・・
「解説」(稲葉振一郎)より
(こちらも著作物からのメモなので公開に問題があれば非公開設定にします)
・本書は「生産力(その核心の技術)が経済の在り方を決め、下部構造としての経済が政治や
文化の在り方を決める」というマルクス主義や近代経済論の発想を批判する
⇒そしてテクノロジーの道筋は制度やビジョン、文化的規範で形作られることを歴史から示す
・技術革新がどのような状況下でエリート層にしか利益をもたらさなかったのか、あるいは
どのような状況下で共有され人々の暮らしが改善されたのかを、歴史から丹念に調査している
⇒技術革新の在り方が包括的で労働者に優しいか排他的で搾取的であるかが重要と何度も強調する
・とりわけ2010年代後半からの人工知能AIとその脅威論を意識して、機械化と労働と雇用の
関係についての経済学の議論を考察している
⇒そしてAI化もこれまでの機械化と同様に、その波及効果があって初めて賃金が上昇し、
生産性の向上の恩恵が及ぶ「生産性バンドワゴン」効果が生ずるとする
・新石器時代の農業革命による健康状態の悪化、西欧中世の技術革新の成果が大多数の農民には
寄与しなかった事実、近代産業革命の工場労働者の悲惨な状況などを実証的研究から説明する
・とりわけ19世紀後半から20世紀にかけての先進諸国の高度成長での豊かな生活の実現は、
「見えざる手」に導かれたのではなく、労働運動の発展に伴う社会保障・福祉国家体制による
⇒技術革新の成果がどのように配分されるか、どのような技術が採用されるかは「見えざる手」
というより、関係者の政治的取引や社会・技術についてのビジョンに大きく左右される
・20世紀末からのIT革命、金融革新、グローバル化は金融エリート、ビッグデータ起業家の
影響力を強め、ローカルな労働者や農民の組合運動などを通じた対抗力を弱めた
⇒民主政治そのものが不平等化やエリート・イデオロギー支配により崩されているとする
・前2作より「技術革新と成長の成果はどのように配分されるか、公平な配分を実現するには
どうすればよいか」に論点がさらに深められている
⇒技術革新と人工知能は世界的な関心事であり、今、問われているのはアメリカのハイテク
産業によって、中産階級にどの程度の押し下げ圧力がかかっているかということである
(以下、解説者の感想より)
・前作「国家はなぜ衰退するのか」から10年、著者らの理論の正しさは中露の改革の成功に
よってではなく停滞の持続によって証明されたことになる
・本書での巨大企業の独占解体、民衆の連帯による公正分配要求は、20世紀前半のアメリカ
進歩主義(革新主義とも)の再興の呼びかけともいえる
⇒ただしGAFAなどに独禁法で対抗しようという提言はわかりやすいが、民衆連帯の復興に
ついては、いまひとつわかりにくい
⇒都市に集中した工場労働者が農民より団結対抗で有利になり得た(資本家も妥協しやすかった)
のに対し、IT革命とグローバル化以降、雇用が柔軟化した世界で、このよう条件は失われつつ
あることは著者たちも気づいているはず
・公平なデジタル技術を目指す政策的介入では、アメリカ合衆国のような大規模な枠組みには
適応的ではなく、ドイツや北欧で相対的に成功しているように見える政策は、もう少し小さな
コミュニティを必要としているのかも知れない
⇒注目すべきはデータ所有権で、著者たちはEUのGDPRには点が辛いが、彼らが肯定的に
紹介するデータ所有権を保護するデータ・ユニオンの考え方はGDPR的な発想の徹底で、
「情報銀行」の考え方にも通じると思われる
・・・
うーむ、はてさてどうなんでしょう?
