書斎

2024年10月29日

万物の黎明

とーとつですが・・・

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The Dawn of Everything~A New History of Humanity~

万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~であります


表紙カバー裏にあった惹句

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そう、著者2人は(瞬く間に古典となったこの本により)、
ガリレオが天文学で、ダーウィンが生物学でなしたことを人類学でおこなったのだ



裏表紙カバー裏にあった著者2人と訳者の紹介

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著者2人は人類学の教授と考古学の教授で訳者は社会思想史・都市社会論の教授・・・

わたくし文明史や人類史にも興味があるのですが人類学と考古学の専門家が共同執筆した本は
はじめてで、確かに思想家などの本より説得力があって、目からウロコでした

特にこれまでの
文明史には殆ど出てこなかった南北アメリカやウクライナなど、いわゆる
「〇大文明」以外の古代文明にも着目して、人類学と考古学の最新成果から、これまでの
歴史観を覆すような事実が次々と紹介されてて、あらためて自分の無知を思い知りました


奥付

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初版から1ヶ月で3刷まで増刷されてますから、この分野の本としては驚異的ですね
わたくしも発行と同時に購入図書館予約してましたが約1年待ちでした


例によって目次のみ

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参考文献も含めると700頁ちかい大著で、本文も二段組の小さな文字がぎっしりと並び、
しかも図版は少なめで、長めのセンテンスがひたすら続いてました・・・


ともかく、まずは第1章の冒頭から要点などをメモ・・・
(著作物からの個人メモなので公開に問題があれば非公開設定にします)

・ルソーかホッブズかの二者択一を乗り越える過去数十年の研究結果からの反論が本書
→狩猟採集世界は平等な小集団ではなく大胆な社会的実験で政治形態のオンパレードだった
→農耕社会に私有財産や不平等はなく共同体の多くは身分やヒエラルキーから解放されていた
→世界最古の都市も多くは階級的区分を有さず強い平等主義で統治者や役人は必要なかった

・歴史に「傾向」はある(それに逆らう人も多い)が、「法則」はつくりあげられたもの

・ルソー、フクヤマ、ダイアモンド批判
→小規模集団が平等主義だった根拠も大規模集団には統治者や官僚が必要だった根拠もない
→事実を知らないで偏見を歴史の法則にしているだけ

・ネイティブアメリカン社会の共同体のきずなの強さ、相互のケア、愛、幸福・・・
→ヨーロッパ環境の安全な都市より人をワクワクさせるものだったからみんな逃げた
→矢を射られた時に深く気遣ってくれる人がいるという感覚も「安全」・・・


・・・と、確かに興味津々の内容でしたが、ここまでで本文の約1/600・・・

数十年に及ぶ研究成果ですが一般向けに書かれており、訳者も一般読者を対象に訳されてて
長いセンテンスでも読み込めば面白いのですが、この調子でメモしながら読みすすめると、
とても図書館の返却期限には間に合いそうにもなく、かといって買ってしまえば、今度は
いつでも読めるとなって「積ん読」になるのは必定・・・

つーことで、とりあえず・・・
飛ばし読みする中で(けっこうお茶目だった)各項目の見出し部分だけを要点メモ


第1章の
見出し要点メモ

・なぜホッブズ流とルソー流の人類史モデルが政治的に悲惨な意味合いを持つのか

・人類史の流れに関する一般的理解が間違っている簡潔な実例
(ジャン・ジャック・ルソー、フランシス・フクヤマ、ジャレド・ダイアモンド・・・)

・幸福の追求について
(アダム・スミス、アダム・ファーガソン、ジョン・ミラー、ルイス・ヘンリー・モーガン、
スティーヴン・ピンカー、ナポレオン・シャグノン・・・)

・なぜ従来の人類史の語り口は間違っているだけでなく必要以上に退屈であるのか

・これ以降の展開について


第2章の
見出し要点メモ

・ヨーロッパ中心主義に対する批判がどのように裏目に出て、先住民の思想家を
「操り人形」に仕立て上げてしまうのか

・ニューフランスの住民がヨーロッパからの侵略者をどうみていたのか、とりわけ寛大さ、
社交力、物質的な豊かさ、犯罪、刑罰、自由の問題をどうみていたが考察される

・ヨーロッパ人が(ネイティブ)アメリカンから理に適った討議、個人の自由、恣意的な権力の
拒否をどう学んだかが示される

・ウェンダットの哲学者・政治家カンディアロングが紹介され、彼の人間性や見解が、
どのように啓蒙時代ヨーロッパのサロンに影響したのかが説明される

・ARJテュルゴーの世界形成力が説明され、彼がどのように先住民による批判を覆し、
現代の社会進化論の基礎を築いたかが説明される

・ルソーはいかにして(懸賞論文で)人類の歴史を制覇するにいたったか

・先住民による批判と進歩の神話、左翼誕生の関係が考察される

・「愚かな未開人の神話」を超えて(これが本書に重要である理由)


第3章の
見出し要点メモ

・サイエンス・パラドクスが、なぜ煙幕であるか

・優れた研究者でさえ社会的不平等には起源があると考えてしまう理由

・氷河期社会の実態が従来の狩猟採集民イメージを覆していること、
3万年前の社会階層化の証拠とされるものの実態

・未開人には意識的思考ができないという先入観の排除、その思考の歴史的重要性

・人類学者ストロースはナンビクワラ族から首長の役割と社会生活の季節的変化について
何を学んだか

・氷河期とそれ以降の個人と季節的変異の証拠

・バッファロー警察(社会政治における季節性の役割)

・問題は「社会的不平等の起源」ではなく「どのように閉塞したのか」

・サピエンス(かしこい)であることの本当の意味


第4章の
見出し要点メモ

・人類は人口が増えれば増えるほど小規模で生活したことの説明

・平等主義的社会では何が平等の対象になるのかの問い

・マーシャル・サーリンズの「初源の豊かな社会」の検討
(証拠がない状態で先史時代について書くとどうなるか・・・)

・北アメリカと日本での古代狩猟採集民に関する新たな発見が社会進化を根底から覆す
(ルイジアナ州ポヴァティ・ポイント、三内丸山や100年周期で続く縄文遺跡)

・狩猟採集民は未熟で素朴という神話が、なぜ現代まで生き延びているか

・定住する狩猟採集民は例外という馬鹿げた議論を退ける

・ついに所有の問題が語られ、不可侵なるものとの関係が探求される


第5章の
見出し要点メモ

・はじめて文化的分化の問題が考察される

・文化圏という乱暴、不適切、攻撃的だが示唆に富む方法の考察

・モースの洞察が太平洋岸へ適用され、ゴールドシュタットが「プロテスタント的狩猟採集民」
と表現したことが不合理ではあるものの、いまだに何かを語りかける理由

「プロテスタント的狩猟採集民」と「漁夫王(フィッシャーキング)」の分裂生成の論証

・奴隷制と生産様式の一般的性質について

・他人を奴隷にして一獲千金を狙う危険性を説いた先住民族の説話
(と、「銃・病原菌・鉄」についての余談)

・魚を釣るのと、どんぐりを拾うのと、どっちがいいかな?

