ミリタリーグッズ
2022年11月09日
ヒトコブラクダ層ぜっと!!!
とーとつですが・・・
「ヒトコブラクダ層ぜっと」とゆー小説のご紹介
ま、メソポタミアつながりとゆーか、ひさしぶりに読んだ万城目学作品であります
著者紹介・発行所・発行年月日などは奥付のとおりですが、こちらの著者や原案者と
ほぼ同時期に京都で学生時代を過ごされてたんですね・・・
惹句にもありましたが、まさにローラーコースター小説で、舞台は日本からイラクへ、
現代からメソポタミア期へと、時空を超えて行ったり来たりで大いに楽しめました。
ちなみにわたくし、著者の大阪、京都、奈良が舞台の作品は殆ど読みましたが、
海外が舞台の作品を読むのは今回がはじめてでした。
で、オハナシは・・・
幼い頃、自宅を謎の隕石が直撃して両親が亡くなった、三つ子の兄弟の物語で、三人が別々の
超能力を持ってたものの、ずっと隠して暮らしてきたのが20歳の誕生日に偶然火災に出会い、
三人がそれぞれの超能力を使って他人を無事に救出したことから、それ以降は困っている人を
こっそり・ひっそりと助けるため、協力して超能力を使うようになり・・・
ただし超能力といっても大きな力ではなく「3秒ルール」という限界もあって・・・
(と、この辺りはミュータントSFのパターンですね)
やがて謎の女性が現れ三人に「ヒトコブラクダ層を見つけて欲しい」という謎の依頼をして、
「成功すれば三人の夢を叶えてあげます」と約束します
で、謎の女性の強大な権限で三人は自衛隊に入隊、PKOでイラクへ派遣されることになり・・・
(この辺りは英雄冒険譚SFの召命・旅立ち・越境ですね)
・・・と、オハナシは中東の砂漠へと展開して行きます
ちなみに長男の夢は巨大肉食恐竜の化石を日本で発見すること、
中兄の夢はメソポタミアで未発見の都市遺跡を発掘すること、
末弟の夢はズルしない本物の戦いを体験すること、
とゆー設定なので、三兄弟それぞれが恐竜・メソポタミア・戦いの面白さを語るシーンが
たっぷりとあり、さらにイラク情勢や世界情勢のシビアな現状も、民族史や文明史に関する、
仮説も含む持論展開もあって、広い分野の最新情報を分かりやすく紹介されてることからも、
著者は正統派のSF作家でもあると、あらためて感じました
と、イラクでは自衛隊、米軍、政府軍から古代戦士まで入り乱れての戦いに・・・
(こうなるとタイムスリップモノつーかアクションモノつーか戦場モノつーか・・・)
舞台が沙漠なので、砂漠と礫漠の違いも水やレーションの重要性もきちんと描いてあって、
戦闘シーンではスナイパーとスポッターの連携や大口径ライフルの扱い方とかも・・・
さらに異次元空間からフォン・デニケン以来の「古代の神々は宇宙から」説まで出てきて、
わたくしの好きな分野を総ナメしてくれるような展開になってですね・・・
ま、これ以上書くと物語のネタバレになるので我慢しますが、ともかく・・・
恐竜とメソポタミアと戦闘に興味をお持ちの方!!!にはオススメの作品です きっぱりと
「ヒトコブラクダ層ぜっと」とゆー小説のご紹介
ま、メソポタミアつながりとゆーか、ひさしぶりに読んだ万城目学作品であります
著者紹介・発行所・発行年月日などは奥付のとおりですが、こちらの著者や原案者と
ほぼ同時期に京都で学生時代を過ごされてたんですね・・・
惹句にもありましたが、まさにローラーコースター小説で、舞台は日本からイラクへ、
現代からメソポタミア期へと、時空を超えて行ったり来たりで大いに楽しめました。
ちなみにわたくし、著者の大阪、京都、奈良が舞台の作品は殆ど読みましたが、
海外が舞台の作品を読むのは今回がはじめてでした。
で、オハナシは・・・
幼い頃、自宅を謎の隕石が直撃して両親が亡くなった、三つ子の兄弟の物語で、三人が別々の
超能力を持ってたものの、ずっと隠して暮らしてきたのが20歳の誕生日に偶然火災に出会い、
三人がそれぞれの超能力を使って他人を無事に救出したことから、それ以降は困っている人を
こっそり・ひっそりと助けるため、協力して超能力を使うようになり・・・
ただし超能力といっても大きな力ではなく「3秒ルール」という限界もあって・・・
(と、この辺りはミュータントSFのパターンですね)
やがて謎の女性が現れ三人に「ヒトコブラクダ層を見つけて欲しい」という謎の依頼をして、
「成功すれば三人の夢を叶えてあげます」と約束します
で、謎の女性の強大な権限で三人は自衛隊に入隊、PKOでイラクへ派遣されることになり・・・
(この辺りは英雄冒険譚SFの召命・旅立ち・越境ですね)
・・・と、オハナシは中東の砂漠へと展開して行きます
ちなみに長男の夢は巨大肉食恐竜の化石を日本で発見すること、
中兄の夢はメソポタミアで未発見の都市遺跡を発掘すること、
末弟の夢はズルしない本物の戦いを体験すること、
とゆー設定なので、三兄弟それぞれが恐竜・メソポタミア・戦いの面白さを語るシーンが
たっぷりとあり、さらにイラク情勢や世界情勢のシビアな現状も、民族史や文明史に関する、
仮説も含む持論展開もあって、広い分野の最新情報を分かりやすく紹介されてることからも、
著者は正統派のSF作家でもあると、あらためて感じました
と、イラクでは自衛隊、米軍、政府軍から古代戦士まで入り乱れての戦いに・・・
(こうなるとタイムスリップモノつーかアクションモノつーか戦場モノつーか・・・)
舞台が沙漠なので、砂漠と礫漠の違いも水やレーションの重要性もきちんと描いてあって、
戦闘シーンではスナイパーとスポッターの連携や大口径ライフルの扱い方とかも・・・
さらに異次元空間からフォン・デニケン以来の「古代の神々は宇宙から」説まで出てきて、
わたくしの好きな分野を総ナメしてくれるような展開になってですね・・・
ま、これ以上書くと物語のネタバレになるので我慢しますが、ともかく・・・
恐竜とメソポタミアと戦闘に興味をお持ちの方!!!にはオススメの作品です きっぱりと
2022年09月01日
飛行艇時代・・・
9月に入りましたが前回記事からの続きとゆーか、その原作とゆーか、今回は・・・
『映画「紅の豚」原作~飛行艇時代~増補改訂版』の(一部の)ご紹介であります
表紙
裏表紙
著者、発行所、発行年月日なんぞは奥付のとおり
例によって目次のみのご紹介・・・
映画の原作となった宮崎駿の漫画「飛行艇時代」第1話~第3話(全話)に加え、映画に出てくる
飛行艇やその背景にある歴史、モデル化の過程などを、さらに増補改訂した本であります。
どの項目も面白く、丹念に読んでメモしましたが、今回記事では原作漫画をメインに・・・
まずはYouTubeで岡田斗司夫が解説していた映画の冒頭シーンの謎・・・
→ポルコのアジトのテーブル上には飲みかけの赤ワインがあるのに、
→テーブルの下にはバケツに冷やされた未開封のシャンパンがある
→アジトの砂浜にはポルコの客船用デッキチェアと同じ柄のバスタオルが敷かれている
→ふだんはランニング短パン姿で裸足のポルコが飛行服に手袋ブーツの完全装備で微睡んでいる
→アジトの浜辺には小さな手漕ぎボートが置いてある・・・
これらの理由が何なのか、ひとつひとつ論証していく過程がじつに面白かったのですが、
ま、おそらく彼の妄想だったんでしょうと思いながら、全3話を読んでいくと・・・
第1話から
→まず「マンマユート団は人質に美少女をさらうので知られていた」との説明書きがあり、
→マンマユートのボスが人質の美少女(カリオストロのクラリスそのまま)を抱きかかえ、
「これでも撃てるかブタ野郎」と叫ぶと、
→「美少女は世界の宝だぞ」と、エンジンやラジエーターを狙って撃ち返すポルコ
→銃撃で不時着水したダボハゼ号にポルコが、
→「ロリコンのマンマユートへ、ムスメと金貨半分をおいてウセロ」と発光信号を送り、
→美少女が銃撃戦の隙にダボハゼ号から着衣のまま海に飛び込み逃げるシーンがあって、
→「イエーイ、ヒロインはこうでなきゃ」と喜ぶポルコが着水、彼女を海から愛機に救出、
→「アドリア海の陽光ですぐに乾きますよ」と、彼女の着衣上下!を主翼上に並べて干し、
エンジンを整備する(ふりをしている?)ポルコ
→「ありがとう」と毛布にくるまりコックピットの後ろに腰掛ける美少女
→「さあ、ご両親の元へお送りしましょう」と、彼女を膝の上に乗せて操縦するポルコ・・・
そう、この帰路の途中に彼女を膝の上に乗せたままアジトに立ち寄る計画(下心)があった
とすれば、映画冒頭シーンのお膳立ては全て辻褄が合ってくるわけで・・・ま、知らんけど・・・
第2話から
(エンジンのオーバーホールのためミラノに向かうことになったポルコ)
→「ついでにパイロットの命の洗濯もするか」と鼻歌混じりで無精ひげを剃るポルコ
→「真っ白なシーツ、美しい女達、ウヒョヒョ」(このセリフは映画にもありましたね)
(ミラノのピッコロ社に着いたポルコ)
→「誰だい、あのカワイコちゃんは?」
→「アメリカに行とったわしの孫じゃ、手を出すなよ」とピッコロ親爺
→製図台の前に座ったまま眠り込んだフィオに、そっと自分のコートをかけてやるポルコ
(マジョーレ湖での調整とテスト飛行を終え、フィオを連れミラノを飛び立つポルコ)
→「(フィオに)手を出すなぁ」と見送るピッコロ親爺
→「ひ孫を楽しみに待ってろ」と飛び去るポルコ
(このセリフは、さすがに映画には使えませんね)
→「わたしの前にはいつもフィオの笑顔があった。彼女は心から飛行を楽しんでいた・・・」
(この漫画でも映画でも、眼鏡式照準器にはフィオの顔が映り込んでいる)
第3話から
(夜、テントは(空賊たちが潜んでたので)臭いので野宿になった、との説明があり)
→やがてフィオは安らかな寝息をたてた
→「イイ子だ、ほんとにイイ子だぜ・・・」
(カーチス(漫画ではドナルド・チャック)との対決当日)
→フィオの人気はたいしたものだった。
→みんなが一緒に写真を撮りたがり、空賊共すら歯をみがいて来たのだ・・・
(カーチスとの空中戦と殴り合いでボロボロになりながらも最後に勝利し)
→抱きつくフィオと賞金と幸運のガラガラヘビが描かれたカーチスの方向舵をかかえて、
ワハハハと豪快に笑うポルコ
→前方ハッチにフィオを乗せ、雲上を飛び去る紅い飛行艇のシーンでおしまい・・・
とまあ・・・
漫画ではポルコも空賊たちも明らかに美少女好きとして描かれており、冒頭の岡田斗司夫説も
まんざら妄想だけではないと、あらためて納得した次第・・・ま、知らんけど・・・
でも、さすがに原作漫画でも最後のポルコのセリフは・・・
「イタリアを訪ねるならミラノのピッコロ社によってほしい、
その玄関にカーチスの方向舵が今もかざってあるから・・・」
と〆てましたから、やはりキマってましたね・・・
映画はもちろん、原作の漫画も素晴らしいエンディングでした。
と、原作漫画とは少し離れますが、これまで気になってた点をもうひとつだけ・・・
・作品中のサボイアS.21(フィオが改造後はS.21F)試作戦闘飛行艇と実機のマッキM33について
→ポルコの飛行艇は宮崎駿が小学生の頃に一度だけ見た写真のイメージだけで描いたもの
→その後に本人がイタリアの本屋で偶然みつけたシュナイダー・トロフィーの本によって、
小学生の頃に見た写真はマッキM33のものだったということが分かった
→さらにその後の(ポルコ機やカーチス機をモデル化した)ファインモールド社の調査により、
ポルコの飛行艇と実機マッキM33の構造が、ほぼ同じであることが判明した・・・
つまり彼がイメージしていた実機はサボイアS.21ではなくマッキM33だったわけですが、
小学生の頃の写真1枚の記憶だけで、実機構造の飛行艇を正確に描けるとゆーのが凄いですね
やはりヲタクの世界は奥が深いです・・・どっとはらい
『映画「紅の豚」原作~飛行艇時代~増補改訂版』の(一部の)ご紹介であります
表紙
裏表紙
著者、発行所、発行年月日なんぞは奥付のとおり
例によって目次のみのご紹介・・・
映画の原作となった宮崎駿の漫画「飛行艇時代」第1話~第3話(全話)に加え、映画に出てくる
飛行艇やその背景にある歴史、モデル化の過程などを、さらに増補改訂した本であります。
どの項目も面白く、丹念に読んでメモしましたが、今回記事では原作漫画をメインに・・・
まずはYouTubeで岡田斗司夫が解説していた映画の冒頭シーンの謎・・・
→ポルコのアジトのテーブル上には飲みかけの赤ワインがあるのに、
→テーブルの下にはバケツに冷やされた未開封のシャンパンがある
→アジトの砂浜にはポルコの客船用デッキチェアと同じ柄のバスタオルが敷かれている
→ふだんはランニング短パン姿で裸足のポルコが飛行服に手袋ブーツの完全装備で微睡んでいる
→アジトの浜辺には小さな手漕ぎボートが置いてある・・・
これらの理由が何なのか、ひとつひとつ論証していく過程がじつに面白かったのですが、
ま、おそらく彼の妄想だったんでしょうと思いながら、全3話を読んでいくと・・・
第1話から
→まず「マンマユート団は人質に美少女をさらうので知られていた」との説明書きがあり、
→マンマユートのボスが人質の美少女(カリオストロのクラリスそのまま)を抱きかかえ、
「これでも撃てるかブタ野郎」と叫ぶと、
→「美少女は世界の宝だぞ」と、エンジンやラジエーターを狙って撃ち返すポルコ
→銃撃で不時着水したダボハゼ号にポルコが、
→「ロリコンのマンマユートへ、ムスメと金貨半分をおいてウセロ」と発光信号を送り、
→美少女が銃撃戦の隙にダボハゼ号から着衣のまま海に飛び込み逃げるシーンがあって、
→「イエーイ、ヒロインはこうでなきゃ」と喜ぶポルコが着水、彼女を海から愛機に救出、
→「アドリア海の陽光ですぐに乾きますよ」と、彼女の着衣上下!を主翼上に並べて干し、
エンジンを整備する(ふりをしている?)ポルコ
→「ありがとう」と毛布にくるまりコックピットの後ろに腰掛ける美少女
→「さあ、ご両親の元へお送りしましょう」と、彼女を膝の上に乗せて操縦するポルコ・・・
そう、この帰路の途中に彼女を膝の上に乗せたままアジトに立ち寄る計画(下心)があった
とすれば、映画冒頭シーンのお膳立ては全て辻褄が合ってくるわけで・・・ま、知らんけど・・・
第2話から
(エンジンのオーバーホールのためミラノに向かうことになったポルコ)
→「ついでにパイロットの命の洗濯もするか」と鼻歌混じりで無精ひげを剃るポルコ
→「真っ白なシーツ、美しい女達、ウヒョヒョ」(このセリフは映画にもありましたね)
(ミラノのピッコロ社に着いたポルコ)
→「誰だい、あのカワイコちゃんは?」
→「アメリカに行とったわしの孫じゃ、手を出すなよ」とピッコロ親爺
→製図台の前に座ったまま眠り込んだフィオに、そっと自分のコートをかけてやるポルコ
(マジョーレ湖での調整とテスト飛行を終え、フィオを連れミラノを飛び立つポルコ)
→「(フィオに)手を出すなぁ」と見送るピッコロ親爺
→「ひ孫を楽しみに待ってろ」と飛び去るポルコ
(このセリフは、さすがに映画には使えませんね)
→「わたしの前にはいつもフィオの笑顔があった。彼女は心から飛行を楽しんでいた・・・」
(この漫画でも映画でも、眼鏡式照準器にはフィオの顔が映り込んでいる)
第3話から
(夜、テントは(空賊たちが潜んでたので)臭いので野宿になった、との説明があり)
→やがてフィオは安らかな寝息をたてた
→「イイ子だ、ほんとにイイ子だぜ・・・」
(カーチス(漫画ではドナルド・チャック)との対決当日)
→フィオの人気はたいしたものだった。
→みんなが一緒に写真を撮りたがり、空賊共すら歯をみがいて来たのだ・・・
(カーチスとの空中戦と殴り合いでボロボロになりながらも最後に勝利し)
→抱きつくフィオと賞金と幸運のガラガラヘビが描かれたカーチスの方向舵をかかえて、
ワハハハと豪快に笑うポルコ
→前方ハッチにフィオを乗せ、雲上を飛び去る紅い飛行艇のシーンでおしまい・・・
とまあ・・・
漫画ではポルコも空賊たちも明らかに美少女好きとして描かれており、冒頭の岡田斗司夫説も
まんざら妄想だけではないと、あらためて納得した次第・・・ま、知らんけど・・・
でも、さすがに原作漫画でも最後のポルコのセリフは・・・
「イタリアを訪ねるならミラノのピッコロ社によってほしい、
その玄関にカーチスの方向舵が今もかざってあるから・・・」
と〆てましたから、やはりキマってましたね・・・
映画はもちろん、原作の漫画も素晴らしいエンディングでした。
と、原作漫画とは少し離れますが、これまで気になってた点をもうひとつだけ・・・
・作品中のサボイアS.21(フィオが改造後はS.21F)試作戦闘飛行艇と実機のマッキM33について
→ポルコの飛行艇は宮崎駿が小学生の頃に一度だけ見た写真のイメージだけで描いたもの
→その後に本人がイタリアの本屋で偶然みつけたシュナイダー・トロフィーの本によって、
小学生の頃に見た写真はマッキM33のものだったということが分かった
→さらにその後の(ポルコ機やカーチス機をモデル化した)ファインモールド社の調査により、
ポルコの飛行艇と実機マッキM33の構造が、ほぼ同じであることが判明した・・・
つまり彼がイメージしていた実機はサボイアS.21ではなくマッキM33だったわけですが、
小学生の頃の写真1枚の記憶だけで、実機構造の飛行艇を正確に描けるとゆーのが凄いですね
やはりヲタクの世界は奥が深いです・・・どっとはらい
2022年07月17日
黄砂の籠城
とーとつですが・・・
小説「黄砂の籠城」のご紹介であります。
表紙カバー
裏カバーにあった惹句
著者、発行所、発行年月日については奥付のとおり
で、オハナシは・・・
清国が日本を含む欧米列強の横暴に対し事実上の宣戦布告をした1900年6月19日の翌日から、
各国連合軍が北京を占領する8月14日までの55日間に及ぶ、清軍と義和団によって包囲された
北京の在外公館区域だった東交民巷での、20万対4000の戦い・・・
いわゆる義和団事件で、その籠城戦の実質指揮官として活躍し、欧米に名を知られる初の
日本軍人となった、当時の日本公使館駐在武官柴五郎砲兵中佐を、この小説の主人公である、
彼の部下になった一人の伍長の視点から描いた物語であります。
そう、柴五郎中佐は映画「北京の55日」で若き日の伊丹十三が演じた人物なんですが、なにせ
1963年製作のハリウッド映画ですから、大活躍する主役はチャールトン・ヘストン演ずる
アメリカ海兵隊の少佐で、伊丹十三はあくまで脇役つーかチョイ役でした・・・
いっぽう史実では、籠城中の実戦指揮をしてたのは柴中佐のようで、その理由をウィキでは、
各国公使館の駐在武官の中で最先任の中佐であったこと(フランスの駐在武官は大佐だったが
技術系で指揮を辞退したこと)や、英語・フランス語・中国語に精通し各国間の意思疎通が
できたこと、以前から北京の地理に詳しく情報網を築き上げたことなどが記されてますが、
のちに英国ビクトリア勲章はじめ籠城していた各国や、漢人のキリスト教徒を助けた功績で
清国からも勲章を授与されてますから、籠城戦の主役であったことは間違いないようです。
小説では一兵士から見た籠城戦の様子がリアルに描かれ、当時の欧米人と日本人との中国観
や世界観の違いなども描かれてましたが、映画と同じで包囲前から援軍到着までのオハナシ、
日清戦争に勝利し欧米列強の仲間入りを果たそうとしていた当時の日本が、最終的には