特に「ターゲティング広告に代わるビジネスモデル」として定額制のネットフリックスが
挙げられ、情報収集やAI投資はしているものの誤情報や政治的暴言が殆ど存在しないのは、
その目的がエンゲージメントの最大化ではないから、つーのには納得しました
またソーシャルメディアでも定額制は可能で、エコーチェンバーや誤情報の危険性はあるが、
エンゲージメントを追求する手法からは脱却できる、つーのも確かにそのとおりなんですが、
定額制で加入するソーシャルメディアとゆーイメージがイマイチ分かりませんでした
あと解説者も感想で書いておられるように、労働者・市民の連帯に関する部分がイマイチ
具体性に欠けるとゆーか実現可能性に欠けるとゆーか、そんな感じでしたね
ま、データ所有権とかは、そもそもわたくしの理解の範疇を超えてましゅが
「技術革新と不平等の1000年史」(下巻)の読書メモであります
ま、上巻記事と同じく、じつにてきとーなメモでしゅが・・・
下巻の表紙

下巻の惹句

下巻の奥付

下巻の目次

著者の略歴については上巻記事をご覧いただくとして、お二人は2023年の本書刊行後、
2024年にノーベル経済学賞を受賞されてますね
以下は思いつくままの個人メモなので正しくは本書をお読みください
(著作物からのメモなので公開に問題があれば非公開設定にします)
第7章「争い多き道」より
・20世紀が始まってからの70年間は、戦争や大恐慌など大きな逆転はあったものの、
新テクノロジーと労働者による対抗勢力と政府の規制を支える制度的構造により、
急成長の恩恵をほぼあらゆる階層が被った
⇒電力など新テクノロジーによる低コスト大量生産が新しい需要と仕事を生んだ
⇒労働者としては給与が上がり、消費者としては同じ金額で多くが買えるようになった
⇒これが生産性バンドワゴン
・アメリカ製造業における経営者とエンジニアを含むホワイトカラーの割合
⇒1860年で3%、1910年で13%、1940年で労働者の21%に
・フォードT型の例(略)⇒様々な職種・業種で新たな仕事を生んだ
・1938年以降のスウェーデンの例⇒世界有数の平等国家に(略)
・アメリカ・ニューディール政策の例(略)
・オートメーション化が進んでも1970年代初頭までは、どのスキルの労働者の需要も増加した
⇒自動交換になったベル電話会社の交換手は拡大するサービスや事業所で失業しなかった
・1960年のGMと組合との数値制御機械オペレーター裁判の例
⇒新機械のオペレーターには追加トレーニングを受け高い賃金を受け取る権利があるとの裁定
・西海岸のコンテナ導入と港湾労働組合の例
⇒東海岸では多くの港湾労働者が失業したが西海岸の組合はコンテナやクレーン導入を推進、
輸送量の増加に伴う新しい労働機会を要求し獲得していった
⇒肉体労働からクレーン操作などへ⇒中等教育があったから可能だった
・1970年までは生産性向上が平均賃金の上昇、様々なスキルグループの収入増につながっていた
(新しい業界では生産性の向上に伴いスキルの低い労働者の需要も増えた)
・戦後ヨーロッパのテクノロジーの方向性も同じだったので繁栄した
・第二次世界大戦後の数十年ほど急速に繁栄し、その繁栄が共有された時代はない
⇒女性、マイノリティ(特にアメリカ黒人)、移民は排除されていたが、排除された最大の集団は
ヨーロッパと北米の外側だった
(長期雇用・高賃金の日本や、民主化後・労働組合の韓国などは例外的に繁栄を共有できた)
・アメリカの戦後の繁栄を共有する経済モデルが攻撃されはじめ、テクノロジーの方向性が
さらなる自動化に向かうと、勢力が労働者と政府規制から離れ繁栄の共有が瓦解していく
⇒第8章「デジタル・ダメージ」へ
第8章「デジタル・ダメージ」より
・1960年頃からのハッカー倫理
⇒情報を支配し官僚化するIBMや権力に対抗した「分散化と自由」
⇒コンピューターへのアクセスは完全に自由で無制限であるべき
・彼らのテクノロジーなら大企業への対抗勢力が強化され、繁栄が共有されるはず、
と予測するのが合理的だが、結果は全く逆だった
⇒デジタル・テクノロジーにより賃金・国民所得の労働分配率は低下、賃金格差は拡大した
(グローバリゼーションや労働運動の弱体化などの要因もあるが、デジタル・テクノロジーが
仕事を自動化したせいで労働は資本に対して、低スキル者は大卒以上者に対して、不利になった)
・利益と株主価値の最大化こそが公益につながるとする新しいビジョン
⇒これが社会の大半の組織化原理となった
⇒このビジョンがもたらす膨大な富がテクノロジー・コミュニティを違う方向へ押しやった