・太平洋破片地帯(シャッターゾーン)の培養/耕作

・いくつかの結論


第6章の見出し要点メモ

・プラトンの偏見が農耕発明についての考えを曇らせている

・世界最古の町チャタルホユックの歴史

・学術世界のちょっとした立入禁止区域のひとつ、新石器時代母権制の可能性

・世界で最も有名な新石器時代の町の生活

・初期農耕共同体における社会生活の季節性

・肥沃な三日月地帯の分解

・スローなコムギといかにして農耕民になったかの通俗理論

・新石器時代農耕の進化の遅さ、ルソーに反し畑の囲い込みをしなかった理由

・科学者である女性

・耕作すべきか、せざるべきか、それは単なる思い込み(ギョベクリ・テペ遺跡)

・意味論的な罠と形而上学的な蜃気楼


第7章の
見出し要点メモ

・家畜や農作物の世界的な移動を論じる際の用語法の問題

・なぜ農耕はもっと早く発達しなかったのか

・新石器時代の教訓話
中央ヨーロッパ最初の農耕民の悲惨かつ驚嘆すべき命運

・転換期のナイル川流域の転換とオセアニア島嶼部への植民

・アマゾニアの事例と遊戯農耕(プレイファーミング)の諸可能性について

・しかし、なぜそれが重要なのか(目的論的推論の危険性)


第8章の
見出し要点メモ

・悪名高きスケールの問題をはじめて取り上げる

・諸都市の背景の描写、初期都市誕生の推測

・メガサイト(巨大遺跡)とウクライナでの考古学的発見が都市起源に関する常識を覆す

・メソポタミア、それほど原始的でない民主制について

・インダス文明が王権以前のカーストであったか否か

・中国先史時代の明白な都市革命の事例


第9章の見出し要点メモ

・マヤ低地の外来王の例とティオティワカンとの関係

・ティオティワカンの人々はいかにしてモニュメント建設や人身御供に背を向けて、
かわりに社会住宅プロジェクトに乗り出したのか

・アステカ帝国に抵抗してスペイン侵略者と手を組むことにした共和制トラスカラの事例


第10章の
見出し要点メモ

・財産と権力を支配する3つの基本形態が提示され、人類史の探求に・・・
(ジェームス・ボンドは暴力(殺しのライセンス)、情報(秘密へのアクセス)、カリスマ性を
兼ね備えているが、前二者を支えているのは国家の官僚機構)
(カリスマ性は民主主義で相殺されると思っているが近代の
民主主義は大物の勝敗ゲーム)

・アステカ、インカ、マヤ(それからスペイン)について

・脱線して時のかたち、興亡のメタファー、政治的バイアス・・・

・スポーツとしての政治→オルメカの事例

・像(イメージ)に築かれた帝国?チャビン・デ・ワンタル

・国家なき主権(ナチェズの事例)

・古代エジプト起源時のケアリング労働、儀礼的殺害、小さな泡の集合
(農耕と儀礼→パンとビール→インカでは凍結乾燥ジャガイモとトウモロコシビール)

・中国からメソアメリカの初期国家の差異(共通点はない)

・支配3原則からのエジプト再考と暗黒時代の再検討

・官僚制の起源は以外にも小規模スケールで発見(シリアのテル・サビ・アルヤド遺跡)

・知識武装後の社会変化の基本的前提

・コーダ、文明、空虚な壁、歴史・・・


第11章の
見出し要点メモ

・ジェームズCスコットの過去5000年に関する議論、今のグローバル社会組織は必然的か

・北アメリカの統一されたクラン・システム、ホープウェル交流圏の役割

・アメリカ最初の国家になりそうなカホキアのストーリー

・ミシシッピ世界の崩壊、ヨーロッパ人が侵入した頃の新しい政治への端緒

・のちにモンテスキューが「法の精神」で称賛された自己構成原理を、オーセージ族は
どのようにして体現するようになったのか?

・カンディアロングの政治哲学の再考

(第12章は見出しなし)


ま、さすがに見出しメモだけでは飛ばし読みした内容を思い出せないので・・・

巻末の「訳者あとがきにかえて」にあった、訳者が各章のポイントとして紹介されてた部分のみ
(それでも40頁ほどありましたが)要点をメモしました

以下、例によって読み違いも多いので、興味を持たれた方は本書の熟読をお願いしますね
(こちらも著作物からの個人メモなので公開に問題があれば非公開設定にします)

「訳者あとがきにかえて」より各章のポイント

第1章
・本書全体の問題設定の提示
・人は20万年の人類の歴史を知らず、知らないという自覚もないので安易な物語で埋めてきた
→それはおよそルソー版とホッブズ版に分類できる
→小集団→農業革命→都市→文明→国家・・・
(文字文献、科学、哲学、家父長制、常備軍、大量殺戮、官僚制・・・)
→最近の考古学的・人類学的な発見から別の歴史を描き出す→(人類史の)幼年期の終わり


第2章
ルソーとホッブズに代表される神話の系譜(略)
・西洋思想と先住民による批判(とりわけイエズス会の書簡集全71巻から)
→西洋の競争、金銭に対する執着、ホームレス放置、同胞の見殺し、人の発言を遮る不作法、
弁舌の粗暴さ、女性の不自由、上に卑屈で下に厳しい態度・・・
→先住民の知識人たちから蔑むべき野蛮と批判されていた
→著者二人はこの「周縁化された知」を梃子に近代史・人類史全体にヴィジョンを拡大した


第3章
・最終氷期だった後期旧石器時代からの人類史の再検討
→ハラリ、ダイアモンドなどのビッグストーリー批判
→豪奢な埋葬やモニュメントとヒエラルキーは常時は存在しなかった(痕跡がない)
→多くが季節によってヒエラルキーを組織しては解体し複数の社会組織を往復していた
→かつての人類学者には自明だったこの事実が20世紀後半に失われ小集団で平等主義で孤立した
狩猟採集民のイメージが支配するようになった
→人類は初期より自覚的に社会を組み替える成熟した政治的アクターだったことが忘却された