各国中で最大規模の兵力を派遣し、占領後は列強と同じく略奪や更なる利権確保に奔走、
ロシアと張り合う形になり、やがて日英同盟を組んで日露戦争へ・・・
といったあたりはもちろん描かれてませんし、義和団も本作では狂信者集団という部分だけ、
当時のキリスト教会の横暴ぶりについても殆ど触れられておらず、このあたりはわたくしの
大好きなアメリカ版サスペンス・アクションのヒーローが日本軍人になった感じ・・・
ただ著者にはこの事件を義和団側からみた続編「黄砂の進撃」もあり、こちらも読まないと、
作品の全体像は掴めないのかも知れませんが・・・
いずれにしても・・・
わたくし義和団事件については、古い映画に何となく違和感を感じてたぐらい、だったので、
この作品を機会に、あらためて(ネット情報で)当時の事情を知ることができました。
ええ、このあたりの歴史の(ネット情報からの)ウンチクについては、いずれまた・・・
(翌日の追記です)
作品中、主人公の伍長が支給されている22年式村田連発銃が「当たらない」と嘆いている
シーンが何度かあり、柴(砲兵)中佐が「早く30年式が行き渡ればよいのだが・・・」と
返すシーンもありました。
ところが義勇兵となった2等書記官が戦死、彼がイギリス公使館から支給されていた、
当時最新式だったリー・エンフィールド銃を、義勇兵仲間から「伍長が使って欲しい」
と言われた際に「自分にはこの村田銃があります」と戦死した2等書記官の手に握らせ、
結局その銃は、最後に戦う決意をした非戦クリスチャンの1等書記官が引き継いでいた・・・
とゆーエピソード、なんかTVドラマ「コンバット」で分隊最強火器BARの引継ぎを描いた、
「勇者の機関銃」の回を彷彿とさせてくれました。うるうる
ちなみに22年式村田銃から30年式有坂銃になった時点で陸軍のボルトアクション歩兵銃も
ようやく世界標準レベルとなり、その後に一部改良されて有名な38式有坂銃になるのですが、
ここに至るまでの明治新政府の歩兵銃ウンチクも、いずれまた・・・
2023.7の追記です
村田銃から有坂銃に至る経過についてはこちらの本を読みました
22年式は黒色火薬から無煙火薬に移行して連発が可能になり急きょ開発されたものの、
本書にもあるとおり改良すべき点が多く、日露戦争では村田の配下だった有坂が開発した、
30年式が主力銃になったんですね・・・
小説「黄砂の籠城」のご紹介であります。
表紙カバー
裏カバーにあった惹句
著者、発行所、発行年月日については奥付のとおり
で、オハナシは・・・
清国が日本を含む欧米列強の横暴に対し事実上の宣戦布告をした1900年6月19日の翌日から、
各国連合軍が北京を占領する8月14日までの55日間に及ぶ、清軍と義和団によって包囲された
北京の在外公館区域だった東交民巷での、20万対4000の戦い・・・
いわゆる義和団事件で、その籠城戦の実質指揮官として活躍し、欧米に名を知られる初の
日本軍人となった、当時の日本公使館駐在武官柴五郎砲兵中佐を、この小説の主人公である、
彼の部下になった一人の伍長の視点から描いた物語であります。
そう、柴五郎中佐は映画「北京の55日」で若き日の伊丹十三が演じた人物なんですが、なにせ
1963年製作のハリウッド映画ですから、大活躍する主役はチャールトン・ヘストン演ずる
アメリカ海兵隊の少佐で、伊丹十三はあくまで脇役つーかチョイ役でした・・・
いっぽう史実では、籠城中の実戦指揮をしてたのは柴中佐のようで、その理由をウィキでは、
各国公使館の駐在武官の中で最先任の中佐であったこと(フランスの駐在武官は大佐だったが
技術系で指揮を辞退したこと)や、英語・フランス語・中国語に精通し各国間の意思疎通が
できたこと、以前から北京の地理に詳しく情報網を築き上げたことなどが記されてますが、
のちに英国ビクトリア勲章はじめ籠城していた各国や、漢人のキリスト教徒を助けた功績で
清国からも勲章を授与されてますから、籠城戦の主役であったことは間違いないようです。
小説では一兵士から見た籠城戦の様子がリアルに描かれ、当時の欧米人と日本人との中国観
や世界観の違いなども描かれてましたが、映画と同じで包囲前から援軍到着までのオハナシ、
日清戦争に勝利し欧米列強の仲間入りを果たそうとしていた当時の日本が、最終的には
各国中で最大規模の兵力を派遣し、占領後は列強と同じく略奪や更なる利権確保に奔走、
ロシアと張り合う形になり、やがて日英同盟を組んで日露戦争へ・・・
といったあたりはもちろん描かれてませんし、義和団も本作では狂信者集団という部分だけ、
当時のキリスト教会の横暴ぶりについても殆ど触れられておらず、このあたりはわたくしの
大好きなアメリカ版サスペンス・アクションのヒーローが日本軍人になった感じ・・・
ただ著者にはこの事件を義和団側からみた続編「黄砂の進撃」もあり、こちらも読まないと、
作品の全体像は掴めないのかも知れませんが・・・
いずれにしても・・・
わたくし義和団事件については、古い映画に何となく違和感を感じてたぐらい、だったので、
この作品を機会に、あらためて(ネット情報で)当時の事情を知ることができました。
ええ、このあたりの歴史の(ネット情報からの)ウンチクについては、いずれまた・・・
(翌日の追記です)
作品中、主人公の伍長が支給されている22年式村田連発銃が「当たらない」と嘆いている
シーンが何度かあり、柴(砲兵)中佐が「早く30年式が行き渡ればよいのだが・・・」と
返すシーンもありました。
ところが義勇兵となった2等書記官が戦死、彼がイギリス公使館から支給されていた、
当時最新式だったリー・エンフィールド銃を、義勇兵仲間から「伍長が使って欲しい」
と言われた際に「自分にはこの村田銃があります」と戦死した2等書記官の手に握らせ、
結局その銃は、最後に戦う決意をした非戦クリスチャンの1等書記官が引き継いでいた・・・
とゆーエピソード、なんかTVドラマ「コンバット」で分隊最強火器BARの引継ぎを描いた、
「勇者の機関銃」の回を彷彿とさせてくれました。うるうる
ちなみに22年式村田銃から30年式有坂銃になった時点で陸軍のボルトアクション歩兵銃も
ようやく世界標準レベルとなり、その後に一部改良されて有名な38式有坂銃になるのですが、
ここに至るまでの明治新政府の歩兵銃ウンチクも、いずれまた・・・
2023.7の追記です
村田銃から有坂銃に至る経過についてはこちらの本を読みました
22年式は黒色火薬から無煙火薬に移行して連発が可能になり急きょ開発されたものの、
本書にもあるとおり改良すべき点が多く、日露戦争では村田の配下だった有坂が開発した、
30年式が主力銃になったんですね・・・
2022年03月27日
中国海軍VS.海上自衛隊
とーとつですが・・・
中国海軍VS.海上自衛隊であります
原題はDragon Against The Sun・・・
表紙裏にあった惹句
裏表紙裏にあった著者と監訳者のプロフィール
ビジネス社 2020年10月1日 第1刷発行
目次のご紹介
本文に出てくる訳文凡例と略語一覧
英語版が2020年5月、日本語版が2020年10月の出版ですから、その時点での分析になります。
アメリカの海洋軍事専門家が英語で書かれた本であり、アメリカの最大利益が前提という
点には留意が必要ですが、欧米には日本の海上自衛隊に関する研究や著作物は殆どなく、
いっぽう中国には豊富にあるそうで、台湾生まれで中国語にも堪能な日系米人の著者が、
膨大な刊行物や著作物を分析し、中国では日中のシーパワーがどのように認識されているのか、
また、そのパワーバランスの変化をどう捉えているのか、という視点が新鮮でした。
ちなみに日本では著者のような権威ある海洋軍事専門家が海上自衛隊幹部やそのOB以外に
どれだけおられるのか、権威ある国際政治学者によるシーパワーの分かりやすい著作物が
どれだけあるのか・・・是非は別として、そちらも不安になりました・・・
読む際には烏賀陽弘道氏の世界標準が参考になりましたが、彼も書いておられたように、
軍事や国際政治については、思い込みとかではなく冷静に、分かりやすく書かれた著作物
というのは、ほんとに日本では少ないですね・・・
以下、わたくしの読後メモの一部ですが、例によって勘違いや読み飛ばしが多々あるはずで、
少しでも興味を持たれた方は是非本書を熟読されますように・・・
また、監訳者は元海上幕僚長、こちらもまさに権威ある専門家で「監訳者あとがき」も
大いに参考になりましたので、わたくしの読後メモから一部を抜粋しています
第1章より
・この10年で中国海軍と海上自衛隊のパワーバランスが崩れた
→艦隊規模、総トン数、火力等すべてで中国海軍が海上自衛隊を凌駕している
→この権力交代(パワーシフト)についてはアメリカでは殆ど研究されていない
・海軍力の不均衡は(局地的な制海権を得る)戦争というオプションを指導部に提供する
第2章より
・中国海軍の増強は2000年代初頭から加速、そのペースは2010年代半ばから更に加速した
→この5年間で両国の海軍力格差は劇的に拡大し中国は決定的な優位性を保持している
・これまでの欧米の研究は日本のシーパワーに注意を払わなかったが、中国での研究成果は
公開されているだけでも膨大にあり、米国シーパワー研究へのエネルギーにも匹敵する
→なので、あまり翻訳・研究されていない中国の著作物を精査した
→中国シーパワーがアジア海域における米国海軍の優位性を侵食することへの研究は多いが
研究に欠けているには、この地域の主要な海軍力が静かに日本から中国に代わっていること
・GDP、軍事支出、その割合いなど全てで大きく逆転し、海軍力のバランスに大きな影響
→2019年の国防省の年次報告書で既に「中国海軍はこの地域で最大の海軍」と記されている
・艦艇数
→米海軍情報局によると2030年まで中国海軍の新鋭艦がさらに増加する可能性が高いが、
海上自衛隊の艦艇数は日本の国家資源から見ても大幅に増加することはない
・総トン数と火力
→中国海軍の平均トン数は1990年から2019年で7倍になった
→1艦あたりの能力と潜在能力が大幅に向上している
(平均トン数では海上自衛隊がまだ僅かに上回っているが中国大型艦の就役で長くは続かない)
→火力を示すミサイルとVLSセルの数は2020年では3300対1600に、
→主要水上艦は2020年では130隻対51隻に
→1990年代前半までで主力艦数は海上自衛隊とほぼ均衡状態になったが、2000年代半ばから
大きく引き離し、2020年では2.5倍となっている
→中国艦艇は射程距離290海里で超音速の長射程対艦巡航ミサイル(ASCM)を装備しているが
海上自衛隊の同タイプは射程距離70~80海里で亜音速の年代物
→射程距離の優位が戦術上の主導権を与える
・人的資源
→海上自衛隊の慢性的な人員不足と(募集可能な)人口の減少
→人民解放軍で人口減少問題が表面化するのは10年以上先
・古代から現代まで、海軍力バランスの大きな変化は大国の関係再編・軍拡競争・外交的
技術的革命・ブレイクスルー技術への多額投資・予防的な軍事攻撃を行わせた
→日本が1904年や1941年のような予防的・直接的な軍事行動をとるとは考えられないが、
海上進出に対して行動を起こすよう、これまで以上に強い圧力の下に置かれるだろう
→米国の政策立案者は日本の態勢を強化し抑止と安定を高める方法で、日本政府が将来の
決定をするよう方向づける準備をしなければならない
・日本の苦境と米国戦略への悪影響を示す類例が冷戦時代の英国海軍衰退のジレンマ
→1950年代にソ連は英国を抜き世界2位の海軍大国になった
→米海軍はあまりに薄く世界に展開しているため他の戦域を全てカバーできない
→ノルウェー沖でのソ連海軍の挑戦的な行動に直面した英国海軍の無力さが深刻な状況に
・日本の領土・空域・海域を守る防衛力は抑止が破綻した場合、米国の前方展開基地への
アクセスを維持し、増援部隊が前線に到達するための時間を稼ぐ
→その過程で海上自衛隊は主要な海上からの進入路を掃討し、続いて共同で制海権を獲得する
→海上自衛隊は米国が西太平洋を越えて戦力投射することを可能にし、機雷掃海など米軍に
欠落した部分を補い、米海軍の戦力を補完してきた
→中国政府が選択肢を計算する場合、海上自衛隊が弱い環になりつつあると判断すれば・・・
→つまり中国海軍が海上自衛隊を凌駕すれば、米国の戦略に対する直接的な挑戦になる
→米国の政策立案者は、日本のシーパワーの相対的な低下を、西太平洋における米国の力が
低下していることと同義として認識すべき
→中国海軍のA2/ADに対する効果的な対抗手段は日米同盟にとって互恵的であり、同盟協力の
中心的事項とする必要がある
・人民解放軍の各種ミサイルは日本列島のあらゆる固定目標に到達できる
→海上自衛隊(の基地)に壊滅的な打撃を与える可能性が高い
→海上自衛隊の相対的な弱体化で日本が中国に屈し米国と協調できなくなる可能性もある
→日本の自信喪失と米国の安全保障への不信感の高まりは日本独自の核抑止力という脅威に
→これは中国海軍進出への黙認に劣らない地域秩序への悪影響となる
→中国の台頭と日本の衰退は、日本の政策立案者に好ましくない選択を強いるかも知れない
→日本から中国に傾きつつある海軍力バランスは、米国によるアジア平和への最初の挑戦
・日本のシーパワーに関する英語の著作物は少ないが中国語の著作物は膨大で詳細
→政府が奨励し比較的自由に議論させ、各分野で研究・発表している
→日本の専門誌「世界の艦船」や「軍事研究」の完全な翻訳や要約も頻繁に掲載されているし
自衛隊幹部や著名な学者の発言、論文も豊富に紹介している
(多くの例示は略してますが日本の著作物よりはるかに多いのではと感じました)
→最近まで嫌悪と不承不承の称賛で「一流海軍」と認めていたが、いずれ追い越すとの見方が
強まっている
第3章より
・海上自衛隊の劇的な地位の低下は、この20年間の中国の台頭と日本経済の低迷、相対的な
衰退、自信の低下と一致している
→中国政府はより積極的な戦略を追及、日本政府にはより用心深く防衛させるようになり、
ある部分では両国関係の敵意を強めている
→日本の「失われた数十年」から生じる不安、地政学的な位置、米国との同盟関係、戦略、
戦略的文化のすべてが激しい対立へ向かわせている
(以下は中国の著作物から)
・中国の台頭で東アジアではじめて2つの大国が共存した
→この均衡状態での東アジア「華夷秩序」復活への不安が日本の中国脅威論の源泉
→比較優位が逆転した2011年以降、日本の判断は悲観的になり中国への態度や反応は硬化した
→弱気なサインは中国の勢力拡大を促すだけと考えているから
→不均衡の拡大は、これまで以上に自国の利益を守ろうとさせている
→進展に過剰に反応しようとする結果として、競争となる可能性が高い
→経済・軍事力のバランス悪化から中国の海上脅威を再評価し敵対するようになった
→日本は中国を大陸国家と見ており、その海洋進出の意志は明確で海洋国家である日本との
対立は避けられないとの結論に達した
・構造的要因としての第一列島線
→日本列島はアメリカと同盟国である日本が監視塔を置いている、逆さ万里の長城に見える
→バリケードであり積極的な防御者が配置された物理的障害物の列である
・人民解放軍の軍事用語辞典では、
第一列島線は、日本列島から琉球諸島、台湾島、フィリピン諸島、パラワン諸島を経て、
カリマンタン島等に至る、中国の海域の外洋周に沿って形成された鎖状の群島
第二列島線は、日本列島から小笠原諸島、硫黄島、マリアナ、ヤップ、パラオを経て、
マルク諸島に至る、広い海域を占める弧状の列島線状の群島と定義している
・どちらも北にある日本列島が目立っている
→アジア諸国が経済発展し海洋で軍事的に行動する際の大きな制約
→さらにユーラシア大陸東部に隣接しているため、黄海、東シナ海の全域、アジア大陸の
奥深くまで戦力投射できる
→日米シーパワーは中国より優れ、容易に圧迫できる好都合の地理的利点を有する
・日米中の3国にとっての海へのアクセス能力は必然的に他者のアクセスを拒否する能力
→中国は列島線に囲まれた海域を支配する手段を保有して、はじめて障壁を作ったり、
自由航行することが可能になり、これは米国も同じ
→アジアにおける米国の優位性は列島線を境界とする海域の支配
→琉球諸島は国益に対する脅威であり海洋公域へのアクセスのための軍事手段が必要で
それを根拠に海軍の頻繁な宮古海峡通過を正当化した
・1950年の朝鮮戦争、1954年と1958年の台湾海峡危機、1960年の北ベトナム爆撃、
1995年から1996年にかけての台湾海峡危機、それ以降の異常接近の繰り返しなどは、
中国にとっては日本列島があることによる地理的苦境であった
→日本の基地協定は中国が米軍による侵略と挑発と見なす行為すべての共犯協定
→日米同盟は中国の利益に反し、その海洋大国同士の緊密な連携が安全と戦略的な成功を
日米にもたらしたと理解している
(日英同盟は日本に繁栄を提供し、その後の大陸進出は日本に国難をもたらした)
・この歴史からも日本は大陸国家とは同盟できず、海洋国家と同盟する
→シーパワー同盟は防衛的なメカニズムではなく経済成長を促進し世界海洋秩序の規範や
ルールを支える制度的基盤を提供する協定
→使命を広範に定義し地域や世界の安全保障に大きな影響力を持っている
→米国がアジアでの野望を実現するため同盟に依存し強化し中国を封じ込める
→グローバル化する同盟は自衛隊をグローバル化し米軍の行くところに行くようになる
→日米同盟は単なる安全保障の傘ではなく日本が影響力を拡大するための根拠と手段
・日本は日米同盟だけでなくアジア全域でのパートナーシップを拡大
→これは中国を封じ込めるための海洋国家連合を形成→日本の海洋戦略の中核
→ランドパワーとしての中国の勃興を封じ込めるという目標
→沿岸国への寄港やパトロールや演習は現地で中国と対峙している国家の抵抗力強化が目的
・日本も中国も同じ海上交通路に依存して繁栄している
→日本の3シーレーンのうちマラッカ海峡と東シナ海を通るルートは中国と共有
→平時は相互に利益を享受しているが危機や戦争になれば、どちらかが相手の海を人質にする
→これが日本の恐怖で過剰な主張を余儀なくされている
→中国によるインド洋支配は日本の生命線を絶つ
→東シナ海ほど利害関係は高くないが競争が敵意を高めることは間違いない
・海洋意識を持つ国は効果的な戦略を策定し海上で大成する可能性が高い
→その国独特の歴史経験が海洋世界観に大きな影響を与えている
→日本の反中感情は明治の脱亜論以来続いている
→海に守られて、中国に同化されたアジア諸国とは一線を画してきた歴史
→海は中国の軍事的・文化的侵略から守る防波堤
→中国への疑念と敵意は日本のDNAで海洋での攻撃性に
→日本の地政学的な位置が危機感と不安感を高め、攻撃は最大の防御という格言を受け入れた
・林子平、横井小楠、佐久間象山、A.F.マハンとその弟子の秋山真之、佐藤鉄太郎
(彼らの古い著作に関する詳細な研究論文が中国には数多くある)
→日本の海洋戦略は積極防衛が特徴
→冷戦構造が一時的に攻撃性を抑制していたが、その終結と侵略記憶の薄れが拡張主義的な