⇒新しいビジョンはデジタル・ユートピアのビジョンであり、それを支えていたのは労働を
自動化して支配するソフトウェアのトップダウン設計だった
⇒結果は格差を生み出し生産性の向上も果たせなかった
⇒1980年以降、格差は労働者間だけでなく、不公平はあらゆる方面で増大した
・20世紀の殆どは国民所得の67~70%が労働者に渡ったが1980年代以降は資本側に改善、
2019年の労働分配率は60%を割った
⇒人件費の削減が最優先となり、組合のない工場へ、海外へ、アウトソーシングへ
⇒多くの低技能業務を安い外部業者にアウトソーシングしてコストを削減
⇒大企業の低技能労働者は賃金上昇のチャンネルを断ち切られた
・この方向性によりデジタルメニューがさらに自動化に移行し労働者から離れていった
⇒アメリカ経済の生産力(労働者一人あたり生産量)は増加しても、労働者の限界生産力
(追加の労働時間によって増加する生産量)は追随しなかった
・繁栄の共有は自動化で破壊されたのではなく、それを最優先にして労働者の新しい仕事創出を
蔑ろにした、バランスの悪いテクノロジー・ポートフォリオによって破壊された
⇒戦後数十年も自動化は加速したが労働需要を高めるテクノロジー変化でバランスがとれていた
⇒1980年以降、新しい仕事とテクノロジーが減っていった
⇒製造業の労働分配率は1985年の65%から2010年には46%に下落した
⇒アメリカ労働者の中流階級職(工場ブルーカラーやオフィス事務)の割合は1970年代に52%、
2018年には33%に下がり、彼らは建設清掃調理などの低賃金職へ、それらも自動化で消滅した
・低賃金国との競争は雇用を減らして賃金を抑えたが、格差の要因はテクノロジー変化の方向性
・「テクノロジー格差は避けがたいがグローバリゼーションは調整できる」という二分法
⇒これは誤りで切り離せないもの⇒デジタル・ツールでしかグローバル化できないから
⇒相乗効果で人件費を削減、1980年以降は職場も政治も対抗勢力が欠如しており助長した
⇒ほぼすべての先進国でブルーカラーと事務職の仕事が減った
⇒原因は西側諸国の制度的変化と新たなユートピア的デジタル・ビジョン
・1965年ラルフ・ネーダーの消費者保護運動
⇒様々な安全衛生機関の設置、独占企業の規制、雇用差別撤廃へ
⇒殆どが共和党ニクソン政権で実施された⇒ニューディール政策を維持した
・1953年のGM社長の(大量の株式を保有したままの)国防長官就任時の格言
⇒「国によいことはGMにもよいことで、その逆も同じ」
⇒これが1980年代にはありふれたものになった⇒1930年代からの180度転換
⇒「企業に有利になるようにルールを変えることは全ての人を助ける最善の方法」
⇒「富裕層の税金を減らせば投資が増えて生産性が向上し社会に貢献する」
⇒トリクルダウン経済⇒レーガンの経済政策に
⇒政府が規制しなくても消費者はより優れた製品を選ぶはず⇒これは理想化された市場が前提
・ケインズから反転⇒ハイエク⇒スティグラーとフリードマン⇒ジェンセンの修正案へ
⇒1970年の「フリードマン・ドクトリン」
⇒企業の社会的責任は利益を出し株主に高い配当を生み出すこと
⇒企業の株価を上げさせるため経営陣に巨額のボーナスとストックオプションを与える
⇒CEOは株主にのみ社会的責任を負う⇒労働者に高い賃金を払う義務はない
・経営者のプロ化のはじまりは1970年代のビジネススクール修了者から
⇒上場企業CEOに占める修了者の割合は1980年で25%、2020年で43%を超えた
⇒彼らはフリードマン・ドクトリンを実践し賃金を削減したが当初は主流ではなかった
⇒1973年のオイルショックとスタグフレーションで一変して主流になった
⇒1964年にゴールドウォーターが提唱した規制撤廃などを1979年にレーガンが肯定した
・1976年に設立されたマン経済研究所
⇒多くの裁判官への経済学研修はフリードマン・スティグラー・ボークの特殊な思想によった
⇒研修を修了した裁判官らは一貫して規制当局や独占禁止法に反対する判決を出しはじめた
・1982年に設立されたフェデラリスト協会
⇒反規制企業幹部からの献金で反規制派の法学生・裁判官・最高裁判事を育成した
⇒現在の最高裁判事のうち6人が修了生
・大企業の市場支配力はライバル出現を阻止し経営幹部と株主を富ませる
⇒超巨大企業による独占は豊かな株主をさらに豊かにして格差を増幅する
⇒利益を従業員と分け合うこともあったが制度的変化で労働者の力が衰退した
・アメリカとドイツの労働組合の違い(企業単位と業界単位)