・ワイアード誌ヴァージニア・ヘファーナンの書評より
→実際に先住民社会は複雑かつ変幻自在だった
→シャイアン族とラコタ族は警察部隊を組織し人々をバッファロー狩りに参加させていた
→ナチェズ族は出不精な独裁者を敬うふりをして自由に行動していた
→著者は巨大な遺跡や墓を階級制度の証拠とする通説にも見直しを迫った
(旧石器時代の墓の大半は有力者ではなく身体的異常を持つ異端者が埋葬されていた)
→人間は自然状態だったことなどなく皮肉屋で感覚的で内省的だった
→全人類に共通したプログラミングなど存在しない

・人類の社会的不平等の根源は何か、ではなく、人類はどのようにして停滞したのかの問い、
平等の喪失ではなく、自由の喪失の問いが本書の核心


第4章
・氷河期終了以降から農耕開始以前に世界各地で生まれた文化的組織法の検討
→前章の問いへの応答が開始される(どうして閉塞したのか)
→農耕開始以前の単純素朴な狩猟採集民というイメージを覆し、多様性に富んでいたことを
明らかにすることを目的にしている

・人類は時代とともに社会規模を大きくしていったという発展イメージの逆転
→長距離移動で離合集散を繰り返していた後期旧石器時代のコスモポリタン
→中石器時代から新石器時代にかけて独自の文化を形成し閉域としての社会を構成
(これが閉塞のひとつの条件→世界は狭くなったのだ!!!)
→環境や生産様式による決定ではなく、異なる価値、異なるモラルを自覚的に発展させる
政治や選択の意志の作動

・平等概念の系譜
→先住民は財産の平等については問題にしておらず相互扶助と個人の自由の発展をはばむ
ヨーロッパ社会を批判していた
→かれらには財産の多寡が権力の多寡に転換する事態は考えられなかった
→平等主義的社会の実質は自由社会であり構成員が自由民であることの確認
→狩猟採集民の社会組織の多様性(余剰生産、植物栽培を拒絶して余暇を選ぶにせよ多様性)
→フロリダのカルーサ族(王のヒエラルキーを保持)、北アメリカのポヴァティ・ポイント、
日本の三内丸山遺跡、ヨーロッパの複数モニュメント遺跡・・・
→いずれも単純素朴な非農耕民という神話を覆しアーケイック期や縄文時代という長期にわたる
「なめらかな平面」時代区分の見直しをせまる遺跡

・私的所有
→所有を知らない
単純素朴な狩猟採集民といったイメージを覆すための複雑な私的所有の分析
→大半は「儀礼の檻」によって一部領域に封じられ、権力との結びつきを阻止されている
→奴隷所有に密着する古代ローマ由来の所有権観念は、人類史上では異例中の異例とする


第5章
・「なめらかな平面」から諸文化、諸社会への分化のプロセスとダイナミズム
→北アメリカ西海岸の北西文化圏とカリフォルニア文化圏の相互作用をめぐる分析(人類学)
→地理的な同一化と反同一化の運動、支配の拒絶に関わる運動・・・略
→ヒエラルキーや戦争、農耕の否定、エコロジー意識・・・略


第6章
・人類と農耕、定住しながら「コムギの奴隷」を拒絶したことを論じた章
→更新世から完新世へとステージが移行し農耕の起源にまつわる考察が展開される
→シリアスではない農耕、祝祭的雰囲気(遊戯性)、ジェンダー・・・
→「農業革命」のイメージを転覆させる諸要素が集約されている

・野生穀物の栽培開始から栽培化課程完了までの3000年のギャップ
(本来なら手をかけなくても数世代で完了する→実験考古学の成果)
コムギの奴隷になることを拒絶し、付き合い、戯れ、イノベーションを積み重ねていた

・狩猟採集から農耕への移行を表現している新石器時代の町チャタルホユック
→シリアスではない農耕(氾濫農耕)、季節性、女性の優位性・・・

・「農業革命」→私有財産の誕生、不平等へのステップとされるが・・・
→革命より長期で多発的で最初の農業共同体の多くは身分やヒエラルキーから解放されていた
→コムギ、コメ、トウモロコシなどの知識は当初、儀礼的な遊戯農耕によって維持されていた
→新石器時代の革新の殆どは女性により何世紀にもわたって蓄積されてきた知識の集合体
→地味だが重要な発見が延々と繰り返されていた


第7章
・遊戯農耕のシリアス農耕への転化は直線的な発展段階ではなく、家畜化・栽培化の拡大も
一様のプロセスをたどっていないことを複数の領域で確認する章→
シリアス農耕の多様性
→農業による食糧生産から国家への道も直線ではなかった
(肥沃な三日月地帯の「国家のようなもの」はたまたまで、農耕が必然的に伝播するイメージは、
ヨーロッパによる植民地化経験イメージの過去への投影にすぎない)
→シリアスな農耕はニッチで貧しい地域で生まれ発達した
→恵まれた地域は遊戯農耕を実践した→エコロジカルな柔軟性
→アマゾニアの事例は数千年にわたりその境界線を保持していた→人間と非人間の相互作用
(恵まれた狩猟採集民にとっては、まさに「趣味の園芸」だったんですね!!!)


第8章
・初期都市論
→ウクライナ、メソポタミア、インダス、中国の初期都市の検討
→社会規模が大きくなれば命令権力でしかまとまらないのか?
→ウクライナとモルドバの遺跡の例
→メソポタミア最古の都市より古くて規模が大きく8世紀あまり人が居住していた
→集権的統治の痕跡もヒエラルキーの痕跡もなかった
→同様の都市をメソポタミア、
インダス、中国にも見いだしていく・・・

・殷の時代以前の晋南盆地の陶寺遺跡
→都市の拡大とともに階級的分化とヒエラルキー拡大の証拠がみられる
→拡大が数世紀続いたのちに無政府状態となったが、その後も数世紀にわたり
都市自体は拡大している
→これは階級制度の廃棄(社会革命)で繁栄した世界初の記録証拠ではないか
→自覚的な社会実験の場と転じた世界最古の都市の事例ではないか
→通常イメージする時間の進展を逆転させる「都市革命」のヴィジョン・・・


第9章
・メソアメリカの政治的都市革命
→ティオティワカンも当初は都市の膨張とともにモニュメント建設など近隣のマヤ都市国家と
同様の戦士貴族文明をめざしていたようにみえた
→ところが3世紀後に神殿やモニュメント建設をやめ民衆のための集合住宅建設をはじめた
→多元的多言語都市として発展し集権制やヒエラルキーとは異なる異質な文化芸術に
→奴隷や貴族賛美が排除され共同体全体が重視された→集団的ガバナンス
→コルテスに協力したアステカの都市トラスカラの都市評議会の例(略)