野心の復活を可能にした
(これらの文献は、対立の根源は文明的なものという厄介な確信を示している)
・中国側の評価を総合すると、中国の海洋進出に対する日本の対応については極めて否定的
→強硬な抵抗と中国封じ込めに向けた積極的な海洋戦略を明確に予想している
→このような文明論、運命論、決定論は日本政府を一面的な対立国にしており、
日本の海軍力を評価するための分析的なプリズムを形成している
第4章より
・近年中国が海洋に戻り、海軍が大きな成果を上げるようになると、日本の海軍力に対する
評価に大きな変化をもたらした
→まだ多くは強みを認めているものの、もはや島国の海軍を恐れてはいない
→主要な能力で急速に追いつき海上自衛隊の構造的な弱点を見つけている
→重要なのは戦闘で海上自衛隊を凌ぐ自信を示す者が出始めたことで10年前とは大違い
→海上自衛隊の歴史的な発展、特徴的な利点、永続する弱点を把握し、評価した上での自信
→中国海軍の攻撃火力は大幅に進歩したが海上自衛隊はミサイル戦闘の危険性を克服するのに
苦労するだろうと考えている
・中国から見た日本の海洋戦略(部分)
①日本政府は国家の海洋意識を大変慎重に育ててきた
②海洋の利用、保護、開発、権益主張のための法律を制定してきた
③海洋管理のための国家機関を設立、権限を与え省庁調整と意思決定を改善してきた
→海洋大国になるためのすべての条件を備えている
→この国家戦略推進は両国間の戦略的互恵関係の発展に向けた努力に対する前例のない挑戦
(例示を見ても日本のシーパワーを物理的にも制度的にも総合的高度に理解している)
・中国の軍事用語による日本海軍戦略の進化説明
①1950年代は沿岸防衛と領土保全のみで残りは米国に委託
②その後の10年は近海防御への移行期間で米軍到着までの時間稼ぎ
→この時期に完全な米国依存から共同防衛の取り組みへ
③1970年代には南東・南西1000海里のシーレーン防衛に
④その後の数十年は成長期で1980年の海軍戦略は「外洋での積極防衛」
→グアム以西フィリピン以北のすべての海域→大排水量の多目的戦闘艦の獲得
→8艦8機、4護衛艦隊群の編成
⑤冷戦終結後はペルシャ湾から世界各地へ、1990年代半ばに米軍への兵站支援と後方支援強化、
21世紀に入り長年の専守防衛を捨て「積極攻撃と海外介入」を採用、外洋戦闘能力を持つ
大型高性能艦を就役、アデン湾での海賊対処やジブチでの基地建設は警告信号
・2009年の文献では、総合的に見て海上自衛隊の能力は米国ロシアに次いで世界3位とし、
近代化された新造艦の多さや統制のとれた調達プロセスなどを称賛していた
→冷戦後のロシア海軍力の崩壊と欧州シーパワーの大幅な削減とは対照的
・最近の文献では、かつてほどの脅威ではないとし中国の海軍力を称賛している
→1980年代に近代化ペースと規模の切迫感を失い、1990年代にロシア海軍の老朽化が進み
中国海軍は大きく遅れていたので、さらに緩やかな増強計画を採用した
→この間に中国海軍はブレークスルーし艦隊防衛を破る能力を着実に向上させた
→2008年に第一列島線を突破しパワーバランスの変化が始まり、日本が島嶼防衛に注意を
払うことを余儀なくさせた
→海洋能力への投資を続ければ10年から20年で戦略的な優位を達成すると見積もっている
・米国の優先事項に従った戦力構成の様々な不均衡
→米国の覇権衰退により弱点が明らかになった
→陸上に戦力投入できない→平時でおおすみ型3隻で1個大隊程度
→水陸機動団規模を見積もると海上自衛隊の収容能力を上回る
→揚陸艇の数も大規模な水陸両用作戦のニーズを満たせない
→後方支援も弱点で、前線の戦闘能力を優先する偏見は大日本帝国海軍以来
→港湾施設と造船所工員の質は高いが、近代化・開発ペースは基地能力をはるかに上回る
→海上自衛隊は後方支援の制約から中国海軍に対し継続的な海軍作戦を遂行する能力はない
・ミサイルに対する脆弱性
→世界2位の対潜戦部隊も中国のミサイル攻撃から逃れることはできない
→ひゅうが・いずもなどの大型の高価値艦は中国ミサイルの格好の標的
→宇宙システムや無人偵察機データで陸上から発射される対艦弾道ミサイルに海上自衛隊の
海上配備型弾道ミサイル迎撃システムが最適化されているか疑問
→さらに空と海からのミサイルの数量、速度、機動性能は防御を飽和させ圧倒する
→人民解放軍の早期警戒機と電子戦機は日本機の1世代先を行っているので航空優勢もない
・大規模な通常戦力による軍事衝突が発生した場合、日米の海空軍基地を攻撃することになるが
嘉手納、岩国、佐世保、横須賀がミサイル攻撃の主な目標になるだろう
→攻撃の結果、米軍は西太平洋の軍事拠点を失うことになるだろう
→米軍はグアムやハワイに後退せざるを得ず前方部隊の持久力が損なわれる・・・
→空母への野望(略)
→尖閣諸島をめぐる局地紛争(略)
・このような、あからさまな議論が中国の著作物で一般化し、厄介な特徴になっている
・対潜戦戦略
→アジアにおける米軍の「補助軍種」としての最優先事項は対潜戦と機雷戦
①積極攻勢には敵の潜水艦基地、造船所などへの直接攻撃を含み、米軍は対地攻撃を行い、
海上自衛隊は進入ポイントに近い沿岸の軍港を機雷封鎖、待ち伏せ攻撃区域を設定する
②消極攻勢には主要な海峡の管制と封鎖を含み、封鎖圏を形成するため機雷を敷設、水上艦艇や
対潜哨戒機を派遣し、海底に敷設された探知機で列島線を追尾
③積極守勢には包囲・殲滅戦を含み、公海における探索・攻撃の対潜掃討戦を行う
→近代的な中国潜水艦の数と太平洋の広さから効果は低いと考えている
④消極守勢には同盟国海軍と商船の護衛を含み、固定翼機、回転翼機、水上戦闘艦を組み合わせ
海域や航路を掃討、潜水艦を港内に留め置くための欺瞞作戦に従事すると想定
・機雷戦は秘密性が高く日本政府は殆ど公表していないが公刊情報から機雷種類を特定し、
機雷の開発・生産能力を世界クラスと評価、着実な生産貯蔵と試験演習の少なさと保管能力から
日本は大量の機雷を保有していると考えている(詳細略)
→冷戦時代の津軽、宗谷、根室での計画と同様、南西諸島沿いの重要なチョークポイントに
上昇機雷を敷設する可能性がある
→ただし他の海峡、水道、港湾も守らねばならず、南西諸島沿い1000kmに渡る対潜戦は、
海上自衛隊の潜水艦部隊に無理を強いることになる
→作戦地域の拡大と中国最新潜水艦の静粛性は機雷の有効性を一段と失わせている
・海戦シナリオ
→中国のアナリスト2人がトム・クランシー・スタイルで日中海戦のシナリオを作った(略)
(日本人はこのシナリオを嘆くだろうが)中国の作戦成功への重要な詳細記述がある
概要(詳細な船名・機種名・兵器名などは省略)
①尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船が中国海警局の海警艦に発砲、両船は一時的に撤退するが
両国は尖閣諸島への上陸競争を開始
②スールー海にいた遼寧空母戦闘部隊は宮古海峡に向かい自衛隊を尖閣上陸作戦から遠ざけ
母港を出る揚陸部隊への圧力を軽減する
③東シナ海上空では中国の飛行禁止区域内で日本の早期警戒機と戦闘機が戦闘飛行を開始、
中国のステルス戦闘機が撃墜
④ロケット軍と空軍が那覇空港と那覇基地を攻撃、24時間で制空権を掌握
⑤米国は安保条約の発動を拒否、経済制裁の形式的な脅しのみ
⑥烈度の高い海戦が短期間勃発、宮古海峡西でフリゲート艦を失い現場から撤退
いっぽう戦闘爆撃機と多機能戦闘機で構成する海上攻撃隊は尖閣に向かう護衛隊群を
巡航ミサイルの集中攻撃で阻止撃破
⑦米軍偵察機は妨害を受けていない嘉手納基地に帰投、裏で米軍非介入と基地非攻撃の約束
日本は上陸阻止にも失敗し、潜水艦も対潜哨戒機により撃沈され、4日以内に尖閣諸島は
人民解放軍の手に落ちる・・・
・楽観的な前提で結果には無理があるが、中国が好む戦略要素が推測できる
→日本が最初に武力行使すること→そのように意識的に誘導し追い込む可能性
→それで外交を軍事作戦と協力して機能させる
→日米同盟内に不和を生じさせる
→電磁領域の戦術と沖縄の航空拠点喪失により短時間で制空権を掌握する
→海戦についても中国の戦闘ドクトリンと一致しており長射程の精密火力によって船舶や
航空機は短時間の攻撃で壊滅的な打撃を与えることができる
→局地的な制海権をめぐる一進一退の争いは戦争の最終段階まで続く
・作戦面に焦点をあてた第二のシナリオ(略)
→どちらのシナリオにも米軍基地への攻撃はなく、米国の関与が中国の戦争を著しく複雑に
するという明確な認識を示している
→日本に対する米国の共感の低下や外交的孤立は中国の作戦目標を大きく前進させる
・これらの著作物は中国が日本の海軍力を非常によく研究していることを示している
→海洋への野心に対する日本の激しい抵抗を予想しているので当然
→もっとも注目すべきテーマは日本の海軍力への疑問視が出始めていること
→この上昇曲線が続いた場合に日米が直面する課題であり厳しい警告である
第5章より
・中国の執筆者は日本のシーパワーについて驚くほど豊富な知識を持っている
→機雷の在庫管理プログラムから最先端の戦闘機プラットフォームまで精通している
→人民解放軍が空域海域支配のための攻勢的な作戦を展開する可能性を明確に論じている
・日本列島は海洋進出に対する物理的障壁であり、日米同盟が依拠する不可欠な基地であり、
日米の戦力と意志を象徴している
→そのため日本政府は商船であれ軍艦であれ中国の海運を封じ込める潜在能力を持っている
→中国の戦闘ドクトリンでも著作物でも日本の位置について相当の不安を持っている
→特に琉球諸島は台湾に近く、日米空軍のハブで南西諸島での守備隊計画も懸念材料
→その固定要因への認識も最近では変化している
→横須賀、佐世保からは細い海上交通路で米軍が介入しなければ阻止できる可能性もある
・中国の著作物にみる変化は海洋で台頭する傾向を論証している
→経済的な成功で自信に満ちた中国とバブル崩壊以降の低迷で自信のない日本との間で
予想される相互作用は悪い予兆で、対立ではないにしても競争への期待が中国の文献にある
→日本が海洋進出に反対していると信じ、妥協への期待を低下させ、競争か力の行使に
→権威ある文献への表現頻度を見ればプロパガンダや民族主義的な感情だけではない
・日米同盟は中国には厄介な戦略的連合で、長年磨かれた作戦上の分業体制は強力な抑止力
→紛争シナリオでは内政不干渉で自衛隊が東シナ海の海空域の指揮権を直ちに奪われるが、
→これは米軍と自衛隊がどの程度共存・統合されているかを無視したシナリオで、
→日本全体に広がる米軍の恒久的な前方展開部隊が、その攻撃を軽視したり無視したり
些細なことにこだわったりする可能性は非常に低い
→さらに日本の敗戦寸前に米軍が介入する可能性も極めて低い
→海軍の覇権国は勢力バランスが大きく変化する前に、それを回避するために断固として行動する
ペロポネソス戦争でのアテネ海軍の派遣、ナポレオン戦争でのデンマーク艦隊に対する英国の攻撃、
チャーチルの北アフリカのフランス艦隊攻撃の悲痛な決断、いずれも大規模な海軍部隊が
悪意ある者の手に落ちるのを防ぐためであった
→米軍は海上自衛隊の無力化という不利なバランスを未然に防ぐために介入するかも知れない
→同盟を分裂できるのは継ぎ目や弱点を正確に認識し、活用した場合のみだが、彼らは
→米国が一方的に支配する同盟で自発的でも平等でもないと主張している
・重要なことは、このような誤解が指導部に誤った判断をさせたり認識させたりする危険性
→日米同盟に関する誤った仮定を受け入れる意思の存在
→見えにくい指示に従っている可能性もある
・まずアジアの海洋におけるパワーシフトがすでに起こっていることを認識すること
→長い間、日中間の地域的な力学を軽視しながら米中間の海軍バランスのみだった
→中国が地域の不均衡をどう見ているかを含め、日本がどの程度遅れているか理解する
→同盟国海軍の存在意義は海洋での戦争を戦い勝つこと
→中国の著作物からは局地的なハイエンド戦闘(高性能兵器による高烈度戦闘)で近代海軍を
試す準備を進めている
→中国海軍のハイテク戦闘能力は海上自衛隊にも米海軍にも悲惨な結果をもたらす
→過去30年、他の追随を許さない優位を維持してきた同盟にとって大きな転機
・中国が日本の軽空母に無関心なのはミサイル部隊による追尾や目標設定が容易だから
→ミサイル防衛システムで迎撃できる数は少なく、中国が発射できる大量のミサイルによる
集中攻撃は艦隊や基地を圧倒する
→日本の海軍力は少数の価値の高い主力艦に集中しており集中打撃で短時間で艦隊を失う
→この危険回避にはポートフォリオの再調整が必要
→先制攻撃に確実に耐えるには重装備ミサイル艇を含む小型で安価で大量の冗長なシステム
・長期にわたり効果的に競争するためには中国の弱点と中国のリスク計算を理解し、
脆弱性と危機感に対し圧力をかけなければならない
→海軍力は中国台頭の象徴であり、その価値は成長に伴って増加している
→艦隊が多大な損害を被ることへの指導部の許容度はそれに応じて低下
→物質的な価値以上に艦隊を失うことのリスクが大きくなっている
→実際にも主力艦の割合が高まっていることから一段とリスク回避的になるだろう
→艦隊を失った場合、体制さえ危うくなる可能性がある(日清日露フォークランドの例)
→艦隊を危険にさらすことには慎重になる
→艦隊に壊滅的な損害を与える態勢があれば中国政府を抑止する可能性がある
→日米同盟の潜在的な戦闘力の強化
・究極的に日米両国は、海上で戦い勝利するための戦力を保持し、中国に勝てないと
納得させなければならない
第6章より
・米国戦略コミュニティは米中2国間の海軍バランスのみで関係国を排除する風潮がある
→同盟国が直面している強い圧力を詳細に調査して的確に把握すること
→全体としての力を構成しているのは同盟国との連合軍であり平時戦時に地域海軍の貢献を
加えないと、いかなる評価も不完全
→地域国家と連合した戦争は米国が中国に優位を保つ数少ない分野のひとつ
・中国の著作物は意外に透明性が高く作戦などの詳細を伝えてくれる
→中国海軍の現在および将来に関する情報に基づいた討論と見做すべき
→この10年の中国政府の自信の増加は海軍力の増強とほぼ一致している
→論文等を把握することは中国海軍の方向性や課題を判断するのに役立つ
→日中海軍のバランスをどう見ているか、過小評価や過大評価があれば同盟国が操作できる
→不均衡を明らかに無視している分野→その背景にある理由・・・
・中国の海軍力が日本に追いつき追い抜いたことで中国の軍事的選択肢が根本的に再評価された
→それ以上の変化が数年のうちに起こるかも知れない
→5年あるいは10年後に中国と日本の力の差はどの程度広がるのだろうか
→次の段階と計画について中国の文献はどの程度の早期警戒情報を日米同盟に与えるか
→結果が高くつくことを考えれば、政策立案者は海軍競争の次の段階の輪郭と向かう方向
について、前もって考えておかねばならない・・・
監訳者あとがきより
・戦後のアジアで米国のヘゲモニー体制に唯一組み込まれなかった国が中国
・中国の国境概念には地理的国境と戦略的国境がある
→地理的国境は領土領空領海の限界であり、戦略的国境は軍事力が支配している
国家利益と関係のある地理的空間的範囲の限界
・1990年代以降、ベクトルが外向きになり米国秩序に影響を及ぼす
→2000年代の米国は同じ価値観を持たせて地域秩序に編入しようとした
→中国が経済的軍事的に台頭してくると相対的に米国ヘゲモニーは衰退、その結果、
自由主義・資本主義・海洋性のアジアと、戦略的国境を広げつつある大陸性の中国を
分断するラインが、東シナ海から台湾海峡を通って南シナ海に現れている
・生存と繁栄を海に依存している日本には海洋性のアジアがもっとも居心地がいい
→日米同盟を基軸に価値観を同じくする国々と協調している
・日本の安全保障戦略
→1957年閣議決定の「国防の基本方針」(字数で300字に満たない概念)だけだった
→2013年政府決定の「国家安全保障戦略」まで冷戦を含み戦略を欠いたまま防衛していた
→2006年以降は民主主義・自由・人権・法の支配・市場経済という価値観外交
・中国は重要なパートナー国だが異質な国家、同じ農民支配を基礎とするロシアと同様で
→現状変更を望む中国には譲歩は通じない
→相手の変化を促そうと関与しても宥和と受け取られてたのが日本の対中外交
→宥和の連鎖をいかに断ち切るかは常に大きな外交上の課題
・オーストラリアの長距離打撃能力(対空・対艦・対地)強化を盛り込んだ国防計画の制定
→コロナ発生源の究明姿勢以来、中国から強圧的脅迫的な外交圧力を受けている中での決定
・海上自衛隊の防衛力整備が停滞した理由
→1955年から1993年まで続いた55年体制、とりわけ1980年代に始まった政治の混乱期に、
政争の具になりやすい防衛議論が忌避されてきた
→1991年のバブル崩壊から続く経済不況→米国海軍への甘えの構造→ブレークスルーなし
→専守防衛の解釈は戦略環境に応じて変えていくべきだが前述の要因で狭めてきた
・周辺国の主要兵器による潜在的な脅威をオフセットできない状況が今のまま継続すれば、
自ら軍事的な空白地帯を作ってしまい、軍事的冒険主義を呼び込む戦略環境を醸成する
→現行憲法のもとで専守防衛の基本政策を変更せず予算内で兵力組成を改善することは可能
→著者のいう攻勢的な思考による防衛政策へとパラダイムシフトできるはず
・防衛政策で喫緊になすべきことは、想定される主要な作戦空間と作戦領域で中国はじめ
周辺国の保有する主要兵器と一連の作戦手段のオフセット
①中国に対する安全保障政策を守勢から攻勢に転換
→冷戦時代は日本自身が断固たる対ソ防衛体制をとっていた
→大きな違いは、今の中国が対等な競争相手で経済的には西側の重要なパートナーであり、
投資先であるということ
→外交政策の右手(経済政策)と左手(安全保障政策)を欧米以上にうまく使い分けねばならない
→冷戦時代のソ連への姿勢と比較して西側諸国には弱腰に映ることは免れない
→しかし領土交渉に関しては当時のソ連と同じで、引けば必ず出てくる
→安全保障上は明らかに潜在的な脅威で抑止態勢を改善していく必要がある
②日米同盟を基軸に価値観を同じくする国々との結びつきを強化していく
→米国中枢の変数を除けば自由で開かれたインド太平洋のコンセプトや価値観は共有できている
→法の支配に基づく海洋秩序維持の輪は英国やカナダなど域外にも広がっている
③自衛隊の兵力組成を戦略環境に適応させるようリバランスする
→本書のとおり中国海軍と日米海軍ではアウトレンジ攻撃能力に大きなギャップがある
→長射程ミサイルに超音速滑空兵器が加わり迎撃能力はさらに限定された
→技術イノベーションが遅れているが限られた予算でミサイルギャップを埋めるためには、
一部への集中ではなく一連のシステムに欠落や弱点を作らない配慮が必要
→たとえばイージス・アショアは有効だが弾道ミサイル防衛という森の中の1本の木に過ぎず、
弾道ミサイル防衛というのは各種ミサイル防衛という山の一部に過ぎない