・1981年レーガンの航空管制組合への介入・スト職員解雇⇒これに民間企業が続いた
・アメリカ労働組合の低下理由は、
⇒企業と政治家の反組合姿勢が強硬になったこと
⇒組合がしっかりしていた製造セクターでの雇用が減少したこと
・1979年サッチャーの規制緩和優先・企業支持によりイギリスの組合も大半を失った
・人件費の削減にはデジタル・テクノロジーが不可欠だった
⇒効率的なソフトウェアにより熟練を要しない多くの仕事を自動化または削減できる
⇒1980年代からバックオフィスの仕事が急速に自動化され低スキル事務職が減少していく
⇒1990年代には製造業でロボットが急速に普及しブルーカラーが激減していく
(1980年代に遅れたのは日本やドイツのような人口減少圧力がなかったから)
・ドイツや日本などのソフトウェアツール・ロボット化は当初はアメリカと全く異なった
⇒ドイツでは組合交渉による再訓練・再配置と、そのためのソフトウェア開発
⇒ソフトウェアによる問題検出などで労働者による限界生産性は着実に上昇した
(ドイツは戦後の労働者不足が続きスキルへの投資で労働者の能力を活用した)
⇒日本は柔軟な生産を重視し完全自動化せず、従業員のための複雑で高賃金の仕事を作った
(日本は労働人口の減少に直面していた)
⇒北欧でも団体交渉により労働者に有利なテクノロジーとの組み合わせを導入した
・その後フリードマン・ドクトリンとコスト削減のためのデジタル・ツール利用の考え方は、
ビジネススクール出身の経営者・経営コンサルティングによって世界中の企業に広まり、
基本的にすべての先進国でブルーカラーや事務職の割合を低下させた
⇒このアメリカの進歩の方向性が世界中に重大な影響を及ぼした
・1980年代に登場した新しいデジタル・ビジョン
⇒フリードマン・ドクトリンに根ざした人件費削減とハッカー倫理を結びつけたもの
⇒エリート主義的なアプローチが業界を支配し経済格差を正当化する
・生産性バンドワゴンが機能しにくくなるのは、
①雇用主の力が従業員の力より強すぎるとき
②テクノロジーが労働者に不利な方向に進んでいるとき
③生産性向上が他のセクターの雇用拡大につながらないとき
・過去数十年、毎日新製品やアプリが提供されているのに共有すべき生産性は鈍化している
⇒1960年代70年代の電話やテレビは壊れるまで何十年と使っていた
⇒今は数年ごとに電子機器を買い替えるのに投資に対する利益はごく少ない
・トヨタGMのカリフォルニア州フリーモント工場の成功例(略)
(つい最近、イーロン・マスクもテスラの全自動化工場で同じ教訓を学んだ)
・業界リーダーから押しつけられたデジタル・ソリューションは、公共の利益にかなうと
されたが、大半の労働者は仕事と生活手段を失ってしまった
⇒デジタル・テクノロジーを発展させる方法はほかにもあった
⇒初期のハッカーたちは異なるビジョンに導かれ大企業からフロンティアを奪い取った
・テクノロジーの偏向は間違いなく選択されたもので、しかも社会的に構築された選択だった
⇒その後の新しいツールにより事態がはるかに悪くなりはじめた⇒人工知能AI
第9章「人工闘争」より
・「起業家が主導する(知能機械を含む)新しいテクノロジーから必然的に恩恵が得られる」
⇒本章ではこのビジョンがレセップスの運河理念と同じ幻想であることを論じる
・テクノロジーの方向性を考える際に重要なのは、そのテクノロジーが人間の目的にとって
どれだけ役立つかということであり、これを「MU(機械有用性)」とする
⇒これまでの歴史は高い機械有用性を備えた画期的イノベーションを生んできた
⇒機械知能への心酔は大規模データ収集と労働者や市民の無力化、仕事の自動化競争になるだけ
・コンピュータもジャガード織機と同じでプログラマーに指定されたとおり実行するもの
⇒対する人工知能の合意された定義はないが、現在あらゆる領域に適用されている
・ソフトウェアと機械はさまざまなルーチン業務を自動化してきた
⇒人間の業務のうちルーチンは一握りで大半は問題解決を必要とする
⇒AIはルーチン業務以外でも予測可能な業務ならできるようになった
⇒さらに医師・弁護士・銀行員の仕事の一部など高度な業務を学習している
・なので「AIが有益な変革をもたらし、その恩恵は万人に届く」
⇒とGAFAの現CEO全員が主張しているが、そんな証拠はない
⇒これまでAIはもっぱらオートメーション化に使われ、その弊害は低スキル労働者に
⇒彼らがAIから恩恵を受けている証拠もなく、GAFAの経営陣と株主が利益を得ている