第10章
・理論的総括といったおもむきの章で国家という概念をお払い箱にしようという野心的な章
→「所与の領域内で合法的な強制力の使用を独占することを主張する機関」としての国家
→この概念には近代的国民国家のみが該当する
→人類史にも適用されると、どの社会を国家とするのか見えなくなる
→さらに社会の複雑化と国家形成の連動には進化論的な含みもひそんでいる
→進化論的な国家以外にも様々な社会があったことは前章までで見てきた
→国家は現実を見えなくする概念なので国家を3つの原理に分解して
考察

・社会的権力の基盤となる3つの原理→暴力、情報(知)、カリスマ
→近代国家では主権、行政装置、選挙制度だが人類史において近代国家はひな型にならない
→国家の起源の問いにかえて
3つの要素の編成と支配の構造を考察
(メソアメリカ、南アメリカ、ナチェズ族、エジプトなどの事例から→略)
→殆どの社会組織は
3つの要素の1つないし複数を編成している(近代国家は3つすべて)
→国家の手前の3つの要素で各社会組織を考察

・強力な王権、行政機構があったとしても「国家が存在しないという感覚」が必要
→クレタ島ミノア文明の相互扶助、社会的協働、市民的活動、歓待、他者ケアリング
→世界史の軌道を外れているが文明という視点で照射すれば生き生きとあらわれる
考古学はサウジアラビアやペルーの砂漠、カザフスタンの大草原、アマゾンの熱帯林でも
このような「失われた文明」の証拠を今後も次々と発見していく
→それらに現代的国民国家イメージを投影するのではなく、それらが語る別の種類の社会的
可能性を考察しなければならない


第11章
・西暦200年~1600年あたりの北アメリカ史(東部ウッドランド文化)を通覧して、
国家あるいは帝国への展開と突然の(自然災害と絡み合った)拒絶をみるという構成

・第4章で既述のポヴァティ・ポイント、ホープウェル文化圏、カホキア国家の発展と解体、
多数の小王制から世襲原則を拒絶する部族的共和政体へ・・・(略)
カホキアのような国家に引き返すことを拒絶し、独特の合意形成システムを構築して、
(それはモンテスキューを介して近代民主制に流れ込んでいるかも知れないのだ)
独特の反権威主義的哲学を発展させた

・なのでイエズス会などヨーロッパ人が新世界で遭遇したカンディアロングたち「未開人」は、
ヨーロッパのような富と暴力の文明をすでに熟知し拒絶して別の文明を構築しようとしていた


第12章
・本書の重要な論点が異なる観点から再論され、新しい情報で肉付けされた章
→著者2人のいう「3つの基本的自由」を捉え返す
(①移動し離脱する自由、②服従しない自由、③社会的関係を組み替える自由)
→ケアと暴力の結びつきが閉塞の主要な要因であるとする仮説
→慈善空間、保護と閉鎖、家父長制の形成、北西海岸の奴隷制、古代メソポタミア、古代エジプト


(以下も「訳者あとがきにかえて」からのランダムなメモです)

・本書はルソー=ホッブス的パラダイム(戦争と侵略、搾取、家父長制、供犠、モニュメント、
物質的繁栄、必然的歴史意識などの系列からなる文明観)に対立する、より基盤的な文明の
系列を浮上させることに成功した

・「文明(ラテン語のcivilis)という言葉は自発的連合による組織化を可能にする政治的知恵や
相互扶助のもつ諸性質を意味している」

・「文明とは本来インカの廷臣や殷の王朝ではなく、アンデスのアイリュ連合やバスクの村落が
示すような
諸性質の類型を意味していたのである」

・「相互扶助、社会的協働、市民的活動、歓待(ホスピタリティ)、あるいは単なる他者への
ケアリングなどが文明を形成していたのだとすれば、文明史の叙述は始まったばかりなのだ」

・「英語の自由freedomは、friendを意味するゲルマン系の語源に由来する」
→友をつくる、約束を守る、平等な共同体で生きることを意味していた
→社会的紐帯を形成できない奴隷であることと対立する概念

・友情は
3つの基本的自由のうち③社会的関係を組み替える自由にあたる
→①離脱する自由、②服従しない自由が微弱なら、変革もできず社会は閉塞する
→離脱できず服従を余儀なくされる社会では友情も成立せず孤立する

・最近の日本社会の「孤独礼賛」風潮は、自由の喪失と関係しているのではないか
→つらい職場でも辞められないのは離脱すれば生活に困るから
→嫌なことにも逆らえず社会変革も思えなくなる社会は閉塞していく

・世界最初の都市住民が環境や同胞に負荷を与えていたわけではないこと、
地球の未来を選挙政治にゆだねなければならない「歴史の法則」などないこと、
移民が歓待の危機と直結する必然性などないことは、新しい人類史からわかってきている

・本書は対話を呼びかける招待状だと思いたい
→地球温暖化から地球沸騰化のステージに移行して破局の時代に突入したが、
→破局のときは長期の閉塞を打ち破るカイロスのときでもある
→このチャンスをつかむ招待状を(日本語に直したので)受け取ってほしい・・・


まさに目からウロコの本だったので特に人類史・文明史に興味のない方にもオススメします






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2024年10月08日

皇紀3千年「実論夢想」

とーとつですが本日・・・

わたくしも手伝っていた海外植林ボランティア団体N.GKS(もと緑の協力隊・関西澤井隊)の
澤井代表に関する2冊目の本が、3年前の「アッと驚く! 90歳」に続いて出版されました
(N.GKS
関係者には、いずれ郵送などで届くはずです)


皇紀3千年(西暦2340年)「実論夢想」

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表紙カバーは1993年シリア・パルミナ遺跡にて



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裏表紙カバーは冬の大三角形とオリオン座・・・眼下蒼天


奥付

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産経新聞生活情報センター 2024年10月8日 第1刷発行


著者紹介

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共著になってますが「アッと驚く! 90歳」の著者である藤本氏が、前後足掛け5年間にわたり、
ほぼ月2回のペースで行った澤井代表へのインタビューと、澤井代表が保管している膨大な
過去資料から、歴史事実や澤井代表の生き方や考え方を引用しつつ、日本や世界の現状分析と
今後300年にわたる将来展望について、分かりやすくまとめられた本であります

1931年生まれの澤井代表にとって、紀元といえばキリスト紀元ではなく神武紀元(皇紀)であり、
子どもの頃に迎えた紀元2600年(1940年)の300年前の日本は江戸時代前期、その頃の人たちの
何人が300年後の日本を想像できたであろうか、今の政治家はじめ何人が300年後へのビジョンを
持っているのか、自分は300年後の皇紀3000年に向けて実論による夢想を藤本氏に語ったと・・・