→イージス・アショア中止を好機に一連の作戦が健全迅速に機能するよう俯瞰するべき
→本書に具体例として大型艦に代えて小型安価単機能の艦艇を多数保有するオプションが
あったが、これは米軍が進めるモザイク戦
→1枚の小さなタイルを失ってもモザイク画の全体は維持されるという作戦構想
→ただし有事ミサイル戦への専用装備だけでは平時やグレーゾーンに適切に対応できない
→平時からグレーゾーン、有事の幅広い時間軸に活動するには大型多機能艦が有効であり、
多機能な護衛艦は不要にはならないが、小型ステルス化しスタンド・オフ攻撃能力を備えた
多数の艦艇を散開する作戦がA2/AD環境では有効なことも事実で海上自衛隊には欠落している
④本書では日米海軍がより攻勢的な活動を中国沿岸海域でとることを推奨している
→リアクティブ行動だけでなくプロアクティブ活動で意思決定者にメッセージを送る
→本書によれば中国政府は大型艦を失うことを政治的に忌避しつつある
→実際に1隻ごとの非代替性は日米海軍並みに高くなっている
→日米の潜水艦をより攻勢的に運用し、常に大型艦の近傍に存在していることを認識させる
ことも効果が期待できる
・著者からの返信メールの最後は「時間は短いかも知れないが抑止力強化のため日米同盟が
できることは、まだたくさんあると信じます」と結ばれていた
→回復不能なまで落ち込みつつある海上防衛力で不測の事態を迎えたときの代償は高い
→長い経済不況や人口減少の中でのドラスティックな変換には大きな勇気が必要
→それでも自ら軍事的空白を作らないよう、脅威に対応できる体制への改善が急がれる
→そうしなければ国家と国民を守れないばかりか、同僚の隊員たちをいたずらに窮地に
追い込むことになる
→これは陸空自衛隊でも同じで強い政治のリーダーシップと国民の理解が求められる
中国海軍VS.海上自衛隊であります
原題はDragon Against The Sun・・・
表紙裏にあった惹句
裏表紙裏にあった著者と監訳者のプロフィール
ビジネス社 2020年10月1日 第1刷発行
目次のご紹介
本文に出てくる訳文凡例と略語一覧
英語版が2020年5月、日本語版が2020年10月の出版ですから、その時点での分析になります。
アメリカの海洋軍事専門家が英語で書かれた本であり、アメリカの最大利益が前提という
点には留意が必要ですが、欧米には日本の海上自衛隊に関する研究や著作物は殆どなく、
いっぽう中国には豊富にあるそうで、台湾生まれで中国語にも堪能な日系米人の著者が、
膨大な刊行物や著作物を分析し、中国では日中のシーパワーがどのように認識されているのか、
また、そのパワーバランスの変化をどう捉えているのか、という視点が新鮮でした。
ちなみに日本では著者のような権威ある海洋軍事専門家が海上自衛隊幹部やそのOB以外に
どれだけおられるのか、権威ある国際政治学者によるシーパワーの分かりやすい著作物が
どれだけあるのか・・・是非は別として、そちらも不安になりました・・・
読む際には烏賀陽弘道氏の世界標準が参考になりましたが、彼も書いておられたように、
軍事や国際政治については、思い込みとかではなく冷静に、分かりやすく書かれた著作物
というのは、ほんとに日本では少ないですね・・・
以下、わたくしの読後メモの一部ですが、例によって勘違いや読み飛ばしが多々あるはずで、
少しでも興味を持たれた方は是非本書を熟読されますように・・・
また、監訳者は元海上幕僚長、こちらもまさに権威ある専門家で「監訳者あとがき」も
大いに参考になりましたので、わたくしの読後メモから一部を抜粋しています
第1章より
・この10年で中国海軍と海上自衛隊のパワーバランスが崩れた
→艦隊規模、総トン数、火力等すべてで中国海軍が海上自衛隊を凌駕している
→この権力交代(パワーシフト)についてはアメリカでは殆ど研究されていない
・海軍力の不均衡は(局地的な制海権を得る)戦争というオプションを指導部に提供する
第2章より
・中国海軍の増強は2000年代初頭から加速、そのペースは2010年代半ばから更に加速した
→この5年間で両国の海軍力格差は劇的に拡大し中国は決定的な優位性を保持している
・これまでの欧米の研究は日本のシーパワーに注意を払わなかったが、中国での研究成果は
公開されているだけでも膨大にあり、米国シーパワー研究へのエネルギーにも匹敵する
→なので、あまり翻訳・研究されていない中国の著作物を精査した
→中国シーパワーがアジア海域における米国海軍の優位性を侵食することへの研究は多いが
研究に欠けているには、この地域の主要な海軍力が静かに日本から中国に代わっていること
・GDP、軍事支出、その割合いなど全てで大きく逆転し、海軍力のバランスに大きな影響
→2019年の国防省の年次報告書で既に「中国海軍はこの地域で最大の海軍」と記されている
・艦艇数
→米海軍情報局によると2030年まで中国海軍の新鋭艦がさらに増加する可能性が高いが、
海上自衛隊の艦艇数は日本の国家資源から見ても大幅に増加することはない
・総トン数と火力
→中国海軍の平均トン数は1990年から2019年で7倍になった
→1艦あたりの能力と潜在能力が大幅に向上している
(平均トン数では海上自衛隊がまだ僅かに上回っているが中国大型艦の就役で長くは続かない)
→火力を示すミサイルとVLSセルの数は2020年では3300対1600に、
→主要水上艦は2020年では130隻対51隻に
→1990年代前半までで主力艦数は海上自衛隊とほぼ均衡状態になったが、2000年代半ばから
大きく引き離し、2020年では2.5倍となっている
→中国艦艇は射程距離290海里で超音速の長射程対艦巡航ミサイル(ASCM)を装備しているが
海上自衛隊の同タイプは射程距離70~80海里で亜音速の年代物
→射程距離の優位が戦術上の主導権を与える
・人的資源
→海上自衛隊の慢性的な人員不足と(募集可能な)人口の減少
→人民解放軍で人口減少問題が表面化するのは10年以上先
・古代から現代まで、海軍力バランスの大きな変化は大国の関係再編・軍拡競争・外交的
技術的革命・ブレイクスルー技術への多額投資・予防的な軍事攻撃を行わせた
→日本が1904年や1941年のような予防的・直接的な軍事行動をとるとは考えられないが、
海上進出に対して行動を起こすよう、これまで以上に強い圧力の下に置かれるだろう
→米国の政策立案者は日本の態勢を強化し抑止と安定を高める方法で、日本政府が将来の
決定をするよう方向づける準備をしなければならない
・日本の苦境と米国戦略への悪影響を示す類例が冷戦時代の英国海軍衰退のジレンマ
→1950年代にソ連は英国を抜き世界2位の海軍大国になった
→米海軍はあまりに薄く世界に展開しているため他の戦域を全てカバーできない
→ノルウェー沖でのソ連海軍の挑戦的な行動に直面した英国海軍の無力さが深刻な状況に
・日本の領土・空域・海域を守る防衛力は抑止が破綻した場合、米国の前方展開基地への
アクセスを維持し、増援部隊が前線に到達するための時間を稼ぐ
→その過程で海上自衛隊は主要な海上からの進入路を掃討し、続いて共同で制海権を獲得する
→海上自衛隊は米国が西太平洋を越えて戦力投射することを可能にし、機雷掃海など米軍に
欠落した部分を補い、米海軍の戦力を補完してきた
→中国政府が選択肢を計算する場合、海上自衛隊が弱い環になりつつあると判断すれば・・・
→つまり中国海軍が海上自衛隊を凌駕すれば、米国の戦略に対する直接的な挑戦になる
→米国の政策立案者は、日本のシーパワーの相対的な低下を、西太平洋における米国の力が
低下していることと同義として認識すべき
→中国海軍のA2/ADに対する効果的な対抗手段は日米同盟にとって互恵的であり、同盟協力の
中心的事項とする必要がある
・人民解放軍の各種ミサイルは日本列島のあらゆる固定目標に到達できる
→海上自衛隊(の基地)に壊滅的な打撃を与える可能性が高い
→海上自衛隊の相対的な弱体化で日本が中国に屈し米国と協調できなくなる可能性もある
→日本の自信喪失と米国の安全保障への不信感の高まりは日本独自の核抑止力という脅威に
→これは中国海軍進出への黙認に劣らない地域秩序への悪影響となる
→中国の台頭と日本の衰退は、日本の政策立案者に好ましくない選択を強いるかも知れない
→日本から中国に傾きつつある海軍力バランスは、米国によるアジア平和への最初の挑戦
・日本のシーパワーに関する英語の著作物は少ないが中国語の著作物は膨大で詳細
→政府が奨励し比較的自由に議論させ、各分野で研究・発表している
→日本の専門誌「世界の艦船」や「軍事研究」の完全な翻訳や要約も頻繁に掲載されているし
自衛隊幹部や著名な学者の発言、論文も豊富に紹介している
(多くの例示は略してますが日本の著作物よりはるかに多いのではと感じました)
→最近まで嫌悪と不承不承の称賛で「一流海軍」と認めていたが、いずれ追い越すとの見方が
強まっている
第3章より
・海上自衛隊の劇的な地位の低下は、この20年間の中国の台頭と日本経済の低迷、相対的な
衰退、自信の低下と一致している
→中国政府はより積極的な戦略を追及、日本政府にはより用心深く防衛させるようになり、
ある部分では両国関係の敵意を強めている
→日本の「失われた数十年」から生じる不安、地政学的な位置、米国との同盟関係、戦略、
戦略的文化のすべてが激しい対立へ向かわせている
(以下は中国の著作物から)
・中国の台頭で東アジアではじめて2つの大国が共存した
→この均衡状態での東アジア「華夷秩序」復活への不安が日本の中国脅威論の源泉
→比較優位が逆転した2011年以降、日本の判断は悲観的になり中国への態度や反応は硬化した
→弱気なサインは中国の勢力拡大を促すだけと考えているから
→不均衡の拡大は、これまで以上に自国の利益を守ろうとさせている
→進展に過剰に反応しようとする結果として、競争となる可能性が高い
→経済・軍事力のバランス悪化から中国の海上脅威を再評価し敵対するようになった
→日本は中国を大陸国家と見ており、その海洋進出の意志は明確で海洋国家である日本との
対立は避けられないとの結論に達した
・構造的要因としての第一列島線
→日本列島はアメリカと同盟国である日本が監視塔を置いている、逆さ万里の長城に見える
→バリケードであり積極的な防御者が配置された物理的障害物の列である
・人民解放軍の軍事用語辞典では、
第一列島線は、日本列島から琉球諸島、台湾島、フィリピン諸島、パラワン諸島を経て、
カリマンタン島等に至る、中国の海域の外洋周に沿って形成された鎖状の群島
第二列島線は、日本列島から小笠原諸島、硫黄島、マリアナ、ヤップ、パラオを経て、
マルク諸島に至る、広い海域を占める弧状の列島線状の群島と定義している
・どちらも北にある日本列島が目立っている
→アジア諸国が経済発展し海洋で軍事的に行動する際の大きな制約
→さらにユーラシア大陸東部に隣接しているため、黄海、東シナ海の全域、アジア大陸の
奥深くまで戦力投射できる
→日米シーパワーは中国より優れ、容易に圧迫できる好都合の地理的利点を有する
・日米中の3国にとっての海へのアクセス能力は必然的に他者のアクセスを拒否する能力
→中国は列島線に囲まれた海域を支配する手段を保有して、はじめて障壁を作ったり、
自由航行することが可能になり、これは米国も同じ
→アジアにおける米国の優位性は列島線を境界とする海域の支配
→琉球諸島は国益に対する脅威であり海洋公域へのアクセスのための軍事手段が必要で
それを根拠に海軍の頻繁な宮古海峡通過を正当化した
・1950年の朝鮮戦争、1954年と1958年の台湾海峡危機、1960年の北ベトナム爆撃、
1995年から1996年にかけての台湾海峡危機、それ以降の異常接近の繰り返しなどは、
中国にとっては日本列島があることによる地理的苦境であった
→日本の基地協定は中国が米軍による侵略と挑発と見なす行為すべての共犯協定
→日米同盟は中国の利益に反し、その海洋大国同士の緊密な連携が安全と戦略的な成功を
日米にもたらしたと理解している
(日英同盟は日本に繁栄を提供し、その後の大陸進出は日本に国難をもたらした)
・この歴史からも日本は大陸国家とは同盟できず、海洋国家と同盟する
→シーパワー同盟は防衛的なメカニズムではなく経済成長を促進し世界海洋秩序の規範や
ルールを支える制度的基盤を提供する協定
→使命を広範に定義し地域や世界の安全保障に大きな影響力を持っている
→米国がアジアでの野望を実現するため同盟に依存し強化し中国を封じ込める
→グローバル化する同盟は自衛隊をグローバル化し米軍の行くところに行くようになる
→日米同盟は単なる安全保障の傘ではなく日本が影響力を拡大するための根拠と手段
・日本は日米同盟だけでなくアジア全域でのパートナーシップを拡大
→これは中国を封じ込めるための海洋国家連合を形成→日本の海洋戦略の中核
→ランドパワーとしての中国の勃興を封じ込めるという目標
→沿岸国への寄港やパトロールや演習は現地で中国と対峙している国家の抵抗力強化が目的
・日本も中国も同じ海上交通路に依存して繁栄している
→日本の3シーレーンのうちマラッカ海峡と東シナ海を通るルートは中国と共有
→平時は相互に利益を享受しているが危機や戦争になれば、どちらかが相手の海を人質にする
→これが日本の恐怖で過剰な主張を余儀なくされている
→中国によるインド洋支配は日本の生命線を絶つ
→東シナ海ほど利害関係は高くないが競争が敵意を高めることは間違いない
・海洋意識を持つ国は効果的な戦略を策定し海上で大成する可能性が高い
→その国独特の歴史経験が海洋世界観に大きな影響を与えている
→日本の反中感情は明治の脱亜論以来続いている
→海に守られて、中国に同化されたアジア諸国とは一線を画してきた歴史
→海は中国の軍事的・文化的侵略から守る防波堤
→中国への疑念と敵意は日本のDNAで海洋での攻撃性に
→日本の地政学的な位置が危機感と不安感を高め、攻撃は最大の防御という格言を受け入れた
・林子平、横井小楠、佐久間象山、A.F.マハンとその弟子の秋山真之、佐藤鉄太郎
(彼らの古い著作に関する詳細な研究論文が中国には数多くある)
→日本の海洋戦略は積極防衛が特徴
→冷戦構造が一時的に攻撃性を抑制していたが、その終結と侵略記憶の薄れが拡張主義的な
野心の復活を可能にした
(これらの文献は、対立の根源は文明的なものという厄介な確信を示している)
・中国側の評価を総合すると、中国の海洋進出に対する日本の対応については極めて否定的
→強硬な抵抗と中国封じ込めに向けた積極的な海洋戦略を明確に予想している
→このような文明論、運命論、決定論は日本政府を一面的な対立国にしており、
日本の海軍力を評価するための分析的なプリズムを形成している
第4章より
・近年中国が海洋に戻り、海軍が大きな成果を上げるようになると、日本の海軍力に対する
評価に大きな変化をもたらした
→まだ多くは強みを認めているものの、もはや島国の海軍を恐れてはいない
→主要な能力で急速に追いつき海上自衛隊の構造的な弱点を見つけている
→重要なのは戦闘で海上自衛隊を凌ぐ自信を示す者が出始めたことで10年前とは大違い
→海上自衛隊の歴史的な発展、特徴的な利点、永続する弱点を把握し、評価した上での自信
→中国海軍の攻撃火力は大幅に進歩したが海上自衛隊はミサイル戦闘の危険性を克服するのに
苦労するだろうと考えている
・中国から見た日本の海洋戦略(部分)
①日本政府は国家の海洋意識を大変慎重に育ててきた
②海洋の利用、保護、開発、権益主張のための法律を制定してきた
③海洋管理のための国家機関を設立、権限を与え省庁調整と意思決定を改善してきた
→海洋大国になるためのすべての条件を備えている
→この国家戦略推進は両国間の戦略的互恵関係の発展に向けた努力に対する前例のない挑戦
(例示を見ても日本のシーパワーを物理的にも制度的にも総合的高度に理解している)
・中国の軍事用語による日本海軍戦略の進化説明
①1950年代は沿岸防衛と領土保全のみで残りは米国に委託
②その後の10年は近海防御への移行期間で米軍到着までの時間稼ぎ
→この時期に完全な米国依存から共同防衛の取り組みへ
③1970年代には南東・南西1000海里のシーレーン防衛に
④その後の数十年は成長期で1980年の海軍戦略は「外洋での積極防衛」
→グアム以西フィリピン以北のすべての海域→大排水量の多目的戦闘艦の獲得
→8艦8機、4護衛艦隊群の編成
⑤冷戦終結後はペルシャ湾から世界各地へ、1990年代半ばに米軍への兵站支援と後方支援強化、
21世紀に入り長年の専守防衛を捨て「積極攻撃と海外介入」を採用、外洋戦闘能力を持つ
大型高性能艦を就役、アデン湾での海賊対処やジブチでの基地建設は警告信号
・2009年の文献では、総合的に見て海上自衛隊の能力は米国ロシアに次いで世界3位とし、
近代化された新造艦の多さや統制のとれた調達プロセスなどを称賛していた
→冷戦後のロシア海軍力の崩壊と欧州シーパワーの大幅な削減とは対照的
・最近の文献では、かつてほどの脅威ではないとし中国の海軍力を称賛している
→1980年代に近代化ペースと規模の切迫感を失い、1990年代にロシア海軍の老朽化が進み
中国海軍は大きく遅れていたので、さらに緩やかな増強計画を採用した
→この間に中国海軍はブレークスルーし艦隊防衛を破る能力を着実に向上させた
→2008年に第一列島線を突破しパワーバランスの変化が始まり、日本が島嶼防衛に注意を
払うことを余儀なくさせた
→海洋能力への投資を続ければ10年から20年で戦略的な優位を達成すると見積もっている
・米国の優先事項に従った戦力構成の様々な不均衡
→米国の覇権衰退により弱点が明らかになった
→陸上に戦力投入できない→平時でおおすみ型3隻で1個大隊程度
→水陸機動団規模を見積もると海上自衛隊の収容能力を上回る
→揚陸艇の数も大規模な水陸両用作戦のニーズを満たせない
→後方支援も弱点で、前線の戦闘能力を優先する偏見は大日本帝国海軍以来
→港湾施設と造船所工員の質は高いが、近代化・開発ペースは基地能力をはるかに上回る
→海上自衛隊は後方支援の制約から中国海軍に対し継続的な海軍作戦を遂行する能力はない
・ミサイルに対する脆弱性
→世界2位の対潜戦部隊も中国のミサイル攻撃から逃れることはできない
→ひゅうが・いずもなどの大型の高価値艦は中国ミサイルの格好の標的
→宇宙システムや無人偵察機データで陸上から発射される対艦弾道ミサイルに海上自衛隊の
海上配備型弾道ミサイル迎撃システムが最適化されているか疑問
→さらに空と海からのミサイルの数量、速度、機動性能は防御を飽和させ圧倒する
→人民解放軍の早期警戒機と電子戦機は日本機の1世代先を行っているので航空優勢もない
・大規模な通常戦力による軍事衝突が発生した場合、日米の海空軍基地を攻撃することになるが
嘉手納、岩国、佐世保、横須賀がミサイル攻撃の主な目標になるだろう
→攻撃の結果、米軍は西太平洋の軍事拠点を失うことになるだろう
→米軍はグアムやハワイに後退せざるを得ず前方部隊の持久力が損なわれる・・・
→空母への野望(略)
→尖閣諸島をめぐる局地紛争(略)
・このような、あからさまな議論が中国の著作物で一般化し、厄介な特徴になっている
・対潜戦戦略