⇒「誰も働かなくていい未来」どころか賃金が下がり労働者の需要が減る未来
・チューリングテストとAI
⇒評価者が機械と人と会話して、どちらが人か見破られなければその機械は知能を持っている
⇒この定義での知能機械はまだないが人並みに実行できるタスクが多いほど知能は高い
⇒チューリングも機械意識は留保していたが、現代のAI分野は人工知能に向かっている
・新しいAIアプローチ
①大量のデータ使用⇒多くのデータから深層学習し画像を「猫」と認識する
②拡張性と転移性⇒ひとたび「猫」と認識すれば翻訳など無関係な問題にも移れる
③このアプローチがオートメーション拡大の方向に向かっている
⇒トップダウン式テクノロジーは人件費削減の企業に馴染む
・現在のAIは、キャッサバの先住民の調理法を原始的・非科学的伝統だとして理解できず、
シアン化合物中毒になったヨーロッパ人と同じ
・信号機の撤去実験の結果⇒交通の流れは大幅に改善され事故も怪我も増えなかった
⇒テクノロジーが人間から主体性と判断力を奪っていた
・チューリング直系の現在の対AIアプローチでは人間の知能にすぐ迫れるとは考えにくく、
人間の判断業務の多くで高度な生産性をあげられるとも思えない
⇒統計的アプローチには人間の社会的な知能や臨機応変な知能に相当する要素がない
・過学習・過剰適合の問題
⇒オオカミとハスキー犬を区別するタスク(AIは無関係な背景など過学習から区別)
⇒現在AI資金が使われているのは大量データ収集と限定的タスクの自動化
⇒人間を機械に置き換えておきながら生産性は向上していない
・デジタル・テクノロジー、特にAIは専ら自動化と監視に使われている
⇒デジタル・テクノロジーが人間を助け補完する方向はあった
⇒ウィーナー、リックライダー、エンゲルバート、デミングが持っていた別のビジョン
⇒AIよりMU(機械有用性)⇒人間の目的にかなった使い方ができること
①日本の製造業におけるデミングの功績⇒デミング賞
②MUによる新しいタスクの創出⇒個別教育、医療現場など
③人間の創造力への有益な情報の供給⇒インターネットwwwアクセス
④新しい市場や顧客の創出⇒南インド・ケララ州の漁業の携帯電話、ケニアのモバイル通貨・
送金システム(Mペサ)、エアビーアンドビー(宿泊施設の貸し借り)、AI翻訳より高品質な
マルチリンガルの人を集めた言語サービスのプラットフォーム・・・
・ただし、このような有望な応用例が搾取・監視に使われるか否かは、市場インセンティブと
既存ビジョンの優先事項への対抗勢力のいかんに左右される
・デジタル・テクノロジーと大企業の合体は2000年代半ばまでに億万長者を生んできた
⇒2010年代にAIツールが広まりだすと富は何倍にも増えた
⇒AIベースのオートメーションはたいして生産性を向上しない
⇒それでもAI業界の大物や一流経営者を富ませるのは、これが労働者から力を奪うからで、
人々の情報をお金に変えるから
⇒今後10年で各種機器がクラウドに常時接続され、より大規模なデータ収集が可能になる
・現在はH.G.ウェルズのタイムマシンに描かれたディストピア未来に近づきつつある
⇒社会は二層構造になっており、実業界の大物たち、テクノロジー界のリーダーたちから、
普通の人々はミスの元で取り替えるべきものと思われている
⇒この状態は必然ではなく、デジタル・テクノロジーが自動化だけに使われる理由もなく、
AIが無差別に適応され、機械有用性の追求の代わりに機械知能に魅入られる必然もなかった
・この難局から抜け出るには社会的な力の分布図を変えテクノロジーを別の方向に向ければよい
⇒変化にはボトムアップ式の民主的プロセスが必須になるが、AIはその民主主義も壊しつつある
第10章「民主主義の崩壊」より
・2021年、中国の女子テニス選手のウェイボー投稿の20分以内削除の例(略)
・2014年以降に強化されてきた新彊ウィグル自治区住民の体系的データ収集の例(略)
(世界屈指のAI企業などが中国政府に協力、他の地域にも広がっている)
・中国の社会信用システムの例(略)
⇒インターネットとソーシャルメディアが民主主義に果たすと思われてきた効果とは正反対
・初期のフィリピン大統領弾劾でのテキストメッセージ利用、アラブの春でのフェイスブックと
ツイッターの活用が、なぜ独裁政府・過激派・誤情報の強力な武器になったのか
⇒有害な影響は不可避ではなく開発の仕方のせい
⇒大量データの収集で操作をもくろむ政府や企業の強力なツールとなった
・中国のデジタル検閲の歴史(略)
・スパイウェア「ペガサス」の濫用(略)