膨大な資料をアナログ整理して保存、それらに関する記憶が90歳を超えても正確に残っていて、
それを最新の日本や世界の情勢と結びつけて主張する澤井代表も凄いですが、5年間にわたる
インタビューの膨大なメモを整理して資料と照合のうえ、それらを引用して最終的に自分の
文章としてまとめ上げた藤本氏の聞き手としての能力も筆力も凄いと感心しました


例によって目次の紹介

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特に地熱発電についての現状、
商業ベースに乗る熱源の資源量(2300万kw)は世界3位なのに
発電設備が世界10位(49万kw)まで落ちたのは、
目先の利益追求という浅はかな企業論理とか、
政府支援の打ち切り(1990年代)とか、温泉街の反対とか国立公園内は許可されないからとか、
業務スーパー創業者の熱意などについても知らないことも多く目からウロコでした
(ちなみに日本の電力消費は1億~1億4000万kw/h程度なので、商業ベースだけで考えても
1/4から1/6程度は地熱発電で賄えることになりますね)

確かに地熱発電なら、火山国では資源は無尽蔵タダでCO2も核廃棄物も出さず、大規模な
太陽光や風力、水力、大規模バイオマスのような環境破壊もなく天候にも左右されず24時間
365日稼働可能な純国産エネルギーですね



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どの項目にも出版直前までの最新情報による、現在の最先端技術や混迷する世界の現状が
紹介されており、それを澤井代表が半世紀以上も前から予測し警告していたという事実を、
当時の澤井代表が書いた文章などから発見し、そのことに何度も驚嘆したと、藤本氏が書いて
おられましたが、あちこちにハナシが跳ぶインタビューから、それらを見つけ出す藤本氏の
聞き手としての能力に、むしろわたくしは驚嘆しました

当ブログサイト書斎カテゴリで紹介しているような歴史や環境や最新科学に関する書籍も、
多くを精読されておられるようで、それぞれの著者とは、おそらく意見は異なるのでしょうが、
まさに幅広い最新知識があってこその労作ですね
さすがはベテラン手練れのもと新聞記者であります

とても内容すべては紹介できませんし澤井代表や藤本氏の主張についても、見方によっては
異論もあるでしょうが、特に林業・林政や教育・環境については100年先200年先を見越した
ビジョンが必要なことは間違いありません

ここでは末尾にあった写真資料のうち海外植林ボランティアに関する部分のみ新聞記事を
中心に、ランダムに一部を紹介させていただきます
(出版物の添付資料なので公開に問題があるようなら非公開設定にします)

PA037409

2012年、N.GKS第16次隊(ボルネオ)に関する毎日新聞の記事


PA087425

2018年、N.GKS最後となった第23次隊(内モンゴル)に関する読売新聞の記事




PA037411

2011年、東日本大震災支援へのお礼も込めた第15次隊(モンゴル)などの植林活動に対し、
モンゴル特命全権大使から感謝状を受けたことを伝える京都新聞の記事




PA037412

2013年、第18次隊(ボルネオ)に関する産経新聞の記事




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故・遠山正瑛翁とのツーショット(内モンゴル・クブチ沙漠・恩格貝にて)




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2010年、第14次隊(内モンゴル)に関する京都新聞の記事




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2009年、第12次隊(ブラジル・アマゾン)に関する現地サンパウロ新聞の記事




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2015年、澤井代表自分史の自費出版を伝える京都新聞の記事



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上から順に、
1990年、中国・内モンゴル自治区・クブチ沙漠・恩格貝の様子、
1999年、N.GKS第1次隊による
クブチ沙漠での最初の植林作業の様子、
2018年、最後となった第23次隊での
クブチ沙漠・恩格貝の様子


まあ、「最後となった」とは書いたものの・・・

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当時、城南新報で紹介されてた帰国報告ではラスト宣言を撤回して、
「3~5年後には植えた1000本のナツメが実るので車椅子に乗ってでも食べに行きたい」
と答えておられますが・・・

ともかく93歳になった現在も(足腰が弱り介護施設のお世話になっているものの)頭はますます
冴えわたっているとのことでした

98歳まで日本と中国を月に何度も往復されてて大往生された
故・遠山正瑛翁に負けないよう、
今後もできる範囲で大いに活躍してほしいものです



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2024年09月29日

オランウータン~森のさとりびと~

ええ、

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オランウータン~森のさとりびと~とゆー写真集であります



裏表紙

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著者・撮影者の紹介

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奥付

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写真集なので作品画像は紹介できませんが、撮影地はボルネオ島南部(インドネシア領)
タンジュンプティン国立公園、ここでは1971年にカナダ人ビルーテ・ガルティカス博士が、
オランウータンの生態研究・リハビリ施設「キャンプリーキー」を開設したそうです

以下、写真の解説文からランダムに、いくつかメモしておきます

・大型類人猿4種のうちゴリラ・チンパンジー・ボノボはアフリカ、オランウータンだけが
東南アジアに生息している

・ボルネオ島のボルネオ・オランウータン、スマトラ島のスマトラ・オランウータンと
タパヌリ・オランウータンの3種に分類される

・家族で暮らすゴリラや、群れで暮らすチンパンジーと異なり、基本的に単独で生きるが、
子どもや若者は集まったりもする

・大人同士あまり交流はないものの、どこに誰がいるかはわかっているといわれている

・強いオスにだけフランジが現れるが、メカニズムはまだ解明されていない

・見つめるとニホンザルなどは怒りだすが、大型類人猿は穏やかに見つめ返してくれる
言葉を話さなくても気持ちのやり取りができる気がする
(穏やかに撮影者を見つめる写真作品群が素晴らしかったです)

・計7万頭前後が生息するとされるが、100年前の1/5に減ったといわれている
→原因は密猟・人為的な森林火災・熱帯雨林の伐採など

・ボルネオ島ではこの数十年アブラヤシ農園の開発で
熱帯雨林の伐採が加速している
→アブラヤシから作られるパーム油は世界で最も多く使われる植物油

・保護活動が活発になっているのは頼もしいが、これまでのダメージはあまりに大きい

熱帯雨林はオランウータンだけでなく他の動植物や人間にとっても貴重で大切な自然
→取り返しのつかないことになったら未来に生きる子どもたちに何と言い訳をすればよいのか