→アジアにおける米軍の「補助軍種」としての最優先事項は対潜戦と機雷戦
①積極攻勢には敵の潜水艦基地、造船所などへの直接攻撃を含み、米軍は対地攻撃を行い、
海上自衛隊は進入ポイントに近い沿岸の軍港を機雷封鎖、待ち伏せ攻撃区域を設定する
②消極攻勢には主要な海峡の管制と封鎖を含み、封鎖圏を形成するため機雷を敷設、水上艦艇や
対潜哨戒機を派遣し、海底に敷設された探知機で列島線を追尾
③積極守勢には包囲・殲滅戦を含み、公海における探索・攻撃の対潜掃討戦を行う
→近代的な中国潜水艦の数と太平洋の広さから効果は低いと考えている
④消極守勢には同盟国海軍と商船の護衛を含み、固定翼機、回転翼機、水上戦闘艦を組み合わせ
海域や航路を掃討、潜水艦を港内に留め置くための欺瞞作戦に従事すると想定
・機雷戦は秘密性が高く日本政府は殆ど公表していないが公刊情報から機雷種類を特定し、
機雷の開発・生産能力を世界クラスと評価、着実な生産貯蔵と試験演習の少なさと保管能力から
日本は大量の機雷を保有していると考えている(詳細略)
→冷戦時代の津軽、宗谷、根室での計画と同様、南西諸島沿いの重要なチョークポイントに
上昇機雷を敷設する可能性がある
→ただし他の海峡、水道、港湾も守らねばならず、南西諸島沿い1000kmに渡る対潜戦は、
海上自衛隊の潜水艦部隊に無理を強いることになる
→作戦地域の拡大と中国最新潜水艦の静粛性は機雷の有効性を一段と失わせている
・海戦シナリオ
→中国のアナリスト2人がトム・クランシー・スタイルで日中海戦のシナリオを作った(略)
(日本人はこのシナリオを嘆くだろうが)中国の作戦成功への重要な詳細記述がある
概要(詳細な船名・機種名・兵器名などは省略)
①尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船が中国海警局の海警艦に発砲、両船は一時的に撤退するが
両国は尖閣諸島への上陸競争を開始
②スールー海にいた遼寧空母戦闘部隊は宮古海峡に向かい自衛隊を尖閣上陸作戦から遠ざけ
母港を出る揚陸部隊への圧力を軽減する
③東シナ海上空では中国の飛行禁止区域内で日本の早期警戒機と戦闘機が戦闘飛行を開始、
中国のステルス戦闘機が撃墜
④ロケット軍と空軍が那覇空港と那覇基地を攻撃、24時間で制空権を掌握
⑤米国は安保条約の発動を拒否、経済制裁の形式的な脅しのみ
⑥烈度の高い海戦が短期間勃発、宮古海峡西でフリゲート艦を失い現場から撤退
いっぽう戦闘爆撃機と多機能戦闘機で構成する海上攻撃隊は尖閣に向かう護衛隊群を
巡航ミサイルの集中攻撃で阻止撃破
⑦米軍偵察機は妨害を受けていない嘉手納基地に帰投、裏で米軍非介入と基地非攻撃の約束
日本は上陸阻止にも失敗し、潜水艦も対潜哨戒機により撃沈され、4日以内に尖閣諸島は
人民解放軍の手に落ちる・・・
・楽観的な前提で結果には無理があるが、中国が好む戦略要素が推測できる
→日本が最初に武力行使すること→そのように意識的に誘導し追い込む可能性
→それで外交を軍事作戦と協力して機能させる
→日米同盟内に不和を生じさせる
→電磁領域の戦術と沖縄の航空拠点喪失により短時間で制空権を掌握する
→海戦についても中国の戦闘ドクトリンと一致しており長射程の精密火力によって船舶や
航空機は短時間の攻撃で壊滅的な打撃を与えることができる
→局地的な制海権をめぐる一進一退の争いは戦争の最終段階まで続く
・作戦面に焦点をあてた第二のシナリオ(略)
→どちらのシナリオにも米軍基地への攻撃はなく、米国の関与が中国の戦争を著しく複雑に
するという明確な認識を示している
→日本に対する米国の共感の低下や外交的孤立は中国の作戦目標を大きく前進させる
・これらの著作物は中国が日本の海軍力を非常によく研究していることを示している
→海洋への野心に対する日本の激しい抵抗を予想しているので当然
→もっとも注目すべきテーマは日本の海軍力への疑問視が出始めていること
→この上昇曲線が続いた場合に日米が直面する課題であり厳しい警告である
第5章より
・中国の執筆者は日本のシーパワーについて驚くほど豊富な知識を持っている
→機雷の在庫管理プログラムから最先端の戦闘機プラットフォームまで精通している
→人民解放軍が空域海域支配のための攻勢的な作戦を展開する可能性を明確に論じている
・日本列島は海洋進出に対する物理的障壁であり、日米同盟が依拠する不可欠な基地であり、
日米の戦力と意志を象徴している
→そのため日本政府は商船であれ軍艦であれ中国の海運を封じ込める潜在能力を持っている
→中国の戦闘ドクトリンでも著作物でも日本の位置について相当の不安を持っている
→特に琉球諸島は台湾に近く、日米空軍のハブで南西諸島での守備隊計画も懸念材料
→その固定要因への認識も最近では変化している
→横須賀、佐世保からは細い海上交通路で米軍が介入しなければ阻止できる可能性もある
・中国の著作物にみる変化は海洋で台頭する傾向を論証している
→経済的な成功で自信に満ちた中国とバブル崩壊以降の低迷で自信のない日本との間で
予想される相互作用は悪い予兆で、対立ではないにしても競争への期待が中国の文献にある
→日本が海洋進出に反対していると信じ、妥協への期待を低下させ、競争か力の行使に
→権威ある文献への表現頻度を見ればプロパガンダや民族主義的な感情だけではない
・日米同盟は中国には厄介な戦略的連合で、長年磨かれた作戦上の分業体制は強力な抑止力
→紛争シナリオでは内政不干渉で自衛隊が東シナ海の海空域の指揮権を直ちに奪われるが、
→これは米軍と自衛隊がどの程度共存・統合されているかを無視したシナリオで、
→日本全体に広がる米軍の恒久的な前方展開部隊が、その攻撃を軽視したり無視したり
些細なことにこだわったりする可能性は非常に低い
→さらに日本の敗戦寸前に米軍が介入する可能性も極めて低い
→海軍の覇権国は勢力バランスが大きく変化する前に、それを回避するために断固として行動する
ペロポネソス戦争でのアテネ海軍の派遣、ナポレオン戦争でのデンマーク艦隊に対する英国の攻撃、
チャーチルの北アフリカのフランス艦隊攻撃の悲痛な決断、いずれも大規模な海軍部隊が
悪意ある者の手に落ちるのを防ぐためであった
→米軍は海上自衛隊の無力化という不利なバランスを未然に防ぐために介入するかも知れない
→同盟を分裂できるのは継ぎ目や弱点を正確に認識し、活用した場合のみだが、彼らは
→米国が一方的に支配する同盟で自発的でも平等でもないと主張している
・重要なことは、このような誤解が指導部に誤った判断をさせたり認識させたりする危険性
→日米同盟に関する誤った仮定を受け入れる意思の存在
→見えにくい指示に従っている可能性もある
・まずアジアの海洋におけるパワーシフトがすでに起こっていることを認識すること
→長い間、日中間の地域的な力学を軽視しながら米中間の海軍バランスのみだった
→中国が地域の不均衡をどう見ているかを含め、日本がどの程度遅れているか理解する
→同盟国海軍の存在意義は海洋での戦争を戦い勝つこと
→中国の著作物からは局地的なハイエンド戦闘(高性能兵器による高烈度戦闘)で近代海軍を
試す準備を進めている
→中国海軍のハイテク戦闘能力は海上自衛隊にも米海軍にも悲惨な結果をもたらす
→過去30年、他の追随を許さない優位を維持してきた同盟にとって大きな転機
・中国が日本の軽空母に無関心なのはミサイル部隊による追尾や目標設定が容易だから
→ミサイル防衛システムで迎撃できる数は少なく、中国が発射できる大量のミサイルによる
集中攻撃は艦隊や基地を圧倒する
→日本の海軍力は少数の価値の高い主力艦に集中しており集中打撃で短時間で艦隊を失う
→この危険回避にはポートフォリオの再調整が必要
→先制攻撃に確実に耐えるには重装備ミサイル艇を含む小型で安価で大量の冗長なシステム
・長期にわたり効果的に競争するためには中国の弱点と中国のリスク計算を理解し、
脆弱性と危機感に対し圧力をかけなければならない
→海軍力は中国台頭の象徴であり、その価値は成長に伴って増加している
→艦隊が多大な損害を被ることへの指導部の許容度はそれに応じて低下
→物質的な価値以上に艦隊を失うことのリスクが大きくなっている
→実際にも主力艦の割合が高まっていることから一段とリスク回避的になるだろう
→艦隊を失った場合、体制さえ危うくなる可能性がある(日清日露フォークランドの例)
→艦隊を危険にさらすことには慎重になる
→艦隊に壊滅的な損害を与える態勢があれば中国政府を抑止する可能性がある
→日米同盟の潜在的な戦闘力の強化
・究極的に日米両国は、海上で戦い勝利するための戦力を保持し、中国に勝てないと
納得させなければならない
第6章より
・米国戦略コミュニティは米中2国間の海軍バランスのみで関係国を排除する風潮がある
→同盟国が直面している強い圧力を詳細に調査して的確に把握すること
→全体としての力を構成しているのは同盟国との連合軍であり平時戦時に地域海軍の貢献を
加えないと、いかなる評価も不完全
→地域国家と連合した戦争は米国が中国に優位を保つ数少ない分野のひとつ
・中国の著作物は意外に透明性が高く作戦などの詳細を伝えてくれる
→中国海軍の現在および将来に関する情報に基づいた討論と見做すべき
→この10年の中国政府の自信の増加は海軍力の増強とほぼ一致している
→論文等を把握することは中国海軍の方向性や課題を判断するのに役立つ
→日中海軍のバランスをどう見ているか、過小評価や過大評価があれば同盟国が操作できる
→不均衡を明らかに無視している分野→その背景にある理由・・・
・中国の海軍力が日本に追いつき追い抜いたことで中国の軍事的選択肢が根本的に再評価された
→それ以上の変化が数年のうちに起こるかも知れない
→5年あるいは10年後に中国と日本の力の差はどの程度広がるのだろうか
→次の段階と計画について中国の文献はどの程度の早期警戒情報を日米同盟に与えるか
→結果が高くつくことを考えれば、政策立案者は海軍競争の次の段階の輪郭と向かう方向
について、前もって考えておかねばならない・・・
監訳者あとがきより
・戦後のアジアで米国のヘゲモニー体制に唯一組み込まれなかった国が中国
・中国の国境概念には地理的国境と戦略的国境がある
→地理的国境は領土領空領海の限界であり、戦略的国境は軍事力が支配している
国家利益と関係のある地理的空間的範囲の限界
・1990年代以降、ベクトルが外向きになり米国秩序に影響を及ぼす
→2000年代の米国は同じ価値観を持たせて地域秩序に編入しようとした
→中国が経済的軍事的に台頭してくると相対的に米国ヘゲモニーは衰退、その結果、
自由主義・資本主義・海洋性のアジアと、戦略的国境を広げつつある大陸性の中国を
分断するラインが、東シナ海から台湾海峡を通って南シナ海に現れている
・生存と繁栄を海に依存している日本には海洋性のアジアがもっとも居心地がいい
→日米同盟を基軸に価値観を同じくする国々と協調している
・日本の安全保障戦略
→1957年閣議決定の「国防の基本方針」(字数で300字に満たない概念)だけだった
→2013年政府決定の「国家安全保障戦略」まで冷戦を含み戦略を欠いたまま防衛していた
→2006年以降は民主主義・自由・人権・法の支配・市場経済という価値観外交
・中国は重要なパートナー国だが異質な国家、同じ農民支配を基礎とするロシアと同様で
→現状変更を望む中国には譲歩は通じない
→相手の変化を促そうと関与しても宥和と受け取られてたのが日本の対中外交
→宥和の連鎖をいかに断ち切るかは常に大きな外交上の課題
・オーストラリアの長距離打撃能力(対空・対艦・対地)強化を盛り込んだ国防計画の制定
→コロナ発生源の究明姿勢以来、中国から強圧的脅迫的な外交圧力を受けている中での決定
・海上自衛隊の防衛力整備が停滞した理由
→1955年から1993年まで続いた55年体制、とりわけ1980年代に始まった政治の混乱期に、
政争の具になりやすい防衛議論が忌避されてきた
→1991年のバブル崩壊から続く経済不況→米国海軍への甘えの構造→ブレークスルーなし
→専守防衛の解釈は戦略環境に応じて変えていくべきだが前述の要因で狭めてきた
・周辺国の主要兵器による潜在的な脅威をオフセットできない状況が今のまま継続すれば、
自ら軍事的な空白地帯を作ってしまい、軍事的冒険主義を呼び込む戦略環境を醸成する
→現行憲法のもとで専守防衛の基本政策を変更せず予算内で兵力組成を改善することは可能
→著者のいう攻勢的な思考による防衛政策へとパラダイムシフトできるはず
・防衛政策で喫緊になすべきことは、想定される主要な作戦空間と作戦領域で中国はじめ
周辺国の保有する主要兵器と一連の作戦手段のオフセット
①中国に対する安全保障政策を守勢から攻勢に転換
→冷戦時代は日本自身が断固たる対ソ防衛体制をとっていた
→大きな違いは、今の中国が対等な競争相手で経済的には西側の重要なパートナーであり、
投資先であるということ
→外交政策の右手(経済政策)と左手(安全保障政策)を欧米以上にうまく使い分けねばならない
→冷戦時代のソ連への姿勢と比較して西側諸国には弱腰に映ることは免れない
→しかし領土交渉に関しては当時のソ連と同じで、引けば必ず出てくる
→安全保障上は明らかに潜在的な脅威で抑止態勢を改善していく必要がある
②日米同盟を基軸に価値観を同じくする国々との結びつきを強化していく
→米国中枢の変数を除けば自由で開かれたインド太平洋のコンセプトや価値観は共有できている
→法の支配に基づく海洋秩序維持の輪は英国やカナダなど域外にも広がっている
③自衛隊の兵力組成を戦略環境に適応させるようリバランスする
→本書のとおり中国海軍と日米海軍ではアウトレンジ攻撃能力に大きなギャップがある
→長射程ミサイルに超音速滑空兵器が加わり迎撃能力はさらに限定された
→技術イノベーションが遅れているが限られた予算でミサイルギャップを埋めるためには、
一部への集中ではなく一連のシステムに欠落や弱点を作らない配慮が必要
→たとえばイージス・アショアは有効だが弾道ミサイル防衛という森の中の1本の木に過ぎず、
弾道ミサイル防衛というのは各種ミサイル防衛という山の一部に過ぎない
→イージス・アショア中止を好機に一連の作戦が健全迅速に機能するよう俯瞰するべき
→本書に具体例として大型艦に代えて小型安価単機能の艦艇を多数保有するオプションが
あったが、これは米軍が進めるモザイク戦
→1枚の小さなタイルを失ってもモザイク画の全体は維持されるという作戦構想
→ただし有事ミサイル戦への専用装備だけでは平時やグレーゾーンに適切に対応できない
→平時からグレーゾーン、有事の幅広い時間軸に活動するには大型多機能艦が有効であり、
多機能な護衛艦は不要にはならないが、小型ステルス化しスタンド・オフ攻撃能力を備えた
多数の艦艇を散開する作戦がA2/AD環境では有効なことも事実で海上自衛隊には欠落している
④本書では日米海軍がより攻勢的な活動を中国沿岸海域でとることを推奨している
→リアクティブ行動だけでなくプロアクティブ活動で意思決定者にメッセージを送る
→本書によれば中国政府は大型艦を失うことを政治的に忌避しつつある
→実際に1隻ごとの非代替性は日米海軍並みに高くなっている
→日米の潜水艦をより攻勢的に運用し、常に大型艦の近傍に存在していることを認識させる
ことも効果が期待できる
・著者からの返信メールの最後は「時間は短いかも知れないが抑止力強化のため日米同盟が
できることは、まだたくさんあると信じます」と結ばれていた
→回復不能なまで落ち込みつつある海上防衛力で不測の事態を迎えたときの代償は高い
→長い経済不況や人口減少の中でのドラスティックな変換には大きな勇気が必要
→それでも自ら軍事的空白を作らないよう、脅威に対応できる体制への改善が急がれる
→そうしなければ国家と国民を守れないばかりか、同僚の隊員たちをいたずらに窮地に
追い込むことになる
→これは陸空自衛隊でも同じで強い政治のリーダーシップと国民の理解が求められる
2021年12月28日
戦争がつくった現代の食卓
年の瀬も押し迫る中、とーとつですが・・・
戦争がつくった現代の食卓~軍と加工食品の知られざる関係~であります・・・
原題タイトルがコンバットレーションMREのパロディになってますね
そう、コンバットレーション(戦闘糧食)と、現代の一般人が食べている加工食品との関係を
分かりやすくまとめた本であります
著者・訳者・発行所・発行年月日等については下記のとおり
カバー裏にあった著者紹介
例によって目次のみご紹介・・・
知らないことばかりで、にゃーるほどと勉強になりましたが、著者は自称「アメリカの
フードライター界の悪女」だそうで過激な文章にユーモアや皮肉も満載、読み物としても
とても面白い内容でした。
以下、わたくしの読後メモよりの抜粋です。
本文だけでも全14章300頁以上ある大作で、門外漢のわたくしの思い違いもあるでしょうし、
専門的な部分は殆ど省略してますので、興味を持たれた方は本書をご熟読下さい。
第1章 子どもの弁当の正体
・昔から料理が大好きで子どもたちにはカフェテリアの給食ではなく弁当を作っていた
(ちなみに著者の弁当アイテムは①エナジーバー②パック入りの加工肉③スライスパン
④プロセスチーズ⑤チーズ味のクラッカー⑥サランラップ⑦ジュースパウチだったそうです)
・やがて子どもたちが大きくなりフードライターになった
→取材するうちに自分が作っていた弁当は環境への負荷、栄養価、鮮度などいずれの基準でも
当時は悪者扱いされていた(アメリカの)給食にも及ばないことがわかった
・子どもの弁当に使っていた食品の殆ど、その製造に使われている技術の殆どはアメリカ軍が
コンバット・レーションをつくりだす中で生まれたもので、健康的でもなく、新鮮でもなく、
環境にやさしくもない、戦場の兵士用につくられたものだった
→持ち運びしやすく、すぐに食べられて、常温で長期保存でき、価格が手ごろで、
どんなに冒険心のない人でも食べる気にさせるもの
→言い換えれば、自分の子どもたちに特殊部隊と同じような食事をさせていた
第2章 (ボストン郊外にあるアメリカ陸軍)ネイティック研究所
・ハリウッドが映画の聖地、ナッシュビルがカントリーミュージックの聖地、ニューヨークが
出版の聖地であるように、ここはアメリカ人の食生活の基盤をなす加工食品の聖地
・海外でも駐屯地の食堂ではアメリカ人の家庭と変わらないバラエティーにとんだ内容
(ただし生鮮食品の価格は道路事情や待ち伏せ攻撃や僻地輸送などで国内の2倍近い)
・いっぽう前線ではネイティック研究所で設計・製造された各種の戦闘糧食
→個人用、先制攻撃用、ユニット式集団用、寒冷地用、長距離パトロール用、拡張モジュールetc
・レーションの歴史遺産展示
→南北戦争時代のハードタック(堅パン)
→第二次世界大戦時代のCレーション(缶詰)とP-38(缶切り)セット
→朝鮮戦争・ベトナム戦争時代の缶入りレーションやパン類etc
・戦闘食糧配給局ナンバーツーからの説明
→賞味期間は摂氏27℃で3年、保存性・品質・携帯性では保存性が手ごわいが専門家がいる
→民間への技術移転には積極的(緊急事態に消費者向け民間工場も使えるから???)