・ハラリの「テクノロジーは専制を贔屓する」と「テクノロジーは民主化を進める」
⇒いずれも間違いでデジタル技術は親民主的でも反民主的でもない
⇒すべてはテクノロジーが向かう方向の選択次第
・デジタル技術の暗号化は通信傍受を阻止でき、VPNは検閲を回避でき、トーアのような
検索エンジンは(現時点では)政府による解読が不可能なのでプライバシーと安全を提供する
⇒それなのにデジタルによる民主化という初期の希望が潰えたのは、テクノロジー界の取り組みが
金銭と権力のある政府の検閲に集中したから
・AIはさらに本格的な監視技術の方向へ進んでいる
(中国では監視需要が技術革新の方向にも影響し、顔認識などの技術が世界トップに)
(ファーウェイは監視抑圧のAIツールを50ヶ国に輸出した)
・ミャンマーの(ジェノサイドの媒体になった)フェイスブックの例(略)
⇒スリランカでもインドでも扇動者を排除しなかった
⇒ヘイトスピーチも過激主義も誤情報もサイトのエンゲージメントと閲覧時間を増加させ、
より多くの個人向けデジタル広告を得ることができるから
・2016年アメリカ大統領選挙でのフェイスブックの誤情報増殖も、2021年の暴動扇動も、
ユーチューブもツイッターも他のプラットフォームも、アルゴリズムで提供される誤情報と
情報操作にユーザーを引き込み共有され続けた
・ソーシャルメディアがこの残念な事態に至ったのは必然ではなく大手テクノロジー企業が
下した決定のせい
⇒それは「個人向けデジタル広告から収益を得る」という決定
⇒その価値は注目の度合い(エンゲージメントと閲覧時間)に左右され、その最も効果的な
方法が怒りや憤りといった強い感情を培うことだと判明したから
・グーグルの誕生と誤情報の根源(略)
・2020年のアメリカ大統領選挙後にフェイスブックが誤解を招く記事や信頼できないサイトに
加担しないアルゴリズムに変更すると、悪意のコンテンツや誤情報などは拡散しなくなった
⇒しばらくして、この変更は取り消された
⇒元に戻した主な理由は怒りや感情を掻き立てる度合いが減れば、そのプラットフォームの
閲覧時間が減ると判明したから
(ザッカーバーグらは言論の自由を理由に取り消しを擁護している)
・利潤動機がエンゲージメントや怒りの最大化を優先するがテクノロジー企業の創業理念も重要
⇒当初オンライン・コミュニケーションにはハーバーマスの「公共圏」概念が期待されたが、
大手テクノロジー企業のビジネスモデル・AI幻想と民主主義は相容れない
⇒大衆は操作と収集の対象として扱われるが、幹部の多くは自らを民主主義者とみなしている
⇒監視とデータ収集がテクノロジー発展の唯一の道ではない
⇒利潤動機とAI幻想に導かれた反民主的軌道に独裁的政府とテクノロジー企業が関わっている
・前例としてのラジオ・プロパガンダと戦後のドイツ基本法(略)
・ターゲティング広告に代わるビジネスモデル
⇒定額制モデルのネットフリックスでも情報収集やAI投資はしているが誤情報や政治的暴言は
殆ど存在しない⇒その目的がエンゲージメントの最大化ではないから
⇒ソーシャルメディアでも定額制は可能でエコーチェンバーや誤情報の危険性はあるが、
エンゲージメントを追求する手法からは脱却できる
⇒フェイスブックの新たな多言語サービスによって、関連する国々の中にはリアルタイムの
情報が得られるようになり利益を上げた小規模企業もあり、その種のサービスでフェイスブックが
利益を上げることも不可能ではない
・悪影響が阻止できればソーシャルメディアはプラス効果を発揮できる
・民主主義を最も必要としているときにAIがそれを蝕んでいる
⇒デジタル技術の方向が変わらない限り不平等を増大させAI監視で賃金は低下する
⇒対抗勢力の復活は中国でもアメリカでも西側諸国でも難しくなっている
⇒AIは民主主義を窒息させ独裁政府にも民主政府にも抑圧と操作のツールを提供している
・テクノロジー企業のエンゲージメントの最大化を追求する現行ビジネスモデルのままで、
ソーシャルメディアに吞み込まれていると、コミュニティとも民主的言説とも無縁になり、
別の現実がオンライン上に作り出される
⇒そこでは過激な意見が叫ばれ、エコーチェンバーが乱立し、情報は疑わしいか偏っており、
譲歩は忘れ去られるか非難される
・ウェブ3.0やメタバースのような新しいテクノロジーは違うという楽観もあるが、
⇒テクノロジー企業の現行のビジネスモデルと、政府の監視への拘りが続く限り、これらも
その傾向に加勢して強力なフィルターバブルを作り出し現実との乖離を広げるだろう
第11章「テクノロジーの方向転換」より