・人に類する猿→長い進化の歴史を人間と共有してきた親類
→島の民は愛情と畏敬の念をいだいて、彼らを「森の人」と呼ぶ・・・



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2024年09月21日

地図リテラシー入門

ええ、


P9127286

地図リテラシー入門・・・
~地図の正しい読み方・描き方がわかる
騙されない・読み間違えないために、地図を扱うすべての人に必須の知識~
とゆー本のご紹介であります



表紙カバー裏にあった惹句

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裏表紙カバー裏にあった著者紹介

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奥付

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著者の地理学・地図学への愛情、GIS(地理情報システム)への思い入れがひしひしと伝わる、
(おそらく強い危機感を持って)高校生にも分かるように書かれた入門書であります

図版も多くて分かりやすく(やはり地図があると視覚的に理解できますね)、地図を読むのも
好きなわたくしにも知らなかったことが多く、じつに好書でした


例によって目次のみの紹介

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以下、数学的な部分は読み飛ばして読み違いも多いであろう読後メモです
(著作物からの個人メモなので公開に問題があれば非公開設定にします)


第1章より
・情報の5W3H
①いつwhen②どこwhere③だれwho④なにwhat⑤なぜwhy⑥どのようにhow
⑦どのくらいhow much⑧how many
→このうち、
②どこwhereの情報を示したものが地図

・一般図と主題図(略)
→国土地理院1/25000「地形図」は固有名詞(情報が地形だけではないので一般図)

・地図も楽譜も見るものではなく読む(読み込む)もの→読図
→(例として)勾配10%は分度器では僅か5.7度、勾配100%でも45度
→分度器の数値感覚より実際には急坂(であることを地図から読み込めるか)


第2章より
・(ミサイル弾道などの)マスメディア報道もインターネット上の指摘も間違いだらけ(略)
→殆どがグーグルマップ(メルカトル図法)に準拠して主題図にも多用している
(グーグルマップは2018年から宇宙から見た外射図法にも切り替えられるようになった)

・地図に間引き・誇張・省略・ずらしがあるのは本来だが、結論を伝える主題図では、
作り手の結論ありきの地図や知識不足で間違った方法による地図も多い


第3章より
・主題図の種類(略)→位置図、概観図、索引図・・・
→国ごとの宗教分布を示すような定性図(面の場合は塗り分け図とも)
→都道府県ごとの人口、人口密度のような階級区分図(コロプレス図)
→ほかにドット、バー、積み上げ、比例記号、パイ、階級記号、流線、メッシュ、等値線、
段彩図、変形地図、絵地図、カラム地図、分布図、統計地図などなど・・・(略)


・色の色相・彩度・明度、光のRGB、インクのCMYK(シアン・マゼンタ・黄・黒)・・・
→例として災害危険度を示すのは青→黄→赤だが、水害(浸水)危険度は自治体で異なる
(濃い青ほど危険度が高い(深い)とか)

・巡回セールスマン問題と地理情報システムGIS
(略)


第4章より

・地図上の現象と事象、地物(フィーチャ)と地貌(自然現象)、属性、注記・・・

・地図の端と論議領域
(略)
→一枚もの地図がmapで、地図帳はatlas
(1570年に出版された
世界初の地図帳名が由来で名付け親はメルカトル)

・方位
→昔の方位は十二支だったので今も南北を子午線、東西を卯酉(ぼうゆう)線としている
→日本の方位記号の「4」部分は磁気偏角を示すという解説があるが根拠はない

・縮尺(スケール)の正しい表現→「縮尺が大きい小さい」だけでは混乱する
→縮尺値が小さい地図=縮尺分母が大きい地図(日本全図とか世界地図とか)のこと
→縮尺値が大きい地図=縮尺分母が小さい地図(地形図とか詳細図とか)のこと

・メルカトル図法で縮尺や南北方位を表示するなど間違った表示の地図も多い
(縮尺記号は赤道上のみ、南北方位記号は(日本なら)東経135度上のみで正しい)

・真北と磁北と方眼北(横軸法を除く円筒図法のみ真北と一致するので補正している)
(北極星は遠いのでどこから見ても北)

・自分で回せる地図は北が上でいいが街区や壁面の案内図は常に向かった方角が上にあるべき
→北が上の案内図で周辺が理解できないのは読み手の知識不足ではなく作り手の知識不足

(これは実際に数多くあって、自分が案内図と向っている方向を頭の中で上に回転してから、
目的方向に向かおうとするのですが、確かに難しいです
まあ北が上なら現在地表示さえ別々に追加すれば、同じ地図が全ての場所で使えるので、
安上りなんでしょうがやはり不親切、作り手の知識不足とも知ってやや納得しましたが)

・カーナビではどちらも選べるが正解はない
→交差点を右に曲がると考えるか東に曲がると考えるかの違い
→初期設定は進行方向を上にしたヘディングアップ表示で、これが多数派だけど、
→国土地理院の人はレンタカーを運転する際に北を上にした
ノースアップ表示に切り替えてた


(ルート全体を把握するなら位置関係のわかりやすいノースアップ、案内モードなら交差点を

どちらに曲がるかが分かりやすいヘディングアップとか・・・)


(そーいやアボリジニ語には左右に該当する単語がなく常に正確な方位で表現するとあったし、
ヒトにも体内磁石が備わっていることが実験で証明されたとテレビ番組でやってましたね)

・地理院地図Globe、Google Earth、カシミール3Dのような無料3D地図
(略)
(国土地理院1/25000も2013年から「ぼかし図」になって等高線だけより直感的に立体把握が
できるようになったが、北西方向(図の左上)から太陽があたっている前提の陰影なので、
地図を180度回転させると地形の凹凸を逆に認識してしまうことがあるので注意が必要)

・ケバ図、赤色立体地図、CS立体図・・・
(略)

・日本地図の同縮尺分割表示では離島が省略される→部分拡大や文字注記で調整している
→日本の領土・領海・排他的経済水域を示す一般図ではすべての島嶼部が表示されるべきだが、
→主題図では、例えば国勢調査であれば無人離島を除外しても支障はないなど・・・
→ただし離島は意図せず書き忘れたり、位置関係がおかしかったりするので常に意識すること


第5章より
・地球は完全な球体ではなく自転の遠心力で赤道付近が膨らんだミカンのかたち
→グーグルマップはWGS84楕円体を採用しているが真球とみなして地図を表示している
→そのことを知らず絶対的な位置を表示すると本来の位置より大きくずれてしまう

・地球が丸いことは知っていても世界も丸いことは実感されていない
→メルカトル図法での世界地図はあり得ないのに殆どの人がこれで世界を想像しているから
(東京モスクワより東京キャンベラのほうが遠いのにメルカトル図法では逆に見えるなど)