・レーションの試食
→MRE(わたくし何度か試してるので省略します)
→先制攻撃用(ファーストストライク・レーション)
(少しずつつまみ食いしたいように設計された3年常温保存サンドイッチやエナジーバーや
カフェイン入りガムなど)
・食品実験室
→小さな飛行機格納庫ほどの広さがあり常温保存可能な各種具入りパンを開発中だった
→本や雑誌やウェブサイトで公開されるレシピは数日から数週間で完了するが工業生産用の
レシピ開発には数年から数十年かかることもある→パンの味と保存性とか(たしかに)
→真空パックや脱酸素剤など包装の重要性
→野営中の兵士一人一日あたりのごみの量は3.6kgに達し、多くはプラスチックと紙
→ナノ複合材料、マイクロスフェア、生分解性プラスチックの開発
→テーマパークさながらの回転・落下・圧縮・水没・気候などの試験装置も・・・
・このように1日かけて見学してきた数々の実験室はカムフラージュにすぎない
→アメリカの加工食品産業を動かす真の仕事が行われているのは隣にある普通のオフィスなのだ
第3章 軍が出資する食品研究
・軍はアメリカ最大の食品購入者
→食品支出で国防総省を上回るのはシスコとマクドナルドだけ
・第二次世界大戦時の補給問題委員会
→全米科学アカデミーと米国学術研究会議が主催する外部組織へ
→1980年代初期から軍の幹部だけで構成される内部組織へ
・基礎研究、その実用化を目指す応用研究、その製品化を目指す開発研究
→基礎研究は国防総省、応用研究は非営利団体や企業パートナー、開発研究はたいてい産業界
(開発研究が巨大軍需企業にとって格好の餌場となる部分→航空機などと同じ)
・資金以外の多大な政府からの支援には報告義務がなく謎めいている
→提携事業はネイティック研究所が食品業界に与える仕組みの中でもとりわけ重要
→大手食品企業が提携契約を結びたがる理由→新技術の新製品で市場を支配できるから
・1970年代の終盤から日本が世界経済をも支配する勢力になりライバルと同じ政府介入政策に
→産業界は乗り気ではなかったが1994年の条項で大量の技術移転が実現した
→現在のライバルである中国の2倍から3倍に相当する連邦政府による研究開発投資
→多くの産業界の方向性に対して国防総省が極端に強い影響力を持つに至っている
→最良の科学技術が自発的に生まれ育つことはなく、軍事的支配を達成するための計画に
従った科学や技術のみが選ばれて方向づけられることになる
・軍の研究所が食品科学の基礎研究や応用研究を誘導するということは、それらの研究が
何より軍に適したものになるということを意味する
→その食品加工技術を無償か低額で譲渡→企業の食品もレーションに近いものになる
・戦闘食糧配給プログラムの予算は少ないが、その影響の大きさは想像を超えている
第4章 レーションの黎明期を駆け足で
・駐屯地で食べる給食と対比される行軍中や交戦中の戦闘糧食(コンバット・レーション)
・旧石器時代・中石器時代には短期間・集中的に食料を確保(男性は狩猟、女性は採集)すると、
それ以外の時期はのんびり過ごして絶えず新たな場所に移動していた
→獲物と他部族の美女を求め遠出したい男と定住を希望する女
→女が野生の穀物を噛んで離乳食を作ってたら酒ができ、男が従うようになった
→酒のための農耕で定住が実現(古代シュメール農耕の4割がビールづくりのための栽培)
→狩猟と農耕の中間に位置する牧畜を選ぶ者もいて農耕民を襲撃→新石器時代
(古代シュメールの牧羊神と農耕神の神話や農夫カインと羊飼いアベルの話)
→余剰食糧→権力→都市国家→防衛は自領内だが遠征先では食糧略奪より携帯食のほうが確実
・シュメール文明とともに史上初の常備軍が誕生
→2000年間で約14の都市国家が絶えず戦争しており強力な武器や軍事技術を発明したが、
出撃先が近かったのでレーションは凱旋行進用のビールやケーキなど初歩的なものだった
・古代エジプトは海と砂漠と川により他民族から隔てられており戦術は後れを取っていた
→東方から半遊牧民のヒクソス族に攻め込まれた
→100年以上かかって追い返し、その間に戦力も増強、自らも領土拡大に乗り出した
→駐屯地と野営地のための補給係を創出、ビール、パン、玉ねぎ、干物、塩漬け魚の補給
・特に魚の保存食はレーションの革命で軽量で保存が利き栄養価が高くアッシリア人も採用
→パンや粥よりアミノ酸が補給でき最も効率が良いのは乾燥または圧縮した動物性の肉
→その後の大帝国は戦闘中も携行可能なタンパク質の保存食品をひとつは用いるようになる
・古代ギリシャ軍の食事
→素人の重装歩兵は最大3日分の進軍に備えた糧食を各自で携行していた
→穀物数キロ、酢、玉ねぎ、携行可能なタンパク質としての山羊乳のチーズ
→例外は軍事国家スパルタの戦士だけだった
→マケドニアがギリシャを統一して歩兵の改革を実行
→世話係の同行を禁止し2週間分の穀類14キロを含む36キロの装備を義務化
(現代のアメリカ歩兵では45キロを超えている)
・ローマ帝国の保存食
→帝国の基礎はプロシュート・ベーコン・ソーセージ・ハードチーズ・ハードタックだった
→巨大帝国の端まで輸送しても変質せず1000年にわたり古代世界を支配した
→駐屯地ではさらに生鮮食品やワインなどのご馳走を堪能していた→高い農業生産性による
→畑や果樹園に合うのは豚肉で塩の交易を独占していたローマ帝国は保存が容易にできた
→加工肉店(サルメリア)が生まれ軍団とともに各地へ遠征
・バイキングとモンゴル帝国の糧食
→バイキングの船内食は大麦の粥とバターで干したカレイやタラも出るが基本は農耕民
→トナカイの尿で狂戦士になり残虐行為で北ヨーロッパを支配
→モンゴル軍は今日の特殊部隊の先駆者で兵士の食糧として完璧(携帯手軽軽量栄養豊富)な
粉乳シェイクや自家製ジャーキーや非常食としての馬の生き血など
→現モンゴル軍でも粉乳とジャーキーは兵士のリュックに入っている
・モンゴルに支配された中国人は乳や乳製品を嫌い、流浪の民の始祖であるセム族の
イスラム教徒やユダヤ教徒は敵の飼育する家畜であり移動に適さない豚の食用を禁じる
・アステカ帝国の食事
→旧石器時代までにメソアメリカ原産の大型草食動物はすべて狩り尽くされてたので
牧畜はできず、兵士の日常食は三種類に加工されたトウモロコシ、豆類、カボチャなどの種子
→ただし宴の際は太らせた捕虜(人食いの理由については諸説あり)
第5章 破壊的なイノベーション、缶詰
・産業革命により、軍で生まれた知識が市民に移行するという逆転が生じ現在も続く
・フランス革命で近代史における最初の国民皆兵制度ができ大量の補給が必要になった
→ナポレオンは根幹食品は船か動物で輸送、それ以外は現地調達という食糧配給戦略
→村で略奪する兵士は行方不明になり現地調達できなければ衰弱や飢餓が襲った
→1795年に懸賞金つきで食品保存方法を公募→ニコラ・アペールの瓶詰め湯煎が入選
→同じ頃にピーター・デュランドがブリキの缶詰を発明、1813年に缶詰工場ができたが
大量生産できず高価だったため、イギリスの陸軍と海軍が巨大缶を注文できたのみだった
→南北戦争の頃には小型化され加熱時間も短縮、兵士の日常的な食事となった
・乾燥、塩漬け、燻製、発酵に続く食品保存法で本来低温殺菌はアぺルティゼーションだが
50年後に登場したルイ・パスツールはこれの微生物を死滅させる科学原理を理解していたので
一般にはパスツリゼーションと呼ばれている→大発明なのにアペールさん気の毒
・1898年の米西戦争
→米軍はキューバの熱暑を考慮に入れてなかった→牛肉缶詰の腐敗?事件
→戦闘死亡は385人で病死が2485人→軍法会議の大問題に
→キューバで義勇騎馬隊の英雄だったセオドア・ルーズベルトがその後大統領になり1906年に
最初の「純正食品医薬品法」を成立させ陸軍は前線の食糧調達と配給を見直すことになった
・腐敗の仕組み(略)
第6章 第二次世界大戦とレーション開発の立役者たち
・1939~ローランド・イスカー大佐
嵩張り重いCレーションからKレーションへ
・1942~ジョージ・ドリオ
・1943~バーナード・プロクター
乾燥粉末マッシュポテト、高カロリー緊急用ビスケット、調理済み冷凍食品、救命いかだ用
液体レーション、合成ビタミンA・・・
→C,D,Kは見た目と味がひどかった(生鮮食品のAと調理済食品のBは駐屯地で食される)
→巨大缶詰肉、付け合わせ、調味料、食器を組み合わせた10人用10in1と5人用5in1は好評だった
・1944~エミール・ムラク
→戦後の外部委託研究プログラム→食品科学がひとつの学問分野に→無数の企業へ
第7章 アメリカの活力の素、エナジーバー
・発売されたのは1970年代だが90年代になっても意志の弱いダイエッターか、危険なほど
熱心なアスリートの食べる特殊な食べ物だった→なぜ普及したか
・ココアとチョコレートの歴史(略)
・ハーシーが高価なカカオの一部を安価な牛乳に変え手軽に買えるチョコレートバーに
→第一次世界大戦中は砂糖が調達できなくなったが軍請負のライバルは入手できてた
(この時期の原料不足からシリアルやドライフルーツやクッキーをチョコレートに混ぜ込む
ネスレ社のクランチなどが登場)
→ハーシーが1937年にDレーションを開発→これが現代のエナジーバーの先祖
→80年代には高温でも溶けにくいチョコレートがネイティック研究所で開発されハーシーが
1990年の湾岸戦争に納入、次の入札ではM&Mが勝ったが商業市場までは至らなかった
・陸軍の血漿粉末化研究による大規模なフリーズドライ技術→食品科学の偉大な成果に
→1960年代の宇宙開発でネイティック研究所にも予算が大量に流れた
→アポロ計画(1968~72)でのフリーズドライ食品は不味かった
・マーカス・カレルの水分活性説
→ゼネラルフーズ社がドッグフードに水分活性を応用→レーションにも
→缶詰は味はいいが重い、乾燥食品はおいしくないが軽い
→中間水分食品は水分活性が低下し細菌が増殖できず通常の包装材料で長期保存できるし、
しっとりと柔らかく食べやすくておいしい
→1971年のアポロ15号で中間水分食品のアプリコットバーが使われる→好評
→70年代半ばからネイティック研究所と連携していたゼネラルフーズ、カーネーション、
ケロッグ、クラフト、ナビスコなどから次々とエナジーバーが市場に登場したがイマイチ
→低血糖を経験したマラソンランナーが開発した水分活性を低く抑えたパワーバーが登場
→1986年に製造がはじまり2000年までに驚異的な売り上げになり高額でネスレに売却
→その後は老舗の大手企業も積極的に参戦しアメリカ人の必需品になった
第8章 成型ステーキ肉の焼き加減は?