・19世紀後半のアメリカのテクノロジー変化と不平等(略)
⇒ジャーナリストによる暴露、市民活動家の業績、政治組織の結成による進歩主義運動へ
・1962年レイチェル・カーソン「沈黙の春」からの環境運動(略)
⇒組織化された政治運動が生まれ企業部門に圧力をかけ政策立案者を促した
(注目すべきは中国もテクノロジーの方向転換に乗り出したこと)
⇒語り方の修正、対抗勢力の構築、最重要課題に対処する具体的政策の立案と実施
⇒これらはデジタル技術の方向転換にも有効
・デジタル技術は以下のやり方で人間を補完できる
①労働者の現在の仕事の生産性を高める
②人間の能力を増す人工知能の助けによって新たなタスクを作り出す
③人間の意思決定のためにより優れた有用な情報を提供する
④異なるスキルとニーズを持つ人々を結びつける新たなプラットフォームを構築する
⇒例えば教育でデジタルとAIのテクノロジーは、教師にツールと情報を提供し個々の生徒の
弱点や強みをリアルタイムで把握、個人に合わせた教育を可能にし、教師向けに新しい生産的な
タスクを生み出し、教師が効率よく教育資源に出会えるプラットフォームも構築できる
⇒医療、娯楽、生産作業でも同様の道が開ける
⇒市民社会からの圧力と政府の規制と助成が不可欠だが必要なのは制度的枠組みと誘因
・労働者組織の新しい形態
⇒アマゾンやスターバックスの組合、ドイツ式の労働者協議会と業界組合の二層形式
・消費者の嗜好と行動は企業とテクノロジーに影響を与えるが、市民が行動する際の負担は
企業や政府の圧力で何倍にもなるので「ただ乗り(フリーライダー)」問題になる
⇒市民としての行動を促す市民社会組織が必要不可欠
⇒市民社会組織は議論と信頼できる情報のためのフォーラム(公共の場)の提供だけでなく、
活動への参加を互いに促すアメになり、ただ乗りする人を恥じ入らせるムチになる
・民主的制度のオンライン・コミュニティも可能
⇒K・ル・グウィンの「学べばできる」、オードリー・タンの新しい民主主義構想・・・
⇒今のソーシャルメディアと同じ過ち(過激化・煽動・誤情報・罵倒など)を避ける最善の方法は
親民主的なオンラインツールを新たな難題が出るたび更新が必要な発展途上ツールと見なし、
伝統的な対面による市民参加に代わるものではなく、それを補完するものと見なすこと
①監督と監視のためのツールを規制し、プライバシーのためのツールに助成する
②労働分配率を上げるテクノロジーの利用と開発への助成
(賃上げの幅が大きくなれば労働分配率も上がり企業はさらに助成金を受けられる)
③現場作業の質を向上させるイノヴェーション路線に先行助成する
・大手テクノロジー企業の解体
⇒一握りの企業が優れた他者を潰してデジタル技術、特にAIの方向を支配している
⇒それら企業のビジネスモデルと優先事項はオートメーションとデータ収集
⇒巨大テクノロジー企業を解体し多様なイノヴェーションが生まれる余地を作ることが、
テクノロジーの方向転換の重要な部分
⇒ただし解体だけではビジネスモデルは変わらないので規制か世論圧力による制限が必要
・税制改革(労働者より優遇されているオートメーション設備や資本への課税⇒略)
・労働者への投資
(アメリカやイギリスの離職率はドイツよりはるかに高く組合も役割を果たせないので、
ドイツ型実習制度は難しいが訓練投資への税控除などの政府助成が大きな役割を果たす)
・政府のリーダーシップ
政府が戦略的重要性を強調したペニシリン、防空、センサー、衛星、コンピュータ・・・
⇒一流科学者が集まり課題に取り組み、結果的に大きな需要が生まれ民間部門の参入を促した
⇒グリーンテクノロジー全般を支援するのと同じように労働者を補完し市民に力を与える
テクノロジーの開発を支援する
・プライバシー保護とデータ所有、デジタル広告税、富裕税、再分配とセーフティネットの強化、
教育、最低賃金、学術界の改革・・・(略)
・エイズの例
⇒1980年代後半からジャーナリストやメディア業界の著名人などの努力で語り方が変わり、
活動家が連携しはじめ、HIVの研究に多額の資金が投じられはじめ、世論の圧力が高まると
医学研究の方向が変わった
⇒1990年代後半には進行を遅らせる新薬が登場し、それとともに様々な画期的治療法ができ、
2010年代前半にはウィルスを抑え、大半の感染者が普通に近い生活をすることが可能になった
・HIV/エイズとの戦いでも再生可能エネルギーでも不可能と思われたことが急速に達成された
⇒語り方がひとたび変わり、人々が連携しはじめると、世論の圧力と金銭的誘因によって、