・地球上の直線と平面の直線は異なるが同じとみなしている

・緯度と経度の初歩的な求め方とか
(略)
(東経135度は天文経度なのでGPSからの地理経度とは異なるなど)

・地図投影法の仕組み
(略)
(陸上自衛隊の地形図には距離や面積が計算しやすい横メルカトル図法の投影座標と格子がある)
→地図の面積・角度・距離・方位のうちどれを正確さが必要な要素とするか
→東京から東の方位先はチリだが、メルカトル図法の東(方眼東)先はアメリカ合衆国
→方位は始点から目的地に向いた時の基準方向(真北)に対する角の大きさで、その角度が方位角
→大人が浜から見える水平線は約4.6kmで、ほんの僅かしか見渡せない

・標高、海抜、ジオイド高
(略)

・2000年代までのアメリカ国防総省GPS(Grobal Positioning System)以外にも2010年代から
各国で衛星測位システムが実用化されたので、現在の教科書ではGNSS(
Grobal Navigation
Satelite System)と説明されている→衛星測位(衛星航法)システム

・政府や自治体の地図や基準点は法令により2002年からの世界測地系に移行しているが、
大手地図会社でも今も日本測地系の地図が出てるので、4~500mズレてたら測地系の違い

・エベレスト山頂とチャレンジャー海淵の最深部では約20kmの高低差があるがビーチボール大
(半径40cm)の大地球儀で表現しても、その差はわずか1.25mm→見ても分からない
→なので鳥瞰図や断面図では高さが強調される

・日本の範囲に適した地図投影法(略)
→メルカトル図法では札幌での面積は那覇での同面積の1.23倍になり誤差とは言えないレベル
→主題図の日本全図に絶対に使ってはいけない図法(都道府県など狭い範囲なら誤差レベル)
→東経135度を中央子午線とした横メルカトル図法なら距離・面積・方位はほぼ正しいが、
正しいと見なせる経度の範囲が限られ中央子午線の異なる隣同士は正しくつながらない

・中央子午線の値を60(3度)の帯に分け体系化したのが
横メルカトル図法のUTM座標系
→ユニバーサル企画の座標系で国土地理院の地形図にも使われている
(日本は東西に第51帯から第55帯の範囲)
→1/10000ぐらいまでならほぼ問題ないが大縮尺になると歪みが大きい
→地積測量図1/250のような大縮尺では平面直角座標系も定義されて使われている


第6章より
・電子地図アプリなどの仕組みが地理情報システムGIS(Geographic Infomation System) 
 
・GISの歴史
→1953年、米空軍がレーダー識別する対話型CG地図の半自動防空管制組織SAGEを開発
→1959年、大学生だったトブラーがコンピュータによる地図作成(XYプロッター)論文を提出
→1962年、トムリンソンが森林の電子地図管理システムCGISをカナダ農林省に提案
(これが今のGISの由来でありトムリンソンはGISの父とされている)
→1963年、フィッシャーがSYMAPを開発
→1969年、デンジャモンドとローラ夫人がEsriを設立
(今も世界シェアトップの企業)
→1982年、Esriが世界初の商用GISであるARC/INFOを販売
→2001年、ハンケがKeyholeEarth技術を開発
→2003年、ハンケがWhere2Technologies技術を開発
→2004年、どちらもGoogleが買収(ハンケも
Googleに)
→2005年、それぞれの技術から
GoogleMapとGoogleEarthが登場
(ハンケは位置情報ゲームIngressをリリースし2015年に独立してPokemon GOをリリース)

・日本では1970年に大阪で天六ガス爆発事故があり地図の自動図化と施設管理が重要課題に
→大阪ガスや東京ガスなどが官民取り組みでシステム開発へ
→1995年の阪神・淡路大震災が日本のGIS発展の契機といわれている
→GISの有効性が証明されたが初動から活用できなかったので産官学連携のGIS政策研究へ
→2007年に地理空間情報活用推進基本法が施行(通称は
NSDI(国家空間データ基盤)法)
→行政機関の地図データなどの無償サービスも準天頂衛星の稼働もこの法律によるもの
(NSDI法はクリントン政権の事業で1990年代前半から、日本マクドナルドは1996年から
独自のMcGIS商圏分析システムを運用して出店している)

・2005年のGoogleマップで電子地図の普及が加速した
(国土地理院のウェブマップは2003年からで
Googleマップより2年も早かった!!!)

・地図情報(空間情報)は医学にも
→1854年、ロンドンの医師ジョン・スノウによるコレラ感染者の地図上の可視化
→コレラ菌の発見以前に汚染水と感染の因果関係を突き止めた
→1955年と1960年に日本の医師・萩野昇がイタイイタイ病患者の分布図を作成して、
原因が神通川上流からもたらされる鉱毒であることを突き止めた
→2020年からのコロナ禍ではウェブマップとグラフなどを組み合わせたダッシュボードが
活用されている

・電子地図に縮尺の概念はない
→拡大縮小ができるから→ただし見た目とデータは別

・縮尺より精度が重要
→誤差は必ず含まれる(誤差のないデータ作成は現実的ではない)
→国土地理院の地形図の登山道データは民間アプリより古くなりがち
→近年は登山者の地図アプリ移動履歴からビッグデータ解析で修正する取り組みも・・・

・電子地図の仕組み
(略)

・衛星「画像」と航空「写真」
→衛星から撮像された「絵」は衛星写真ではなく衛星画像が正しい
→英単語でもsatelite photographyではなく
satelite imagery
→衛星画像は見えない情報も取得してるので写真では狭いのに誤訳されることも多い
→ところが今は同じ原理で撮影される航空機からの画像は伝統的に現在も航空写真のまま
→英単語もaerial photographyのまま

(ちなみにわたくし98kは撮影して紙にプリントされた静止画を写真、画面表示された静止画を
画像と当ブログ上では区別してきたつもりです
静止画も動画もデジタル撮影(撮像)になった現在でも、モニターに表示された静止画像を
写真と呼ぶのには、まだ抵抗があるのですが・・・
でも素晴らしい静止画像は写真作品と呼びたい気持ちもあって複雑な心境が続いてます)

・ヌル島Null Island
→GIS初心者のミスにより緯度経度ゼロ付近に現れる島で日本人が操作すると日本列島、
都道府県、市町村に似た形の島が現れることが多い(地理座標を投影座標と誤って設定している)