・動物の組織をつくり変えた食べ物を私たちが好んで食べる理由
→アメリカ陸軍が兵士に配給する肉のコストを削減する方法を追求し、方法が見つかれば
企業もコストを抑えられるので、消費者向けに同じ方法を嬉々として採用するから
・何世紀ものあいだ骨付きのままで肉を出すことが保険だった
→骨との結合状態さえ見れば、どの部位か、どんな状態か、一目でわかるから
(貧者は正体不明のくず肉をシチューかスープで食べていた)
・動物を殺す肉屋に対する思いは兵士や死刑執行人に対する思いと同様で複雑だった
→昔の肉屋は屋外で血まみれで屠畜し廃棄物は道端で腐敗していた→嫌われ者になってた
・温帯では新鮮な肉を食べられる季節は限られるが低温が腐敗を遅らせることは知られていた
→19世紀初頭に低温流通のコンセプトが生まれた→やがて氷からアンモニア冷媒へ
・軍の献立で最も高価なものは肉で支出の半分以上を占めていた
(生産に大量の土地と水と植物が必要で収穫加工保存運搬も難しいから)
→米西戦争までに冷蔵輸送が可能になったが大量輸送が必要になった第一次世界大戦で、
はじめて箱詰め加工牛肉が開発された→ただ、まとめて冷凍すると様々な問題が生じた
→新しい骨抜き技術で各部位に分類、急速冷凍技術で細胞破裂を防ぐetc
→精肉業者は残りの部位でも儲け、軍はカット肉で調理と給仕の人手と時間が削減できた
→アメリカの主婦は当初は受け付けなかったが50年かけて浸透させた
→現在ではスーパーで販売される牛肉の9割以上が箱詰め加工肉
・マックリブ(豚の成型肉)
→1981年にコスト抑制で登場→20年たってようやくヒットした
→軍のコスト抑制のための成型肉の研究からデニーズ、マクドナルドへ
・軍の成型肉の研究はソーセージのような伝統的な加工肉と異なり高級肉と思わせるのが目的
→1972年までに外部委託できる段階に、1976年から兵士に出し始めた
→1980年のニューヨークタイムズでネイティック研究所による成型肉の発明が紹介され、
一般消費者にも成型肉が広がる可能性があると推測→その一例がマクドナルドだった
・現在、成型肉は肉売り場以外でも様々な場所で購入できる
→本来の動物と人間の危うく暴力的な関係は・・・
第9章 長持ちするパンとプロセスチーズ
・パンはイースト菌の発見で魅力的な食べ物へと変貌した
(ビールの製造と関係していた可能性もある)
→調理済みの手軽なコンビニエンスフードの元祖で約6000年前に誕生
・大戦では生イーストの供給が追いつかず糧食研究所がイーストを休眠状態にする研究を開始
→ドライイーストで海外の駐屯地でもパンが焼けるようになった
・いっぽうで自家製パンはほぼ消滅した
→大量生産で資源が節約でき戦争に回せるから→忙しい主婦もその戦略に乗った
→1950年代には1日の摂取カロリーの1/3を占めるようになった
→工場の短時間での製パン法で風味・香り・食感が失われてしまった
・パンの保存に関する陸軍の研究が本格的に始まったのは第二次世界大戦中
→困難が大きく1950年代の穀類研究プロジェクト40のうち11はパンの保存に関するもの
(他にパン用ミックス粉の研究がありマフィンやケーキ用の市販ミックス粉になった)
→1957年に2~4週間はパンを柔らかく保つ酵素添加による技術が完成
→今日ではスーパーで売られる工場製パンの殆どに調整剤として酵素が添加されている
(高峰譲吉のアミラーゼの工業化成功にはじまり、酵素は飲料や食肉にも添加されており
酵素産業は今や年間50億ドルの収益)
→添加物による健康問題も指摘され1993年フランスのパン法令では添加が禁止された
→この基準ではスーパーの市販品はパンではなく陸軍が開発した「非老化性パン様食品」
→朝鮮戦争中からベトナム戦争にかけてレーションに加える缶詰パンを作ったが不評
→80年代半ばからネイティック研究所がパウチ入りパンの研究をすすめていた
→1996年にナビスコと共同研究開発契約
→数ヶ月保存までで立ち消えになったが、その技術はカプセル食品、冷凍食品、ベビーフード、
パスタ、エナジーバー、スナック、パン、キャンディ、シリアルなどに用いられ、これらは
アメリカ人の食事の75%を占める
・プロセスチーズとチーズパウダー
→20世紀初頭に高温や長期保存に耐えられるプロセスチーズができた
→第一次世界大戦で陸軍が大量に注文、これでクラフト社の覇権が確立
→第二次世界大戦ではKレーションやCレーションに入れるチーズスプレッドも購入
→陸軍は他の食品同様に乾燥と圧搾を追求→チーズパウダーの誕生→チートスも
第10章 プラスチック包装が世界を変える
・アメリカの原油消費量は20世紀の100年間で200倍になった
・1930年代の終盤まで耐久性のものは重く木材かガラスか陶器か金属、使い捨ては紙か蝋か布
→天然ゴムやシェラック樹脂など一部の素材が日本軍によって遮断され合成素材の研究競争に
→合成ポリマー(プラスチック)→1941年に海軍とNACA(NASAの前身)の出資で製造研究
・ダウ・ケミカルが発見したサラン(ポリ塩化ビニリデン)が1930年代後半には椅子や電車の
シートに使う繊維として発売されていた
→陸軍が注目し金属部品の露天海外輸送にサランをスプレーしていた
→レーションを湿気から守るにはサランに柔軟性と光分解しない透明性が必要と要望
→「光安定性を有する塩化ビニリデン組成」の特許申請はヒトラー自殺の四日後
→1949年サランラップの登場→4年後に極薄化し消費者市場に進出→家庭用ラップのトップに
→焼却時の塩素ガスと可塑剤の食品への移行が問題視され2004年に低密度ポリエチレンに
・レトルトパウチの開発
→1950年代はじめの陸軍の包装部門の要望をすべて解決する言葉が「プラスチック」
→水分を含んだ常温保存用食品の加熱と保存は缶詰以来ずっと頑丈な金属製の円筒だった
→陸軍がアメリカの食品業界とプラスチック業界の60社近い大企業を集めた
→1980年代以降はレトルトパウチのMREレーションが標準的な食事になった
→可塑剤たっぷりのレトルトパウチは兵士には許容可能なリスクかも知れないが・・・
→MRE1食からはプラスチックと厚紙を中心とした固形ごみ150gが生ずる
→アルミ箔層を含むラミネートパウチはリサイクルや燃料にならないしコストもかかる
→それでもポリマーだけでは蒸気を透過させるので金属バリアが必要だった
→80年代の終わりにナノテクノロジー・ポリマーがトヨタの自動車部品に登場
→10年後に陸軍がポリマー系ナノ複合材料がレーションのアルミ箔層の代替になるか調査
→2002年にネイティック研究所が企業や大学と連携した研究に着手
→人間の細胞にぴったり入るサイズのナノ粒子の健康への悪性データはほぼ皆無
→食品接触材料としてのプラスチック使用については民間人が阻止すべきでは・・・
第11章 夜食には3年前のピザをどうぞ
・ハードルテクノロジーの開発
→ドイツ連邦食肉研究所→ドイツ陸軍のためのハムとソーセージの微生物学の研究から
→基本的な手法はローマ帝国時代と同じだった→それを理論化・工業化
→ネイティック研究所の常温保存可能なサンドウィッチは開発から17年後の2007年に完成、
イラクとアフガニスタンでレーションに使われた
→ハードルテクノロジーは特にピザなど水分量の異なる複数材料に有効
→陸軍はクラストとソースを隔てるバジル風味ナノフィルムを挟んだ常温保存可能なピザを開発
・高圧加工と食品保存(略)
第12章 スーパーマーケットのツアー(軍で生まれた技術によるものツアー)
・袋入り洗浄済みサラダ用野菜→ガス置換包装で新鮮なまま
・フレッシュジュース・調理済み冷蔵品・カット済み野菜や果物・ソースやドレッシングetc
→高圧加工で非加熱殺菌済み
・ピザクラスト・フラットブレッド・ソフトタイプのトルティーヤetc
→ハードルテクノロジーでいつまでも古びない
・電子レンジで温めるだけの料理→重爆撃機の乗員用に軍が開発資金を援助したもの
・食肉コーナー→殆どがネイティック研究所からの技術
・プロセスチーズ・粉ミルク・常温保存可能な加工食品etc→レーションから
・パン売り場の殆ど・レトルトパウチ入り料理・常温保存可能なマッシュポテト
・菓子パン・エナジーバー・チョコチップクッキー・焼き菓子→中間水分食品
・缶詰コーナー→まさに昔のCレーションをたたえる記念ディスプレイ
・レトルトパウチコーナー→20年にわたる陸軍と委託契約業者による研究の成果
・インスタントコーヒー・スープ・粉末飲料・シリアルの小さな果物・調味料小袋のハーブなど
→第二次世界大戦の衛生兵に届けられた凍結乾燥の血液製剤やワクチンの末裔
・ハードボイルドライス→第二次世界大戦中にはじめて兵士に届けられたもの
・冷凍ピザ→最初のメーカーは陸軍の契約業者で飛行機で移動中の兵士に出す食事を考案
・濃縮オレンジジュース→兵士にビタミンCを摂取させるため1945年に低温蒸発製法が完成
・食品以外でもキッチン家電製品の殆どは軍に起源をもつ
・アルミホイル→戦後残った15万機の戦闘機を溶かした軍の安価な原料で家庭に普及した
・食品の栄養成分表示→食事ではなく栄養素という観点で考える→加工食品レーションから
・レジ横のM&Mのチョコ・リグレーのガム・チートス・乾燥ジャガイモのチップスetc
・積み替えなしでトラック・列車・船舶で運べるコンテナ輸送とパレット
・企業の「HACCP危険要因分析重要管理点」方式の食品安全管理・食品受容性研究etc
・スーパーに並ぶ食品の少なくとも半分以上は軍の技術によるもの
・食品科学と食品技術に関する基礎研究を軍が支配しているということは、
兵士に配給するレーションについての戦闘食糧配給プログラムの下す決定が、
一般市民の食べるものに関する事実上の決定となることを意味している
第13章 アメリカ軍から生まれる次の注目株
(本書の取材で調査していた2007年のプロジェクトから)
・病原体バイオセンサー→食品病原体の検出
・サプリメント添加による戦場での兵士のパフォーマンス向上
→すでにファーストストライク・レーションにはたっぷり入っている
・前線作戦基地用に新鮮な野菜や果物(FFV)の賞味期間を延ばす
(その選択肢がない状況で兵士が食べると士気が著しく高揚する)
・パーソナル飲料クーラー(高温による脱水状態には冷えた飲み物が最適)→すでに市販化
(60kg近い装備で高温の砂漠を歩く兵士は1時間に2ℓの水分補給が必要だがキャメルバッグに
入った温かく消毒臭がする水は飲んでも吐いてしまう→身体能力や認知能力の低下も)
・ソーラー式冷蔵コンテナ→2016年には野戦炊事車に導入
・ごみをエネルギーに変えるコンバーター→兵士1人1日あたり3.6kgのごみの8割は食品関係
第14章 子どもに特殊部隊と同じものを食べさせる?
・未来の戦争は小規模な特殊作戦部隊向けになる
(偵察と監視、パートナー支援と訓練、低烈度紛争、テロ活動への潜入妨害対応、高価値標的破壊)
→このような流動的でダイナミックな戦闘環境での大規模な駐屯地の設営は負担が大きい
→後方支援の対象も小規模な前線作戦基地になる
→個人用戦闘装備の急激な高性能化もあり駐屯地も小規模化へ
→このシナリオに集団が食卓で落ち着いて食べる温かい食事の入る余地はない
・包装を破って中身を食べゴミを捨てるだけのレーションは加工や包装のコストが高くても
陸軍にとっては最も費用対効果の高い食糧配給方式
→野戦炊事車も生鮮食品の輸送も怪しい第三国の食糧調達業者も食肉検査官も冷蔵コンテナも
不愛想な料理人も厨房のごみ処理も鍋洗いも器具磨きも兵員食堂の管理も要らないから
→実際に陸軍は一日三食という食事の概念を崩そうとしている
・本書の執筆を通じて、むきになって料理を手作りするのをやめた
→以前は6人分のきちんとした食事を作ると心が安らいだが、今はそれが腹立たしい
→いかに手早く大量の箱と袋を開けてテーブルに食べ物を出せるかを常に考えるようになった
・料理は(昔は自分たちで歌ったり演奏していて今は大勢で共有する商業的なものになった)
音楽と同じ道を歩んでいて、いわば死にかけのアート・・・
→家族のために料理する場合でも、少なくとも材料の半分は加工済食品
・軍→食品科学→食品をおいしく安全に変質せず保存できる方法の解明→調理の飛躍的向上
→工業生産化→無数の食品の発明→加工食品による主婦の自由(選択肢)
・一方で工業生産される加工食品の殆どは不健康で安定性と長期保存のための添加物入り
・加工食品の殆どにレーションを薄めたものが潜んでいる
→レーションは兵士のために設計されたもので少なくとも子どもの健康にはよくない
・家族が求めているのは私の料理そのものではなく私に何かしてもらっているという感覚
→母親、妻、娘としての私の存在を実感したいのだ
→この思いを満たす方法はたくさんあるが私の場合は料理がそのひとつだった・・・
戦争がつくった現代の食卓~軍と加工食品の知られざる関係~であります・・・
原題タイトルがコンバットレーションMREのパロディになってますね
そう、コンバットレーション(戦闘糧食)と、現代の一般人が食べている加工食品との関係を
分かりやすくまとめた本であります
著者・訳者・発行所・発行年月日等については下記のとおり
カバー裏にあった著者紹介
例によって目次のみご紹介・・・
知らないことばかりで、にゃーるほどと勉強になりましたが、著者は自称「アメリカの
フードライター界の悪女」だそうで過激な文章にユーモアや皮肉も満載、読み物としても
とても面白い内容でした。
以下、わたくしの読後メモよりの抜粋です。
本文だけでも全14章300頁以上ある大作で、門外漢のわたくしの思い違いもあるでしょうし、
専門的な部分は殆ど省略してますので、興味を持たれた方は本書をご熟読下さい。
第1章 子どもの弁当の正体
・昔から料理が大好きで子どもたちにはカフェテリアの給食ではなく弁当を作っていた
(ちなみに著者の弁当アイテムは①エナジーバー②パック入りの加工肉③スライスパン
④プロセスチーズ⑤チーズ味のクラッカー⑥サランラップ⑦ジュースパウチだったそうです)
・やがて子どもたちが大きくなりフードライターになった
→取材するうちに自分が作っていた弁当は環境への負荷、栄養価、鮮度などいずれの基準でも
当時は悪者扱いされていた(アメリカの)給食にも及ばないことがわかった
・子どもの弁当に使っていた食品の殆ど、その製造に使われている技術の殆どはアメリカ軍が
コンバット・レーションをつくりだす中で生まれたもので、健康的でもなく、新鮮でもなく、
環境にやさしくもない、戦場の兵士用につくられたものだった
→持ち運びしやすく、すぐに食べられて、常温で長期保存でき、価格が手ごろで、
どんなに冒険心のない人でも食べる気にさせるもの
→言い換えれば、自分の子どもたちに特殊部隊と同じような食事をさせていた
第2章 (ボストン郊外にあるアメリカ陸軍)ネイティック研究所
・ハリウッドが映画の聖地、ナッシュビルがカントリーミュージックの聖地、ニューヨークが
出版の聖地であるように、ここはアメリカ人の食生活の基盤をなす加工食品の聖地
・海外でも駐屯地の食堂ではアメリカ人の家庭と変わらないバラエティーにとんだ内容
(ただし生鮮食品の価格は道路事情や待ち伏せ攻撃や僻地輸送などで国内の2倍近い)
・いっぽう前線ではネイティック研究所で設計・製造された各種の戦闘糧食
→個人用、先制攻撃用、ユニット式集団用、寒冷地用、長距離パトロール用、拡張モジュールetc
・レーションの歴史遺産展示
→南北戦争時代のハードタック(堅パン)
→第二次世界大戦時代のCレーション(缶詰)とP-38(缶切り)セット
→朝鮮戦争・ベトナム戦争時代の缶入りレーションやパン類etc
・戦闘食糧配給局ナンバーツーからの説明
→賞味期間は摂氏27℃で3年、保存性・品質・携帯性では保存性が手ごわいが専門家がいる
→民間への技術移転には積極的(緊急事態に消費者向け民間工場も使えるから???)