テクノロジーの変化は方向を転換する
⇒同じことが今後のデジタル技術の方向においても実現可能なのだ
・・・
「解説」(稲葉振一郎)より
(こちらも著作物からのメモなので公開に問題があれば非公開設定にします)
・本書は「生産力(その核心の技術)が経済の在り方を決め、下部構造としての経済が政治や
文化の在り方を決める」というマルクス主義や近代経済論の発想を批判する
⇒そしてテクノロジーの道筋は制度やビジョン、文化的規範で形作られることを歴史から示す
・技術革新がどのような状況下でエリート層にしか利益をもたらさなかったのか、あるいは
どのような状況下で共有され人々の暮らしが改善されたのかを、歴史から丹念に調査している
⇒技術革新の在り方が包括的で労働者に優しいか排他的で搾取的であるかが重要と何度も強調する
・とりわけ2010年代後半からの人工知能AIとその脅威論を意識して、機械化と労働と雇用の
関係についての経済学の議論を考察している
⇒そしてAI化もこれまでの機械化と同様に、その波及効果があって初めて賃金が上昇し、
生産性の向上の恩恵が及ぶ「生産性バンドワゴン」効果が生ずるとする
・新石器時代の農業革命による健康状態の悪化、西欧中世の技術革新の成果が大多数の農民には
寄与しなかった事実、近代産業革命の工場労働者の悲惨な状況などを実証的研究から説明する
・とりわけ19世紀後半から20世紀にかけての先進諸国の高度成長での豊かな生活の実現は、
「見えざる手」に導かれたのではなく、労働運動の発展に伴う社会保障・福祉国家体制による
⇒技術革新の成果がどのように配分されるか、どのような技術が採用されるかは「見えざる手」
というより、関係者の政治的取引や社会・技術についてのビジョンに大きく左右される
・20世紀末からのIT革命、金融革新、グローバル化は金融エリート、ビッグデータ起業家の
影響力を強め、ローカルな労働者や農民の組合運動などを通じた対抗力を弱めた
⇒民主政治そのものが不平等化やエリート・イデオロギー支配により崩されているとする
・前2作より「技術革新と成長の成果はどのように配分されるか、公平な配分を実現するには
どうすればよいか」に論点がさらに深められている
⇒技術革新と人工知能は世界的な関心事であり、今、問われているのはアメリカのハイテク
産業によって、中産階級にどの程度の押し下げ圧力がかかっているかということである
(以下、解説者の感想より)
・前作「国家はなぜ衰退するのか」から10年、著者らの理論の正しさは中露の改革の成功に
よってではなく停滞の持続によって証明されたことになる
・本書での巨大企業の独占解体、民衆の連帯による公正分配要求は、20世紀前半のアメリカ
進歩主義(革新主義とも)の再興の呼びかけともいえる
⇒ただしGAFAなどに独禁法で対抗しようという提言はわかりやすいが、民衆連帯の復興に
ついては、いまひとつわかりにくい
⇒都市に集中した工場労働者が農民より団結対抗で有利になり得た(資本家も妥協しやすかった)
のに対し、IT革命とグローバル化以降、雇用が柔軟化した世界で、このよう条件は失われつつ
あることは著者たちも気づいているはず
・公平なデジタル技術を目指す政策的介入では、アメリカ合衆国のような大規模な枠組みには
適応的ではなく、ドイツや北欧で相対的に成功しているように見える政策は、もう少し小さな
コミュニティを必要としているのかも知れない
⇒注目すべきはデータ所有権で、著者たちはEUのGDPRには点が辛いが、彼らが肯定的に
紹介するデータ所有権を保護するデータ・ユニオンの考え方はGDPR的な発想の徹底で、
「情報銀行」の考え方にも通じると思われる
・・・
うーむ、はてさてどうなんでしょう?
特に「ターゲティング広告に代わるビジネスモデル」として定額制のネットフリックスが
挙げられ、情報収集やAI投資はしているものの誤情報や政治的暴言が殆ど存在しないのは、
その目的がエンゲージメントの最大化ではないから、つーのには納得しました
またソーシャルメディアでも定額制は可能で、エコーチェンバーや誤情報の危険性はあるが、
エンゲージメントを追求する手法からは脱却できる、つーのも確かにそのとおりなんですが、
定額制で加入するソーシャルメディアとゆーイメージがイマイチ分かりませんでした
あと解説者も感想で書いておられるように、労働者・市民の連帯に関する部分がイマイチ
具体性に欠けるとゆーか実現可能性に欠けるとゆーか、そんな感じでしたね
ま、データ所有権とかは、そもそもわたくしの理解の範疇を超えてましゅが