・月も緯度の基準は赤道から、経度0は地球を向いている面の中心と決められている
→火星の経度0(本初子午線)はエアリー0クレーターの中心を通る経線と定められている

・GISにより特に主題図は専門の地図調製業でなくても手軽に作製できるようになった
→普及は喜ばしいことだが弊害として読み手が困惑するような地図が増えた
→高校や大学で地図を学ぶ機会が減り、誤りを見抜く力も養えなくなった
→作り手に都合のよい方向に誘導するように意図的に作られた地図も多い
→読み手にも誤りや意図的な誘導を見抜く地図リテラシーが必要

・GISソフトの課題としては誰でも直感的に扱える操作性が望まれる

・簡単なことを難しく説明するのは簡単で、難しいことを簡単に説明するのは難しい
→さらに、難しいことを簡単に「正しく」説明するのはもっと難しい
→でも安易に置き換えられた言葉は誤解を重ねて伝わっていく
→見聞きした地図用語も本書の索引や参考文献で調べてみて欲しい
→知識の「点」が、理解という「線」でつながるはず・・・

・デジタルマッピングなどGISで「意思決定を支援するという地理学の目的」が効率的になった
→CADもBIM,CIM,PIMと進化させ標準化することが検討されている
→リアルワールドとサイバースペースをシームレスに往復できる考え方がデジタルツイン、
構築された仮想世界がミラーワールド
→ミラーワールドにふさわしい電子国土の構築・・・

・1999年の映画マトリックスのような仮想空間はSFでは登場していたがGISの進化で実用化に
→データの精度が高ければ1/1の電子地図も表現できるようになった

・(GISのような)以前からの考え方や技術を新しい言葉として定義することは誤解も招くが、
マイナーだった分野に関心を集める呼び水になるのも事実
→GISは半世紀以上もマイナーで知名度の低い言葉のままだったが、
→別の呼ばれ方や新しい言葉として、今は多くの人に活用されている・・・


おわりにより
・2019年、2022年からの高校「地理総合」必修化の形骸化を危惧されてた木村圭司教授
との雑談の中で地理の一般書を企画、中でも関心を寄せやすい地図を取り上げた
→一般に地理は歴史より読者層が薄いが地図だと一変する
→地図に歴史と同様のロマンを感じる人が多いのだろう(わたくし98kもです)
→本書の内容は地図学だが活躍している実務分野はほとんど知られていない

・メディアには多くの誤った地図が見られ、その誤りが他のメディアで指摘されることもない
→筆者は教諭でも研究者でもないが、地図リテラシー不足を目のあたりにしてきた
→日本ではサービスはタダで地理学で高い収入は得られない
(海外では相応の対価で組織部門を統括する地理空間情報担当GIOの役職もある)

・高校での半世紀ぶりの地理必修の復活(~2022)
→社会への浸透には長い年月が必要で教育者への浸透も必要なので本書を執筆した

・哲学者カントの言葉「地理学は諸科学の母」
(地理学は系統地理学、地誌学、地理学史、地図学に分類される)
→地理は国語・数学・理科・社会・外国語・情報すべての「どこ」を説明する教科であり、
地図リテラシーは社会で役立つ教養・・・




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2024年09月17日

世界の終わり防衛マニュアル図鑑

ええ、防災週間は9月5日で終わりましたが・・・


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世界の終わり防衛マニュアル図鑑 APOCALYPSE READY
~自然災害・核戦争・宇宙人侵略に備えた各国の啓発資料集~であります




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惹句には「プロパガンダ・アートとしての防災・防衛資料の変遷」とありますが、
まえがきによれば「
第一次情報化時代に政府が発した様々なアドバイスの記録」・・・

ま、戦前から冷戦時代を中心にした各国政府の防災・防衛に関するポスターや図解マニュアル
などの紹介とその解説です


著者紹介

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奥付

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例によって目次のみ

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各国の①パンデミック②自然災害③核戦争④宇宙人の侵略に備えるための啓発ポスター、
パンフレット、ハンドブックなどの図版とその解説で、国や政権や時代による違いなど、
今では稀少な(きわめてマニアックな)資料の集大成で、なかなか興味深く眺めました

さすがに本編紹介はできませんので「はじめに」と自然災害に関する解説の一部のみメモ・・・

(はじめにより)

・本書は第一次情報化時代に政府が発した様々なアドバイスの記録
→この記録は情報媒体を駆使して、思いもよらぬ事態に直面する社会を助けようと、
人類が全力を尽くした証しでもある

・生命や財産を脅かす危険性について人々に周知させる方法(英国の洪水警報研究結果より)
→はっきりと断定的な主張や声明ではなく、むしろ不確かな雰囲気を醸成する資料を配布して、
人々の疑問に対してシンプルな答えを提供すること
→不安が醸成されると自分たちでリスクについて学び、家族や友人、近隣の人と話し合う
ようになり、それが社会全体としての危機への備えや意識の向上、情報の周知につながる

・起こりうる結果を踏まえたメッセージを発信する
→竜巻の可能性メッセージだけでなく先の結果(地下室に入らないと死ぬ確率とか)も示すと、
命を守る行動をとる可能性が高まることが研究で明らかになっている

・政府が作る広報はすべてプロパガンダとも見なせ、防災ガイド作成自体が政治行動になる
→危機の際にも政府がコントロールできるという、国家としての強さの証明
(現時点で、そんな強い国民国家が(我が国も含め)どれだけ存在するのか・・・)

・ピンポイントに絞ったガイドは関係者の考えが反映されるが社会全体の対応能力が低下する
→20世紀の防災ガイドは英語を話し郊外に住む白人中流階級家庭に焦点をあてたもの
→庭に核シェルターを作れ→高層マンションやトレーラーハウスの住人は?


②自然災害の「大地が動くとき」では、日本のパンフレットが詳しく紹介されてましたが、
「自然の中で生き残る」の解説より一部をメモ・・・

・サバイバル好きといってもベア・グリルスの視聴者からボーイスカウト、大災害に備える
「クレッパー」まで様々なレベルがあるが、少しの技術や知識が生死を分けることがある
→サバイバル技術を学び始める最高のタイミングは「事が起こる前」

・1953年の英軍サバイバルガイドから
→極限状態に生き残るために不可欠な要素は、自己保存本能と適切なレベルの訓練

・他の近代軍隊も大半は野外生活技術と応急処置の履修が基礎訓練の必須科目になっている
→その後に派遣先(北極圏やジャングルなど)に応じた専門的な知識と技術訓練が必要となる


・・・


そう、災害時のサバイバルには、備えはもちろん知識と技術と訓練も大切なんですね
なので今後もわたくし、キャンプ宴会を繰り返して訓練を続けることにします

氷が切れても、いかにして冷たいビールを飲み続け、冷たい素麺を食べ続けるかとか、
はたまた燃料が切れても、いかにして美味しい焼き肉や鍋料理を・・・ぷつん




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