・レーションの試食
→MRE(わたくし何度か試してるので省略します)
→先制攻撃用(ファーストストライク・レーション)
(少しずつつまみ食いしたいように設計された3年常温保存サンドイッチやエナジーバーや
カフェイン入りガムなど)
・食品実験室
→小さな飛行機格納庫ほどの広さがあり常温保存可能な各種具入りパンを開発中だった
→本や雑誌やウェブサイトで公開されるレシピは数日から数週間で完了するが工業生産用の
レシピ開発には数年から数十年かかることもある→パンの味と保存性とか(たしかに)
→真空パックや脱酸素剤など包装の重要性
→野営中の兵士一人一日あたりのごみの量は3.6kgに達し、多くはプラスチックと紙
→ナノ複合材料、マイクロスフェア、生分解性プラスチックの開発
→テーマパークさながらの回転・落下・圧縮・水没・気候などの試験装置も・・・
・このように1日かけて見学してきた数々の実験室はカムフラージュにすぎない
→アメリカの加工食品産業を動かす真の仕事が行われているのは隣にある普通のオフィスなのだ
第3章 軍が出資する食品研究
・軍はアメリカ最大の食品購入者
→食品支出で国防総省を上回るのはシスコとマクドナルドだけ
・第二次世界大戦時の補給問題委員会
→全米科学アカデミーと米国学術研究会議が主催する外部組織へ
→1980年代初期から軍の幹部だけで構成される内部組織へ
・基礎研究、その実用化を目指す応用研究、その製品化を目指す開発研究
→基礎研究は国防総省、応用研究は非営利団体や企業パートナー、開発研究はたいてい産業界
(開発研究が巨大軍需企業にとって格好の餌場となる部分→航空機などと同じ)
・資金以外の多大な政府からの支援には報告義務がなく謎めいている
→提携事業はネイティック研究所が食品業界に与える仕組みの中でもとりわけ重要
→大手食品企業が提携契約を結びたがる理由→新技術の新製品で市場を支配できるから
・1970年代の終盤から日本が世界経済をも支配する勢力になりライバルと同じ政府介入政策に
→産業界は乗り気ではなかったが1994年の条項で大量の技術移転が実現した
→現在のライバルである中国の2倍から3倍に相当する連邦政府による研究開発投資
→多くの産業界の方向性に対して国防総省が極端に強い影響力を持つに至っている
→最良の科学技術が自発的に生まれ育つことはなく、軍事的支配を達成するための計画に
従った科学や技術のみが選ばれて方向づけられることになる
・軍の研究所が食品科学の基礎研究や応用研究を誘導するということは、それらの研究が
何より軍に適したものになるということを意味する
→その食品加工技術を無償か低額で譲渡→企業の食品もレーションに近いものになる
・戦闘食糧配給プログラムの予算は少ないが、その影響の大きさは想像を超えている
第4章 レーションの黎明期を駆け足で
・駐屯地で食べる給食と対比される行軍中や交戦中の戦闘糧食(コンバット・レーション)
・旧石器時代・中石器時代には短期間・集中的に食料を確保(男性は狩猟、女性は採集)すると、
それ以外の時期はのんびり過ごして絶えず新たな場所に移動していた
→獲物と他部族の美女を求め遠出したい男と定住を希望する女
→女が野生の穀物を噛んで離乳食を作ってたら酒ができ、男が従うようになった
→酒のための農耕で定住が実現(古代シュメール農耕の4割がビールづくりのための栽培)
→狩猟と農耕の中間に位置する牧畜を選ぶ者もいて農耕民を襲撃→新石器時代
(古代シュメールの牧羊神と農耕神の神話や農夫カインと羊飼いアベルの話)
→余剰食糧→権力→都市国家→防衛は自領内だが遠征先では食糧略奪より携帯食のほうが確実
・シュメール文明とともに史上初の常備軍が誕生
→2000年間で約14の都市国家が絶えず戦争しており強力な武器や軍事技術を発明したが、
出撃先が近かったのでレーションは凱旋行進用のビールやケーキなど初歩的なものだった
・古代エジプトは海と砂漠と川により他民族から隔てられており戦術は後れを取っていた
→東方から半遊牧民のヒクソス族に攻め込まれた
→100年以上かかって追い返し、その間に戦力も増強、自らも領土拡大に乗り出した
→駐屯地と野営地のための補給係を創出、ビール、パン、玉ねぎ、干物、塩漬け魚の補給
・特に魚の保存食はレーションの革命で軽量で保存が利き栄養価が高くアッシリア人も採用
→パンや粥よりアミノ酸が補給でき最も効率が良いのは乾燥または圧縮した動物性の肉
→その後の大帝国は戦闘中も携行可能なタンパク質の保存食品をひとつは用いるようになる
・古代ギリシャ軍の食事
→素人の重装歩兵は最大3日分の進軍に備えた糧食を各自で携行していた
→穀物数キロ、酢、玉ねぎ、携行可能なタンパク質としての山羊乳のチーズ
→例外は軍事国家スパルタの戦士だけだった
→マケドニアがギリシャを統一して歩兵の改革を実行
→世話係の同行を禁止し2週間分の穀類14キロを含む36キロの装備を義務化
(現代のアメリカ歩兵では45キロを超えている)
・ローマ帝国の保存食
→帝国の基礎はプロシュート・ベーコン・ソーセージ・ハードチーズ・ハードタックだった
→巨大帝国の端まで輸送しても変質せず1000年にわたり古代世界を支配した
→駐屯地ではさらに生鮮食品やワインなどのご馳走を堪能していた→高い農業生産性による
→畑や果樹園に合うのは豚肉で塩の交易を独占していたローマ帝国は保存が容易にできた
→加工肉店(サルメリア)が生まれ軍団とともに各地へ遠征
・バイキングとモンゴル帝国の糧食
→バイキングの船内食は大麦の粥とバターで干したカレイやタラも出るが基本は農耕民
→トナカイの尿で狂戦士になり残虐行為で北ヨーロッパを支配
→モンゴル軍は今日の特殊部隊の先駆者で兵士の食糧として完璧(携帯手軽軽量栄養豊富)な
粉乳シェイクや自家製ジャーキーや非常食としての馬の生き血など
→現モンゴル軍でも粉乳とジャーキーは兵士のリュックに入っている
・モンゴルに支配された中国人は乳や乳製品を嫌い、流浪の民の始祖であるセム族の
イスラム教徒やユダヤ教徒は敵の飼育する家畜であり移動に適さない豚の食用を禁じる
・アステカ帝国の食事
→旧石器時代までにメソアメリカ原産の大型草食動物はすべて狩り尽くされてたので
牧畜はできず、兵士の日常食は三種類に加工されたトウモロコシ、豆類、カボチャなどの種子
→ただし宴の際は太らせた捕虜(人食いの理由については諸説あり)
第5章 破壊的なイノベーション、缶詰
・産業革命により、軍で生まれた知識が市民に移行するという逆転が生じ現在も続く
・フランス革命で近代史における最初の国民皆兵制度ができ大量の補給が必要になった
→ナポレオンは根幹食品は船か動物で輸送、それ以外は現地調達という食糧配給戦略
→村で略奪する兵士は行方不明になり現地調達できなければ衰弱や飢餓が襲った
→1795年に懸賞金つきで食品保存方法を公募→ニコラ・アペールの瓶詰め湯煎が入選
→同じ頃にピーター・デュランドがブリキの缶詰を発明、1813年に缶詰工場ができたが
大量生産できず高価だったため、イギリスの陸軍と海軍が巨大缶を注文できたのみだった
→南北戦争の頃には小型化され加熱時間も短縮、兵士の日常的な食事となった
・乾燥、塩漬け、燻製、発酵に続く食品保存法で本来低温殺菌はアぺルティゼーションだが
50年後に登場したルイ・パスツールはこれの微生物を死滅させる科学原理を理解していたので
一般にはパスツリゼーションと呼ばれている→大発明なのにアペールさん気の毒
・1898年の米西戦争
→米軍はキューバの熱暑を考慮に入れてなかった→牛肉缶詰の腐敗?事件
→戦闘死亡は385人で病死が2485人→軍法会議の大問題に
→キューバで義勇騎馬隊の英雄だったセオドア・ルーズベルトがその後大統領になり1906年に
最初の「純正食品医薬品法」を成立させ陸軍は前線の食糧調達と配給を見直すことになった
・腐敗の仕組み(略)
第6章 第二次世界大戦とレーション開発の立役者たち
・1939~ローランド・イスカー大佐
嵩張り重いCレーションからKレーションへ
・1942~ジョージ・ドリオ
・1943~バーナード・プロクター
乾燥粉末マッシュポテト、高カロリー緊急用ビスケット、調理済み冷凍食品、救命いかだ用
液体レーション、合成ビタミンA・・・
→C,D,Kは見た目と味がひどかった(生鮮食品のAと調理済食品のBは駐屯地で食される)
→巨大缶詰肉、付け合わせ、調味料、食器を組み合わせた10人用10in1と5人用5in1は好評だった
・1944~エミール・ムラク
→戦後の外部委託研究プログラム→食品科学がひとつの学問分野に→無数の企業へ
第7章 アメリカの活力の素、エナジーバー
・発売されたのは1970年代だが90年代になっても意志の弱いダイエッターか、危険なほど
熱心なアスリートの食べる特殊な食べ物だった→なぜ普及したか
・ココアとチョコレートの歴史(略)
・ハーシーが高価なカカオの一部を安価な牛乳に変え手軽に買えるチョコレートバーに
→第一次世界大戦中は砂糖が調達できなくなったが軍請負のライバルは入手できてた
(この時期の原料不足からシリアルやドライフルーツやクッキーをチョコレートに混ぜ込む
ネスレ社のクランチなどが登場)
→ハーシーが1937年にDレーションを開発→これが現代のエナジーバーの先祖
→80年代には高温でも溶けにくいチョコレートがネイティック研究所で開発されハーシーが
1990年の湾岸戦争に納入、次の入札ではM&Mが勝ったが商業市場までは至らなかった
・陸軍の血漿粉末化研究による大規模なフリーズドライ技術→食品科学の偉大な成果に
→1960年代の宇宙開発でネイティック研究所にも予算が大量に流れた
→アポロ計画(1968~72)でのフリーズドライ食品は不味かった
・マーカス・カレルの水分活性説
→ゼネラルフーズ社がドッグフードに水分活性を応用→レーションにも
→缶詰は味はいいが重い、乾燥食品はおいしくないが軽い
→中間水分食品は水分活性が低下し細菌が増殖できず通常の包装材料で長期保存できるし、
しっとりと柔らかく食べやすくておいしい
→1971年のアポロ15号で中間水分食品のアプリコットバーが使われる→好評
→70年代半ばからネイティック研究所と連携していたゼネラルフーズ、カーネーション、
ケロッグ、クラフト、ナビスコなどから次々とエナジーバーが市場に登場したがイマイチ
→低血糖を経験したマラソンランナーが開発した水分活性を低く抑えたパワーバーが登場
→1986年に製造がはじまり2000年までに驚異的な売り上げになり高額でネスレに売却
→その後は老舗の大手企業も積極的に参戦しアメリカ人の必需品になった
第8章 成型ステーキ肉の焼き加減は?
・動物の組織をつくり変えた食べ物を私たちが好んで食べる理由
→アメリカ陸軍が兵士に配給する肉のコストを削減する方法を追求し、方法が見つかれば
企業もコストを抑えられるので、消費者向けに同じ方法を嬉々として採用するから
・何世紀ものあいだ骨付きのままで肉を出すことが保険だった
→骨との結合状態さえ見れば、どの部位か、どんな状態か、一目でわかるから
(貧者は正体不明のくず肉をシチューかスープで食べていた)
・動物を殺す肉屋に対する思いは兵士や死刑執行人に対する思いと同様で複雑だった
→昔の肉屋は屋外で血まみれで屠畜し廃棄物は道端で腐敗していた→嫌われ者になってた
・温帯では新鮮な肉を食べられる季節は限られるが低温が腐敗を遅らせることは知られていた
→19世紀初頭に低温流通のコンセプトが生まれた→やがて氷からアンモニア冷媒へ
・軍の献立で最も高価なものは肉で支出の半分以上を占めていた
(生産に大量の土地と水と植物が必要で収穫加工保存運搬も難しいから)
→米西戦争までに冷蔵輸送が可能になったが大量輸送が必要になった第一次世界大戦で、
はじめて箱詰め加工牛肉が開発された→ただ、まとめて冷凍すると様々な問題が生じた
→新しい骨抜き技術で各部位に分類、急速冷凍技術で細胞破裂を防ぐetc
→精肉業者は残りの部位でも儲け、軍はカット肉で調理と給仕の人手と時間が削減できた
→アメリカの主婦は当初は受け付けなかったが50年かけて浸透させた
→現在ではスーパーで販売される牛肉の9割以上が箱詰め加工肉
・マックリブ(豚の成型肉)
→1981年にコスト抑制で登場→20年たってようやくヒットした
→軍のコスト抑制のための成型肉の研究からデニーズ、マクドナルドへ
・軍の成型肉の研究はソーセージのような伝統的な加工肉と異なり高級肉と思わせるのが目的
→1972年までに外部委託できる段階に、1976年から兵士に出し始めた
→1980年のニューヨークタイムズでネイティック研究所による成型肉の発明が紹介され、
一般消費者にも成型肉が広がる可能性があると推測→その一例がマクドナルドだった
・現在、成型肉は肉売り場以外でも様々な場所で購入できる
→本来の動物と人間の危うく暴力的な関係は・・・
第9章 長持ちするパンとプロセスチーズ
・パンはイースト菌の発見で魅力的な食べ物へと変貌した
(ビールの製造と関係していた可能性もある)
→調理済みの手軽なコンビニエンスフードの元祖で約6000年前に誕生
・大戦では生イーストの供給が追いつかず糧食研究所がイーストを休眠状態にする研究を開始
→ドライイーストで海外の駐屯地でもパンが焼けるようになった
・いっぽうで自家製パンはほぼ消滅した
→大量生産で資源が節約でき戦争に回せるから→忙しい主婦もその戦略に乗った
→1950年代には1日の摂取カロリーの1/3を占めるようになった
→工場の短時間での製パン法で風味・香り・食感が失われてしまった
・パンの保存に関する陸軍の研究が本格的に始まったのは第二次世界大戦中
→困難が大きく1950年代の穀類研究プロジェクト40のうち11はパンの保存に関するもの
(他にパン用ミックス粉の研究がありマフィンやケーキ用の市販ミックス粉になった)
→1957年に2~4週間はパンを柔らかく保つ酵素添加による技術が完成
→今日ではスーパーで売られる工場製パンの殆どに調整剤として酵素が添加されている
(高峰譲吉のアミラーゼの工業化成功にはじまり、酵素は飲料や食肉にも添加されており
酵素産業は今や年間50億ドルの収益)
→添加物による健康問題も指摘され1993年フランスのパン法令では添加が禁止された
→この基準ではスーパーの市販品はパンではなく陸軍が開発した「非老化性パン様食品」
→朝鮮戦争中からベトナム戦争にかけてレーションに加える缶詰パンを作ったが不評
→80年代半ばからネイティック研究所がパウチ入りパンの研究をすすめていた
→1996年にナビスコと共同研究開発契約
→数ヶ月保存までで立ち消えになったが、その技術はカプセル食品、冷凍食品、ベビーフード、
パスタ、エナジーバー、スナック、パン、キャンディ、シリアルなどに用いられ、これらは
アメリカ人の食事の75%を占める
・プロセスチーズとチーズパウダー
→20世紀初頭に高温や長期保存に耐えられるプロセスチーズができた
→第一次世界大戦で陸軍が大量に注文、これでクラフト社の覇権が確立
→第二次世界大戦ではKレーションやCレーションに入れるチーズスプレッドも購入
→陸軍は他の食品同様に乾燥と圧搾を追求→チーズパウダーの誕生→チートスも
第10章 プラスチック包装が世界を変える
・アメリカの原油消費量は20世紀の100年間で200倍になった
・1930年代の終盤まで耐久性のものは重く木材かガラスか陶器か金属、使い捨ては紙か蝋か布
→天然ゴムやシェラック樹脂など一部の素材が日本軍によって遮断され合成素材の研究競争に
→合成ポリマー(プラスチック)→1941年に海軍とNACA(NASAの前身)の出資で製造研究
・ダウ・ケミカルが発見したサラン(ポリ塩化ビニリデン)が1930年代後半には椅子や電車の
シートに使う繊維として発売されていた
→陸軍が注目し金属部品の露天海外輸送にサランをスプレーしていた
→レーションを湿気から守るにはサランに柔軟性と光分解しない透明性が必要と要望
→「光安定性を有する塩化ビニリデン組成」の特許申請はヒトラー自殺の四日後
→1949年サランラップの登場→4年後に極薄化し消費者市場に進出→家庭用ラップのトップに
→焼却時の塩素ガスと可塑剤の食品への移行が問題視され2004年に低密度ポリエチレンに
・レトルトパウチの開発
→1950年代はじめの陸軍の包装部門の要望をすべて解決する言葉が「プラスチック」
→水分を含んだ常温保存用食品の加熱と保存は缶詰以来ずっと頑丈な金属製の円筒だった
→陸軍がアメリカの食品業界とプラスチック業界の60社近い大企業を集めた
→1980年代以降はレトルトパウチのMREレーションが標準的な食事になった
→可塑剤たっぷりのレトルトパウチは兵士には許容可能なリスクかも知れないが・・・
→MRE1食からはプラスチックと厚紙を中心とした固形ごみ150gが生ずる
→アルミ箔層を含むラミネートパウチはリサイクルや燃料にならないしコストもかかる
→それでもポリマーだけでは蒸気を透過させるので金属バリアが必要だった
→80年代の終わりにナノテクノロジー・ポリマーがトヨタの自動車部品に登場
→10年後に陸軍がポリマー系ナノ複合材料がレーションのアルミ箔層の代替になるか調査
→2002年にネイティック研究所が企業や大学と連携した研究に着手
→人間の細胞にぴったり入るサイズのナノ粒子の健康への悪性データはほぼ皆無
→食品接触材料としてのプラスチック使用については民間人が阻止すべきでは・・・
第11章 夜食には3年前のピザをどうぞ
・ハードルテクノロジーの開発
→ドイツ連邦食肉研究所→ドイツ陸軍のためのハムとソーセージの微生物学の研究から
→基本的な手法はローマ帝国時代と同じだった→それを理論化・工業化
→ネイティック研究所の常温保存可能なサンドウィッチは開発から17年後の2007年に完成、
イラクとアフガニスタンでレーションに使われた
→ハードルテクノロジーは特にピザなど水分量の異なる複数材料に有効
→陸軍はクラストとソースを隔てるバジル風味ナノフィルムを挟んだ常温保存可能なピザを開発
・高圧加工と食品保存(略)
第12章 スーパーマーケットのツアー(軍で生まれた技術によるものツアー)
・袋入り洗浄済みサラダ用野菜→ガス置換包装で新鮮なまま
・フレッシュジュース・調理済み冷蔵品・カット済み野菜や果物・ソースやドレッシングetc
→高圧加工で非加熱殺菌済み
・ピザクラスト・フラットブレッド・ソフトタイプのトルティーヤetc
→ハードルテクノロジーでいつまでも古びない
・電子レンジで温めるだけの料理→重爆撃機の乗員用に軍が開発資金を援助したもの
・食肉コーナー→殆どがネイティック研究所からの技術
・プロセスチーズ・粉ミルク・常温保存可能な加工食品etc→レーションから
・パン売り場の殆ど・レトルトパウチ入り料理・常温保存可能なマッシュポテト
・菓子パン・エナジーバー・チョコチップクッキー・焼き菓子→中間水分食品
・缶詰コーナー→まさに昔のCレーションをたたえる記念ディスプレイ
・レトルトパウチコーナー→20年にわたる陸軍と委託契約業者による研究の成果
・インスタントコーヒー・スープ・粉末飲料・シリアルの小さな果物・調味料小袋のハーブなど
→第二次世界大戦の衛生兵に届けられた凍結乾燥の血液製剤やワクチンの末裔
・ハードボイルドライス→第二次世界大戦中にはじめて兵士に届けられたもの
・冷凍ピザ→最初のメーカーは陸軍の契約業者で飛行機で移動中の兵士に出す食事を考案
・濃縮オレンジジュース→兵士にビタミンCを摂取させるため1945年に低温蒸発製法が完成
・食品以外でもキッチン家電製品の殆どは軍に起源をもつ
・アルミホイル→戦後残った15万機の戦闘機を溶かした軍の安価な原料で家庭に普及した
・食品の栄養成分表示→食事ではなく栄養素という観点で考える→加工食品レーションから
・レジ横のM&Mのチョコ・リグレーのガム・チートス・乾燥ジャガイモのチップスetc
・積み替えなしでトラック・列車・船舶で運べるコンテナ輸送とパレット
・企業の「HACCP危険要因分析重要管理点」方式の食品安全管理・食品受容性研究etc
・スーパーに並ぶ食品の少なくとも半分以上は軍の技術によるもの
・食品科学と食品技術に関する基礎研究を軍が支配しているということは、
兵士に配給するレーションについての戦闘食糧配給プログラムの下す決定が、
一般市民の食べるものに関する事実上の決定となることを意味している
第13章 アメリカ軍から生まれる次の注目株
(本書の取材で調査していた2007年のプロジェクトから)
・病原体バイオセンサー→食品病原体の検出
・サプリメント添加による戦場での兵士のパフォーマンス向上
→すでにファーストストライク・レーションにはたっぷり入っている
・前線作戦基地用に新鮮な野菜や果物(FFV)の賞味期間を延ばす
(その選択肢がない状況で兵士が食べると士気が著しく高揚する)
・パーソナル飲料クーラー(高温による脱水状態には冷えた飲み物が最適)→すでに市販化
(60kg近い装備で高温の砂漠を歩く兵士は1時間に2ℓの水分補給が必要だがキャメルバッグに
入った温かく消毒臭がする水は飲んでも吐いてしまう→身体能力や認知能力の低下も)
・ソーラー式冷蔵コンテナ→2016年には野戦炊事車に導入
・ごみをエネルギーに変えるコンバーター→兵士1人1日あたり3.6kgのごみの8割は食品関係
第14章 子どもに特殊部隊と同じものを食べさせる?
・未来の戦争は小規模な特殊作戦部隊向けになる
(偵察と監視、パートナー支援と訓練、低烈度紛争、テロ活動への潜入妨害対応、高価値標的破壊)
→このような流動的でダイナミックな戦闘環境での大規模な駐屯地の設営は負担が大きい
→後方支援の対象も小規模な前線作戦基地になる
→個人用戦闘装備の急激な高性能化もあり駐屯地も小規模化へ
→このシナリオに集団が食卓で落ち着いて食べる温かい食事の入る余地はない
・包装を破って中身を食べゴミを捨てるだけのレーションは加工や包装のコストが高くても
陸軍にとっては最も費用対効果の高い食糧配給方式
→野戦炊事車も生鮮食品の輸送も怪しい第三国の食糧調達業者も食肉検査官も冷蔵コンテナも
不愛想な料理人も厨房のごみ処理も鍋洗いも器具磨きも兵員食堂の管理も要らないから
→実際に陸軍は一日三食という食事の概念を崩そうとしている
・本書の執筆を通じて、むきになって料理を手作りするのをやめた
→以前は6人分のきちんとした食事を作ると心が安らいだが、今はそれが腹立たしい
→いかに手早く大量の箱と袋を開けてテーブルに食べ物を出せるかを常に考えるようになった
・料理は(昔は自分たちで歌ったり演奏していて今は大勢で共有する商業的なものになった)
音楽と同じ道を歩んでいて、いわば死にかけのアート・・・
→家族のために料理する場合でも、少なくとも材料の半分は加工済食品
・軍→食品科学→食品をおいしく安全に変質せず保存できる方法の解明→調理の飛躍的向上
→工業生産化→無数の食品の発明→加工食品による主婦の自由(選択肢)
・一方で工業生産される加工食品の殆どは不健康で安定性と長期保存のための添加物入り
・加工食品の殆どにレーションを薄めたものが潜んでいる
→レーションは兵士のために設計されたもので少なくとも子どもの健康にはよくない
・家族が求めているのは私の料理そのものではなく私に何かしてもらっているという感覚
→母親、妻、娘としての私の存在を実感したいのだ
→この思いを満たす方法はたくさんあるが私の場合は料理がそのひとつだった・・・